恋は戦争 初恋は実らないらしい。以前藍良が教えてくれた言葉が、こはくの脳裏を掠める。あの時はジンクスも色々あるものだと感心したが、まさか己が身をもってジンクスが正しいと証明することになるとは思わなかった。
思わず俯きそうになるのを堪えて、グッと男の顔を見上げる。どんな状況であれ、目の前にいるのは好いた相手。ここで格好悪いところを見せるのは、こはくの矜持が許さない。例えその相手が、珍しく少し困惑した瞳をしていたとしても、だ。
「こはくちゃん、多分それは年上に対する憧れを勘違いしてるだけっしょ。」
口を噤んだままだった男が、無慈悲にも言葉を紡ぐ。口調はいつも通りだが、普段の茶化すような雰囲気はそこには無い。あくまで冷静に、諭すような響きを持って告げられた言葉が、こはくへの答えだった。
1930