窓の外でぱたぱたと足音がすると、ああ朝が来たと思うようになった。
はじめのうちは常に人の気配があることに慣れなかったし、積極的に人と顔を合わせたいと思うようなこともなかったから、朝だからといって扉の外に出て行く気もなかった。予想外だったのは、ここの連中は人も魔法使いも、自分を放っておいてくれる人ばかりではなかったことだ。
魔法舎での共同生活を提案した中央の快活な男は、頼みもしないのに毎朝扉をノックしてファウストを連れ出した。そういう関わられかたは煩わしく思われそうなものを、不思議とカインには鬱陶しさのような感情が湧き上がることも少なく、渋々とはいえ扉を開けてしまう。引きこもりのファウストを連れ出す理由はまちまちだったが、そのうちのひとつが「朝食にガレットが出る」というものだった。
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