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    syoh_fdd23

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    syoh_fdd23

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    9月6日〜7日類司WEBオンリー『feel it's carnival !』の展示作品です。
    黒百合×白百合 (イベントありがとうございました〜)

    ぬくもりの花園黒と白の百合が咲き誇る咲く邸宅の中の小さな温室。そこは黒百合の当主であるルイのお気に入りの場所であった。
    手ずから水をやり、時には手入れをする。使用人に世話を任せることはしない。何故ならこの場所はルイとその番である、白百合のツカサだけの花園だからだ。



    「ツカサくん……」
    ルイ以外誰もいない温室に小さく呟きが落ちる。
    その場所でルイが考えるのは、最近のツカサの様子だった。彼はとても素直な人物で、嘘をついたり誤魔化したりするのが下手である。
    そんなツカサが数日前から頻繁に街へ行き、何かをしては屋敷へ帰ってくるようになった。

    真っ先に考えたのは、ツカサが何かに巻き込まれている事態が起きているということ。
    けれど何か思い悩んだ雰囲気はなく、何かトラブルがあれば共有するように『約束』したため違うのであろう。
    次に思い至ったのは、何か欲しいものがあってそれを探している可能性。
    これについては使用人に「白百合が何か欲しがっていないか」を尋ねるよう指示をしたが、自分用に何か欲しいわけではなさそうだという答えが返ってきてしまった。
    ルイ自身これが理由だと半ば確信していたため、一気に暗闇の中へ突き落とされた気持ちになる。


    そうして最後の可能性――ツカサの意思で、誰かと懇意にしているのではないかという疑念。
    元々白百合の一族は他者から好かれやすいという性質がある。しかしそれを差し引いてもツカサという個人は愛されやすく、本人もその愛を返す人物なので勘違いをする輩だって現れやすい。
    「……」
    そこまで考えて目の奥が熱くなる感覚に思わずぐ、と目を瞑る。
    無理強いはしたくはない。大切に思っているから尚更。
    けれど番という結びつきがあってなお、拭いきれないもどかしさに感情が暴れそうになってしまう。

    「ツカサくん、どこに」
    僕を置いてどこに行こうとしているんだい?




    「ルイ?」

    そんなルイの鼓膜を震わせたのは求めていた声だった。
    勢いよく振り向けば純白の服を纏う、愛しい片割れがきょとん、とした表情でこちらを見ている。
    「ツカサくん……いつの間に帰ってきていたんだい」
    「ついさっきだ。用事が終わってな、お前がここにいるって聞いたんだ」
    外出時の服装そのまま温室に直行したのだろう。いつも身なりに気をつけている彼らしからぬ行動に、またルイの心が少しざわついた。


    「お前がオレのノックにも気づかないとは、珍しいこともあるな」
    楽しそうな声音のまま、そっと黒百合の花弁にツカサは指を寄せて静かに撫でる。
    その光景にルイは思わず手を取ってしまった。

    「そうだよ。君のことを考えてた。最近よく街に出かけてるけど、何か変なことに巻き込まれているのか、とか。探しているものがあるなら僕にも教えて欲しい、とか」

    「……僕以外にも心を寄せる誰かがいるのかな、とか……」

    口から出てきた言葉は、止めることができなかった。ツカサの前では穏やかでいたいのに、うまく感情がコントロールできない。
    大好きで大切だから彼の行動や思考は自由であって欲しいのに、同じはずの心で他の誰かと想いを通じ合わせて欲しくないと願ってしまう。
    混乱するルイはツカサの顔を見ることができず、そのまま俯いた。



    「顔を上げろ、ルイ」
    呆れを含んだ声に、ルイは恐る恐るツカサの顔を見る。けれどその表情に怒りはなく、困惑の中に申し訳なさがあるように感じられた。

    「その、言われてみればお前の言う通りだった。いくら番だといえ、何も言わずにあちこち出かけていれば不安にも思うのはそうだ」
    すまなかった、と謝るツカサは「だが」と言葉を繋げる。
    「どうしてもお前と、屋敷の人には言えなかったんだ。みんながお前を騙すようなことがあってはいけないと思った」

    その時、安堵からかルイの視界が広がったように思えた。それと同時にツカサが後ろ手に何かを持っていることにも気づく。
    「ツカサくん、それは」
    「……誕生日でもないし、何かの記念日でもないが」
    丁寧に包装された小さな箱。どこかの工房の名前だろうか、片隅に見慣れない名が書かれている。

    「家から宝石が届けられたんだ。オレとお前の髪の色で、好きなように加工をしなさいとメッセージがあった」
    開けてみてくれ、と促されてリボンを解き箱を開ける。
    そこには一対の美しい輝きを放つ、アメシストのピアスが眠っていた。
    「綺麗だ……」
    「あぁ、腕のいい職人を紹介してもらったんだ。お前を驚かせたくて、先に作ってもらったんだ。それもあって誤解させてしまったが」
    「でもツカサくん、欲しいものは特にないって言ってたみたいじゃないか。それは嘘だったのかい?」
    「いろんな人に聞かれたのはお前が原因だったのか!何か変な態度をしてしまったのではないかと不安になったではないか!」
    ツカサもツカサで不安に思っていたのか、わっ、と声をあげる。それがなんだかおかしくて、ルイは思わず笑ってしまった。

    「――なんだか納得ができてしまったよ。確かに君自身が欲しいものはなかったんだね。僕に渡してくれるものだから、答えはノーになってしまうのか」
    「そうだ。それにしたって、少し――」

    その先の言葉は、空気に消えてしまった。少しの沈黙の後、ぷは、と小さく息をする目の前の番にルイの感情は徐々に昂ってくる。
    「ありがとう、ツカサくん。僕の愛しいリリィ。これは絶対に無くさないように、宝箱に厳重に保管するね」
    「身につけて欲しくてピアスにしたのに、何故仕舞い込もうとするんだ!」
    「無くしたらどうするんだい、僕は正気でいられる自信がないよ」
    「オレも一緒に探せばいいだろう!二人でなら絶対に見つけられるに決まっている」

    自信満々のツカサにルイも「そうだね」と頷いて再びプレゼントを見る。そうしてぐるり、と辺りを見渡して目についた一本の黒百合の花弁を手折った。
    「君がこんな素敵なプレゼントをくれたのに、僕が今この瞬間何も渡せないのは心苦しいからね」
    パチン、と指を鳴らせば生花であったそれはまるで硝子のように変化する。それを目の当たりにしたツカサからは驚きの声が上がった。

    「はい、この花を君にプレゼントするよ。部屋にでも飾ってくれると嬉しいな。……君の宝石はどういうアクセサリーにするか、よければ僕と一緒に考えよう」
    「む、オレも一緒に考えていいのか?」
    「もちろんさ。サプライズは素敵なことだけど、二人で意見をすり合わせて一つのものを作り上げるのもまたいいものだからね」


    互いの空いている手と手を繋ぎ、静かな花園で見つめ合う。
    「それもそうだな」と柔らかく笑むツカサにルイもまた微笑んで、再び口づけをしようと背を屈めた。



    End
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