無謬の恋と寿司吐き病の顛末について 魔法舎の部屋の床に寝転がりながら、一体シノはどうしてここにいるのだろうと、フローリングの溝を見た。
まっすぐ、まっすぐ。
硬い板の上に寝転がることで生じるかすかな痛みから、自分の体がそこにあるという証拠が揃う。軋むような感触が関節を鈍らせるのに、油を挿そうなんて気には到底なれなかった。肉体は結晶化したように動かず、なのに肺は勝手に膨らむ。どうしてだろう、と思った。行動を起こす、ことの意味がまるで分からない。
ふいに。
普段は考えない、生命の意味を考える。
机の下でくるくると回る埃を見て、それとはなんの因果もなく、鎖骨に爪を立てた。痒くもないのに強く掻く。起き上がって叫んで暴れて燃えたいのに、そうするだけの理由はない。二階の窓から魔法も使わず飛び降りて地面に叩きつけられたいのに、それをしたあとでどうしてそんなことしたのとヒースに尋ねられたら答えられるだけの言葉がシノの中にはない。
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