神様が降りてくる夜 犬の散歩をしていると、少し先の道に男性が倒れているのが見えた。
「大丈夫ですか」
声を掛けたが反応がない。
「おい、じいさん!」
揺すらずに声だけを掛ける。
「う、うう…」
良かった、無事か。
「大丈夫ですか、どこか痛んだり具合が悪くは?」
「いえ…すみません、大丈夫です」
身なりがいいとはお世辞にも言えない、若干饐えた臭いが漂うボサボサの髪の毛の痩せた老人は、それでもどこか紳士的で話す言葉の端々にも知性があった。
事業が失敗し家族とも離散しホームレスになったが、風の噂で彼の妻だった女性が亡くなったらしい。その墓標に花を供えたくて歩いて向かっているのだと言う。
「場所はどこなんですか」
「フロリダです」
「フロリダ!?歩いて行こうだなんて正気じゃない、せめてヒッチハイクをしてはどうです?危険はありますが」
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