その宝石は森の中 その日ヒースクリフの部屋に立ち入ったシノが見つけたのは、リングケースの中で花咲くように綻んでいる、白い宝石を戴いた指輪だった。近づいてまじまじと眺めれば、地金には繊細な掘り模様が施されている。誰の手によるものか、シノには一目で分かった。製作者がこれを誰に渡すつもりなのかも。
最近よくブランシェットの屋敷に出入りしている、年若い女性。ヒースクリフが彼女の来訪を落ち着かない様子で待っているところをシノは何回も目撃している。そして彼女が来ると、二人は屋敷の奥に引っ込んでしまうのだ。
今まで色恋沙汰など一切なかった人見知りのお坊ちゃんに、懇意にする人が遂にできたのであれば。それはシノにとって願ってもいないことだった。心から祝福し、背中を叩いて、さすが俺の主君だと声をかけてやらなければならない。
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