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    でぃる

    @d_i_l_l_

    オペラオムニアの世界で過ごすアーロンさんを書きたい小説置き場です。アップした順に読むのが良いと思います。ジェクアー要素ありはワンクッション。

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    でぃる

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    (2022/07/27)
    みんなで海水浴をしているところを眺めているアーロンさんをテーマにブラスカ様の視点で書きました。

    海水浴「アーロン、寝てるのかい?」
    「…今起きようと思っていたところだ」
    焼け付くような日差しを遮るパラソルの下で、レジャーシートに寝転がった男に声をかければ、低い声で返事があった。
    読み途中らしい本を開いたまま顔の上に乗せており、本の下からは尻尾のようにまとめた髪が飛び出ている。
    普段は革鎧だの赤い羽織だのを着込んでいるが、今日のアーロンは海水浴ということで紺色の水着に赤いアロハシャツという軽装であった。本人の趣味ではなさそうなこの服装は大方この男が世話を焼いている親子のどちらか、いや両方がさせているに違いない。
    本を閉じてから、アーロンはのっそりと起き上がった。
    「君は泳がないの?」
    「子供たちに混ざってはしゃぐ元気はないな」
    「ジェクトははしゃいでるけど?」
    指差せば、10代の若者に混ざり、同い年の男が楽しそうにボールを蹴り上げているところであった。
    「はは、あいつも後で埋めてやろうか」
    手前ではワッカが砂に埋められており、アーロンはそれを見て笑っているようである。
    そしてまた水中で息子とボールを投げ合うジェクトに視線を戻し、いつものように穏やかな笑みを浮かべていた。
    「…息子と、海で遊べるのが嬉しいんだろうな」
    その表情は、いつだって遠巻きに親子を見ている時に浮かべるものだと、ブラスカには分かっていた。
    「君はティーダを海に連れて行ったかい?」
    「ああ…せがまれれば連れて行ってやったが…あの頃既に俺よりも泳ぎが上手かった」
    夢のザナルカンドでの暮らしを聴くのは好きだった。自分の知らないアーロンがそこに居てとても興味深かったし、ベベルに拾われてきた子供の頃から愛しんだアーロンの成長を感じ取れるからだ。
    「ジェクトがよく連れてってやってたみたいでな」
    「ベベルはあの通り海水浴には縁がなかったからね、ユウナと海で遊んだことがないんだ」
    「混ざってくればどうだ?」
    さして難しいことじゃないかのようにアーロンが言うので、ブラスカは苦笑せざるを得ない。水着姿の年頃の娘と気軽に水遊びをするのはどうにも気が引ける。
    「それは流石に…なかなか難しい。息子とはいえ、ジェクトはすごいと思うよ、自然に溶け込んでいる」
    ちらりと見れば、いつの間にかワッカも混ざってみんなでボールのパスをし合っている。もちろんユウナも、それから保護者として目のやりどころに困る際どい水着姿のルールーも一緒だが、ジェクトの馴染み方はあまりにも普通で、一切のオヤジ臭さを感じさせなかった。ザナルカンド時代にファンサービスでもしていたのだろう、ちゃんと女性でも取れるように調整したパスを投げているあたりもまた、手慣れているしスマートだ。
    「旅の間、いろんな村でもそうだった。ジェクトの人懐っこさには何度も救われたよ、子供たちに慕われるガードっていうのはわたしも鼻が高かったしね」
    思い出を語れば、アーロンが目を細める。寝るためにサングラスは外されたままで、今もそっとタオルの上に置かれていた。
    「懐かしいね、あの旅は本当に楽しかった」
    「ああ」
    二人でそんな話をしながら、青い空に白い入道雲が浮ぶ水平線を背景に遊ぶ仲間たちを見た。
    徐に背後の荷物を漁ったアーロンが、煙草を取り出して、その茶色い隻眼で問いかけるように見つめてくる。煙草を吸ってもいいか、という事だろう。ブラスカが笑顔で頷けば、またいつもの銀のライターで火をつけた。
    「それにしても暑いね」
    細く長く煙を吐きながら、アーロンが頷く。その額には玉の汗が浮いていた。
    「冷房の効いた飛空艇の中にいた方が良かったかもしれんな」
    海風は意外と速く、煙はほとんどこちらにくる事なく散っていく。相変わらず美味そうに吸うな、とブラスカは思った。
    波の音が一定のリズムで響く中、ゆったりとしたアーロンの呼吸音がまた別のリズムを刻む。同い年になったアーロンを実感するのは、ブラスカにとってこの世界の楽しみの一つだった。
    ブラスカがそんなことを考えていることに気付いていないだろうアーロンは、やがて携帯灰皿に煙草を捩じ込むと、立ち上がる。すぐ背後にあった大きなクーラーボックスに向かうと、中から缶ビールを取り出した。
    「ブラスカも飲むか?」
    「いいね、一本頂こう」
    渡されたビールはよく冷えており、真夏の海辺では極上の飲み物のようだ。プシュ、とプルトップを開く音が小気味よく響く。
    喉越しの良い炭酸と程よいアルコールで喉を潤した瞬間、海の方からずぶ濡れの男が日光を存分に浴びながらずんずん歩いてくるのが見えた。
    焼け付くような日差しがよく似合うジェクトは、まさしく夏の塊のような男だとブラスカは思った。
    「いいもん飲んでんじゃん!」
    「少し待っていろ。あんたの分もあるから」
    そう言いながらまずはジェクトの肩に大判のタオルをかけてやっている。甲斐甲斐しいことこの上ない。
    その様子はあの旅の間なんだかんだ言いながらもジェクトに世話を焼いていた若かりし頃のアーロンを思い出させる。見た目が変わっても、中身が変わっていないことにブラスカはただ満足気に微笑んでいた。
    「これちょーだい」
    「あっ、おい…はぁ、もう半分ぐらいしか入ってないぞ…」
    その間にもアーロンの持つ缶ビールを奪ったジェクトが、残りを全て飲み干している。
    「ぷは〜っ!やっぱ砂浜で飲むビールは最高だな!」
    喉も乾いていたのだろうが、ジェクトはいつもアーロンを構って居たいに違いない。その気持ちは少し分かる気がした。
    「本当に君たちは仲良しだね」
    「そうか?」
    思わずそうを声をかければ、無自覚なのかキョトンとした顔でアーロンが問いかけてくる。こういう無防備なところが自分やジェクトが構い倒したくなる原因だということを、この男は10年経っても学ぶことができないらしい。
    「俺様ちょっと疲れた、休ませて」
    「おい濡れたまま乗り上げてくるな」
    「いいじゃんおめぇも水着なんだし」
    渡されたタオルでざっと髪を拭っただけのジェクトが水滴をこぼしながらレジャーシートの上に乗り上げてくる。
    それから当たり前のようにアーロンの膝に頭を乗せて、ごろりと横になった。
    「はー、ガキの相手ってのは疲れんなぁ」
    「相手をしてもらってる、の間違いじゃないか?」
    「うっせーな、この俺が遊んでやってんだよ」
    当たり前のように膝枕をしながら会話が進んでいくことに、この二人は違和感を持たないのだろうか。
    少なくとも、本人たちはいつも通りという体で話していた。二人きりの旅はどんな様子だったのだと勘繰りたくもなる、とブラスカは思った。
    「君たちさぁ…ただでさえ暑いんだから、イチャイチャされると余計に暑苦しいよ」
    大袈裟にため息をつくフリをしながら指摘してやれば、流石に自覚したのか慌て出すアーロンはいつも面白い。開き直って仲良しだって言ってくれたところで今更問題ないのに、取り繕おうとする姿が微笑ましいのだ。
    10年間ずっと会いたかった友なのだから、多少の距離感ぐらい誰も気にしないだろう。それに自分達は、元の世界に帰ったところで、もう死んでいるのだから。
    「勘弁してくれ、そんなんじゃないぞブラスカ…。ほらさっさと起きんか」
    「イテッ、蹴り落とすなよ!」
    ジェクトの頭を乱暴に蹴り落とすその姿は本当に10年前を彷彿とさせた。意志の力でなんでもありのこの世界だ、誰かが願えばあの頃の姿にも戻れるのではないか。ブラスカがそんなことを考えていると、ジェクトが突然立ち上がり、頭がパラソルに盛大にぶつかった。
    だが、そんなこと気にもしないのか、アーロンに手を差し伸べて大きな声で言うのだった。
    「つーか、アーロン全然泳いでねーじゃん!行こうぜ!」
    「疲れてたんじゃないのか?」
    「もう回復したぜ、ほらガキも呼んでっぞ?」
    「あーもう…」
    ジェクトが指差す方を見れば、確かにティーダが大きく手を広げてこちらを呼んでいるようだった。
    仕方ないとばかりに立ち上がったアーロンが、近くに転がっていたサングラスの砂を払い身につける。
    麦わら帽子を手渡せば、小さな礼と共にそれを被る姿があの頃とは違う気がした。あのままずっとスピラにいたならばこんな格好、多分してくれなかったに違いない。
    「はは、いってらっしゃい」
    二人を見送りながら、その並んだ後ろ姿を見るのは好きだった。自分が結び合わせた縁だからだ、仲良くしてくれるのは本当に嬉しい。
    あの旅の直前、囚われていたジェクトを同行させたのは確かにブラスカの気まぐれだった。だけど、召喚士の旅を共にした者同士にしか分かり合えない思いを共有できる唯一無二の友になって欲しかったのは、一人残すはずだったアーロンを思ってのことだったのだ。
    だからどうか、この世界が終わっても特別な思い出を共有できる親友として末長く仲良くしてくれたら良いと、ブラスカは思う。
    そう思いながら抜けるように青い空を背景に、入れ替わりでこちらに向かってくる娘のために、冷えたジュースを一本クーラーボックスから取り出した。
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