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    ゆき📚

    ひっそりと文字書きしてる

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    ゆき📚

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    【血界】【On the party On the party】Ⅱ 恋は熱いうちに押して行けッ編
    恋の話という事で恋と言ったらあのお方
    全体的に好きなように書いています。キャラが崩れている感じは相も変わらずです。
    後半、ベッドの上でひと悶着してますがやらしいとかそういうんじゃまったくございません
    諸々の雑さも相も変わらず
    大丈夫、どんなものでもどんとこい!という方よかったら読んでやってください

    ##BBB
    ##STLO
    #雰囲気小説
    atmosphericNovel

    【On the party On the party】Ⅱ 恋は熱いうちに押して行けッ編 「好きです」
     そう言えて本当に嬉しかった。そう思えるのは相手も自分と同じ思いだったから
     そう、いわゆる両想いというやつだ。
     …両想い、なんだよな?僕達
     スティーブンの心が晴れから曇りへと変わっていくまで一週間の時が経っていた。
     
     【On the party On the party】恋は熱いうちに押して行けッ編
     
     「あれ?レオナルド君帰るんですか?」
     某月某日、午後四時―
     ライブラ事務所内にてツェッド・オブライエンは事務所から出ていこうとするレオナルド・ウォッチに声をかけた。
     「あぁ、いや今日は今からバイトの面接に」
     「え、またバイト増やすんですか?」
     ツェッドは驚いた様子を見せた後心配するようなまなざしをレオナルドに向けた。それに気づいたレオナルドは「いやいや、そうじゃなくて」と首を振って否定した。
     「実は前にバイトしてた所の代わりを探してて」
     「そうなんですか」
     「いやぁあそこもそれなりにいいバイト場所だったんですけど異界人同士の喧嘩の巻き添えで店ごと無くなっちゃって」
     「それは、なんというか」
     乾いた笑いで端的に事情を話したレオナルドにツェッドは言葉静かにご愁傷様ですと付け足した。
     「まぁ家も壊されたりしてますからこれくらいはしょうがないっすよ。でも今日の面接うまくいったらそこより時給ちょっといいんで頑張りますッ」
     ぐっと拳を握って見せたレオナルドにツェッドは「応援してます」と声をかけた。
     「ありがとうございます。それじゃあ行ってきますッ!」
     そう言って手を振りながら事務所を去っていったレオナルドの姿を最後まで見届けていたスティーブン・A・スターフェイズは見えなくなった姿にため息をはいた。
     「大丈夫か?スティーブン」
     「え?」
     いつの間にか自分の横に立っていた男―クラウス・V・ラインヘルツの視線と自分のため息を聞かれてしまった事にスティーブンは苦笑いした。
     「お疲れかな」
     「まぁな。君もだろ」
     「うむ。だが君は今、疲れというより心配のほうでため息をついたのではないかと」
     クラウスの言葉に内心どきりとしていると
     「以前から時折話題には上がったりしていたがやはりレオナルド君は少々働きすぎだとは思わないか?彼の現状を考慮して今一度しっかりと話し合いをしてみたほうが―」
     どうだろうかと。自分に意見を求めるクラウスの純粋に部下を心配している眼差しがまぶしくてスティーブンは目を細めた。
     「まぁ、今回はバイトの数が増えたわけじゃないし今日だってちゃんと新しいバイトの面接受けるって報告してくれてるし、もう少し様子見してもいいんじゃないかな。彼も僕達に迷惑をかけようなんて思ってないだろうし」
     「うむ、そうだな。あまり出しゃばりすぎてもよくない」
     「少年にも少年の生活があるからね。まッ面接が受かるかどうか今日中にわかるって言ってたから連絡もらった時にちょっと助言しておくよ」
     「ありがとう。スティーブン」
     「なんのなんの」
     ほんの少し安心したような面持ちを見せたクラウスに、にこりと微笑みながらスティーブンの心中は穏やかではなかった。
     
     ※
     
     一週間前
     パーティの喧騒から少しだけ遮断されたバルコニーにて夜風に頬を撫でられながらスティーブンとレオナルドは互いに好きだと伝えあった。
     その翌日、事務所で二人きりになった時を見計らってスティーブンはレオナルドに声をかけた。
     「昨日の事、覚えてる?」
     その言葉にぼんやりとした表情のまま自分を見上げるレオナルドにまさか本当に二日酔いで記憶が無いんじゃ…と焦っていると
     「泣くスティーブンさんは見れませんでしたね」
     頬を赤く染めながら恥ずかしそうにはにかんでそう答えたレオナルドにスティーブンは自分の視界がぱぁっときらめく感覚を覚えた。
     晴れて両想いになったのだとスティーブンは嬉しさでいっぱいになったが徐々にその喜びが疑問で埋まっていった。
     
     簡潔に言えば、告白前と後でこれといった変化がなかったのである。

     いや、まぁ言うて経って一週間だし。自分のやっている仕事柄なかなか自由な時間がとれないという事もあるけれど、それでも、それでもだ。
     なんか、ちょっと変わった事あってもいいんじゃないかッ!?
     オフィスラブとは言わないけれどこう、なんていうのかな視線が合ったらこっそり笑顔を見せ合ったり、二人っきりになったらちょっといちゃいちゃしてみたりとかさぁ
     むしろ二人っきりの時間を作ってみちゃったりとかさぁ
     ティーンかッティーンなのかッお前はいや大人だ!僕は大人だッ!
     自分で考えておきながら自分自身のあまりな思考にスティーブンはセルフツッコみを入れた。
     
     現実は仕事関係での事で会話を交わしたり、昼食も二人きりというのは無く、雑談するにもまた同じく…
     向こうは向こうで大抵はザップかツェッドとゲームの話をしているし、職場がダメならせめて帰りを送ってあげよう。短いドライブデートだと誘える時に誘ったが、バイトや他の用事に邪魔されて
     それでもやっと時間が取れて少年を家まで送ってあげる事ができたのが六日目の出来事で
     少し遠回りして帰ろうかと思ったがレオナルドが親切にも自らナビゲーションをしてくれて
     そしてスティーブン自身もいざやってきたチャンスに想像以上に緊張している自分に戸惑って、結局これといって何をしたというわけでもなく

     「ここに停めてもらったら大丈夫っすよ」
     レオナルドの言葉に減速して停車するとシートベルトを外してそそくさと車から出ていこうとするレオナルドにスティーブンは思わずぱしっと彼の腕を掴んだ。
     「ッどうしました?」
     急に腕を取られたレオナルドは驚いた様子でスティーブンを見つめて
     「いや、ごめん…なぁレオ」
     「はい?」
     「その、ちゃんと休むんだよ。何かあったらいつでも電話してきていいから」
     「ありがとうございます」
     「夜中とかでも全然大丈夫だから」
     スティーブンの言葉にレオナルドはぽかんとした表情をしていたがすぐに微笑んで「はい」と返事をすると
     「スティーブンさんこそ今日は珍しく早めに帰れたんですからゆっくり休んでくださいね」
     そう言ってレオナルドは車から出るとひょこっと窓から顔をのぞかせるように体をくの字に曲げて
     「今日はありがとうございました。スティーブンさんの車に乗れて嬉しかったです。良い夢を」
     「…あぁ、君も」
     
     送り届けた後一人になった車内、赤信号で停車したスティーブンはハンドルに顔をつっぷして大きなため息をはいた。
     「何やってんだ僕は」
     本当はもっとスマートに彼と二人きりの時間を過ごしたいのにいざその瞬間がやってくるとどうしたものかと慌ててしまって思うように動けない。
     せっかくの二人きりの時間だったのに
     「あーキスしたかったぁ…」
     思わず出た欲望にアウトを知らせるように後方からクラクションの音が鳴り響いた。信号はすっかり青に変わっていた。

     ※
     
     ハローミシェーラ
     元気にしていますか?兄ちゃんは元気です。
     相変わらずこの街は異常が日常で、先日兄ちゃんがバイトしてた店が異界人同士の喧嘩で一晩ですっかり消えてしまいました。つまり兄ちゃんはバイト先を物理的に失ってしまったわけです。びっくりだよねー
     でもすぐに面接をしてくれるよさそうなバイト先を見つけて兄ちゃんはまさに今日、そこへ向かっている所でした。
     そう、兄ちゃんは

     レオナルド・ウォッチは大事なバイト面接を受ける為スクーターで車道を走っていた。
     そして気が付くと視界は暗転し、そしてそしてまた気が付いた時には
     「あらぁ~?誰かと思ったら義眼のボウヤじゃな~い?」
     「……ア、アリギュラさんッ!?」
     「ひっさしぶり~」
     にひっとした笑みを見せる彼女―偏執王・アリギュラの姿にレオナルドはひくりと頬を引きつらせた後
     「なんでだァァァ!?」
     至極まっとうな叫びをあげた。

     ※
     
     うす暗く、場所もどこだか一切わからないそこでレオナルドは椅子に座らされており手首足首はそれぞれに動けないように拘束されている状態だった。
     椅子の前には大きな円形のテーブルに真っ白で皺ひとつないシーツが掛けられておりそこに大きな燭台がひとつ。ろうそくの明かりがゆらゆらと揺れていた。
     「うーん、なかなかの暗さねぇ」
     「ここどこなんすかぁ」
     「どのくらいぶり~?なんかぁ姿はちょこちょこ見てるような気がするけどぉこうして話すの懐かしいわよね~」
     「話聞いてくださいよ~」
     「何よ~せっかくの再会なのにあんたいつからそんなに無愛想になっちゃったの~?」
     「オレ今日は大事なバイトの面接があるんすよぉ」
     すでに半泣きに状態になっているレオナルドにアリギュラは我関せずという感じで
     「無視しちゃいなさいよ。そんなの」
     「そんな簡単に言わないでくださいッ本当に大事な面接なんです!せっかく見つけた優良なバイト先なんですッ」
     「私そんなの知らなーい。落とし穴に落っこちちゃったボウヤがいけないのよ~」
     「ここ落とし穴なんすか?!」
     「そうよ~でもただの落とし穴じゃないわ~この落とし穴は私特性の超画期的で超暇つぶしに最適な落とし穴なの~その名もフォーリンラブフォール!」
     決してセンスは感じられない名前だ。
     レオナルドは心の中で思った。
     「この落とし穴はねぇ~ここ最近告白したもしくはされた者が落ちるように設定した落とし穴なの~それでぇ落ちた者の気持ちに反映して穴の場所も暗さも変わるのよん。暗ければ暗いほどぞっこんな恋をしているって仕様にしてみたの~」
     そう言って楽し気にキャーっと悲鳴を上げるアリギュラにレオナルドはだらだらと冷や汗を流した。
     「あの、つまり…」
     「ボウヤがぁここ最近告白した、もしくはされた事は丸わかり~」
     そう言うとすーっと手をゆっくり上げて腕を水平に伸ばすとレオナルドを指さして
     「恋バナするわよ~ボウヤ!!」
     
     ※
     
     「うぅ…俺のバイトぉ…」
     さめざめと落ち込むレオナルドにアリギュラはじゃかしいと言わんばかりにぺちりとほっぺたを叩くとぐいぐいと指でつついた。
     「何よぉ恋バナよりも大事なバイトがあるわけないでしょ」
     「俺にとっては死活問題ですよッ」
     「私も暇で死にそうなの~ッ恋バナしたいの~」
     そう言って床をごろごろと転げまわって騒ぐアリギュラにどうせこの人は自分が満足しないと帰してくれないんだから諦めなければとレオナルドは思ったが、惜しい気持ちはすぐには無くならず

     「こ・い・ば・なァ~」
     「…わっかりましたッわかりましたからッ」
     レオナルドの言葉にアリギュラはしゅたっと体と起こすとテーブルに座ってレオナルドにさっそく話せと無言の圧力をかけてきた。
     「まぁ…あの、前から気になるなぁって人に、その…勢いで告白しました」
     「ボウヤが?やーんッ素敵~!それっていつの事?」
     「一週間前、ですかね」
     「やーんッどんな状況だったのぉていうか結果はどうだったのぉー?」
     「いやまぁ、向こうもその、好きとは言ってくれましたけど」
     「両想いじゃなぁ~いッ」
     そう言ってほっぺを手のひらで包むようにはさみながらそして足をばたつかせながらキャーキャーと騒ぐアリギュラの姿を見ながらレオナルドはいざ他人に話すとこんなにも恥ずかしいものなのか恋バナは、いやめっちゃ恥ずかしいんですけどもう帰してくれぇッと心の中で叫んでいた。
     「告白してから一週間かぁ付き合いたてほやほやじゃな~いあっつあつ~」
     「え?いや、付き合ってはいませんよ」
     「‥‥‥‥は?」
     急にやってきた静けさに自分の発言がよろしくないものだったと気づいても後の祭り
     レオナルドは再びひくりと頬を引きつらせた。

     「どういう事?」
     「え、え…」
     「告白したんでしょ?」
     「はい」
     「相手もあんたの事好きって言ったんでしょ?」
     「…はい」
     「両想いになって今日で一週間」
     「…はい」
     「その間、相手と何した?」
     「何って」

     事務所に行って、仕事の話して、あの人の邪魔しないようにしながら、でも時々雑談なんかもしたりして
     
     「これと言って変わりない日常を」
     「あ、り、え、なーいッ!」
     耳の奥がキーンとする程そう叫んだアリギュラは憤慨の様を隠さずに乗っていたテーブルから飛び降りるとレオナルドが座っている椅子を足で乱暴に動かして自分と向き合うようにすると腕組み仁王立ちスタイルでレオナルドを見下ろした。
     「あんたさぁこの一週間どぶに捨ててたの?何もしてないって何?これと言って変わりない日常を過ごしてたですってぇ?」
     「いや、あの…」
     何?なんでこんなに責められてるの?
     そう思いながらレオナルドは心の中で悲鳴をあげた。
     「七日よ!七日間もなーんにも無かったって。あんたねぇ私言ったわよね?恋愛は、押して・押して・押しまくれー!って。だいたい相手からなんか言われたりとかしなかったの?思い返してみなさいよ。あんたがその瞬間気づいてないだけかもしれない可能性もあるからぁ」
     「そんな事言われても」
     「なに?相手に遊ばれてんの?」
     「いやそれは無いと思いますけど」
     こういう事をふざけ半分で、あの人は答えるとは思えない。
     レオナルドはそんな風に思いながらあの時の事を思い出す
     
     あの時のあの人は
     あの、表情は

     『僕も、好き…です』
     
     「――好きって言ってもらえて嬉しかったです。でも相手と自分の好きっておんなじ意味合いなのかな…なんか違った時の事考えると好きだって言ってもらえただけでもう充分幸せって言うか」
     「甘ったれてんじゃないわよ!!」
     「ぶべばッ」
     思いっきりビンタされたレオナルドは情けない声を出した。
     「好きって言ってくれたから満足ですって?甘い甘いわ!考えがッ!甘くていいのはスイーツと恋だけって相場は決まってんのよッそんな甘さは欲しくないのッ私が欲しいのは本気で本気の恋による甘酸っぱい話なのッ!!あんた本気で恋しなさいよ!!」
     レオナルドは頬にヒリヒリとした痛みを感じながら「もぉ帰してくださぁい」と改めて言ってうなだれた。
     「えぇ、帰すわよ」
     アリギュラの言葉にレオナルドは「本当ですかッ」とぱっと顔を上げる。
     すぐそばにアリギュラのにひぃと口角を上げた表情が視界いっぱいにあって
     「でもぉただでは帰さないわよん」
     そう言ってレオナルドの額中央に「えぃッ」と言いながらぺたりと何かを貼り付けた。
     「私からのプレゼント付で帰らせるわぁ~アフターサービスもちょこっとつけてね♪」
     その言葉が最後、レオナルドの視界は暗転した。
     
     ※
     
     目を開けると見た事の無い天井が見え、しばしぼんやりとしたままそれを見ていたが不意に頭の中に記憶が流れてレオナルドは慌てて上体を起こした。
     「起きたか、少年」
     「ぎゃーッ!」
     「落ち着け少年」
     「え、あれ?スティーブンさん…?」
     声がしたほうへとレオナルドは視線を向けると離れた場所に立っているスティーブンの姿を確認し、無意識に安心した。
     「ここは?」
     「僕の家、でここは僕の寝室」
     「え?」
     ひとりで寝るには大きなベッドの中央でレオナルドはきょろきょろと周りを見渡す。ベッド以外は大きな円柱型のサイドランプとサイドテーブルしかないシンプルな室内。
     そんなスティーブンの寝室に何故自分が、そのベッドで寝ていたのか。
     レオナルドは戸惑いを隠せず
     「あの、状況が…その」
     「かいつまんで説明しよう」
     スティーブンはそう言うとゆっくりとレオナルドに近寄ってベッドサイドに座った。
     その瞬間レオナルドは自分の体に違和感を覚えたがそれが何なのかわからず、また小さなものだったのでそんなに気にもせず
     「面接に行った君からの結果報告が遅いので支給していたGPSで君の居場所を確認してみるとロストしていてね。何か問題に巻き込まれたんじゃないかと皆で捜索を始めたのが十九時過ぎ。しばらくして君のGPSが復活し表示された場所はライブラ事務所近くの路地裏で見つけたのは僕だった。その時の事は覚えているかな?」
     スティーブンの問いかけにレオナルドは首を横に振って見せるとスティーブンは「そうか」と短く答えて話を続けた。
     「君を発見してすぐに、その場で僕に声をかけてきた人物がいた」
     「誰ですか?」
     「偏執王アリギュラだよ」
     スティーブンの言葉にレオナルドはさぁっと顔を青くした。
     「あ、あの…」
     「君、なんでも彼女の仕掛けた落とし穴に見事落ちたらしいな」
     「すいません」
     「責めてるわけじゃない。むしろせっかくの面接がダメになってしまって落ち込んでるのは君のほうだろう」
     「あの…彼女何か言ってましたか?」
     「何かって?」
     「いや―」
     聞けるわけない、落とし穴の中で話していた事をスティーブンさんは聞いたんでしょうかなんて。
     レオナルドはそう思いながら体がぼやぁっと熱くなるのを感じ、今は恥ずかしがっている状況じゃないのにと自分を律する。
     「言われたよ」
     スティーブンの言葉にレオナルドは「何を?」と反射的に聞き返した。
     「君に、プレゼントを贈ったと」
     「プレゼント?」
     予想外の言葉に、されどその言葉に、気を失う前アリギュラが自分の額に何かを張り付けたのを思い出しレオナルドは額に手をやった。
     「あの、なんか戻ってくる前におでこに何か張られたような気がしたんすけど触った感じは特に何もないんですが」
     「感触は無いだろうが今君が触れている部分には一種のまじないの札がくっついている」
     「まじないの、札?」
     「ご親切に彼女が説明してくれたよ」
     
     『彼につけたそれはねぇ、貼られたほうが好きな相手に対して心の中で蓋をしている願望を体現させようとする札なの。発動条件は貼られた人物の思い人と二人っきりになった時。まぁ軽いものだから全然命に別状はないけど~願望が叶わない限り、何かしらの症状で苦しめられたりする場合もあるみたい。願望が叶う予定が立てば症状は治まるけど五日以内にその予定をクリアしないとまた発症しちゃって~おんなじ事の繰り返しになるから~』
     
     「な、なん」
     なんだよその札ァ!?
     「念の為ルシアナ先生にも連絡して聞いてみたらこの札の存在を知っていてね。少し前から密かに出回っている代物らしい。大概は恋人同士が互いの愛を確かめる為に使ったりする一種のラブグッズだと」
     「ラブ、グッズって」
     レオナルドはふと自分の体が思っている以上に熱くなっている事に気づいてそしてある場所の違和感に一気に焦りを感じた。
     「彼女、偏執王はこうも言っていたよ」
     そんなレオナルドの様子を知ってか知らずかスティーブンはうっすらと微笑みながら
     
     『最近、彼告白して両想いになったらしいんだけど~付き合ってるわけじゃないってぇ言ってたからぁ私なりの応援よぉ~頑張ってねぇ~♪』
     
     「ッ!!」
     余計な事をッしかもよりによってこの人にッ!
     レオナルドは心の中でアリギュラに対して叫んでいるとベッドが静かに軋む感覚にそれがスティーブンが自分との距離を詰めたからだと気が付いた瞬間、自分の体がより熱くなるのをレオナルドは感じた。
     「その辺の諸々について一度ゆっくり君と話をしたい。レオナルド」

     「あの、あの、」
     「大丈夫。クラウス達には僕の所で様子を見るからとだけ伝えてある」
     そう言ってスティーブンはレオの手を握る。びくりと体を震わすレオナルドに眉をひそめたが、ふと触れた手の温度の熱さにスティーブンは驚いた。
     「君、熱があるのか?」
     「ちが」
     握られた手を離そうとするレオナルドの様子に察したスティーブンは「君、まさか」とこぼした後
     「今、札の効果があらわれているのか?」
     スティーブンの問いかけにレオナルドはかぁっと顔を赤くして勢いよく手をはらった。
     「ッ!」
     そのままシーツを頭からかぶるようにしてくるまるとレオナルドは「大丈夫です。すいません」とシーツ越しにくぐもった声を出した。
     「…レオナルド」
     「あの、本当に何から何までお世話になって申し訳ないんですけど、でも今日はこのまま休ましてください。一日休めば大丈夫ですから」
     丸まったシーツの中から聞こえるくぐもった声にスティーブンはその言葉を無視するようにベッドの上に乗ってシーツの塊に近づくと中からレオナルドを剥き出した。
     「ッ!や、やだッ!!」
     「落ち着けレオナルド。パニックになるな」
     「離して、離してください」
     抵抗するレオナルドをなんとか落ち着かせようとスティーブンは優しく声をかけるがじたばたと駄々をこねるように動いて。這うように自分から逃げようとするレオナルドの姿にスティーブンは思わず手首をつかんで押さえつけた。
     「や、やだッ」
     「レオナルド、深呼吸をしろ。君は今、術が発動してるからこんな状態になってるんだ」
     そう、術が
     そこでふとスティーブンは疑問が浮かんだ。

     この札は貼られた者の願望が体現されるとアリギュラは言っていた。
     思い人と二人っきりになった状態が発動条件だと
     それじゃあ
     今、こんな状態になっているレオナルドの願望とは―

     「…レオナルド、君の願望を教えてくれ。僕はもしかしたらそれを叶えられるかもしれない」
     スティーブンの言葉にびくりとレオナルドの背中が震えた。
     「僕の予想が合っていればだけど」
     そう言って手首をつかんでいた手をゆっくりと手の甲に這わすように合わせて指を絡ませると「ッァ」と小さな声が彼から漏れたのをスティーブンは聞き逃さなかった。
     自分の心拍がうるさい、息を上がりそうなのをごくりと唾を飲み込むことで抑え込む。
     「レオナルド―」
     「お願い、お願いします。離してください…」
     そう言って首をぶんぶんと振ってなおも自分から逃げようとする様子にスティーブンは自分の下にうつ伏せているレオナルドの体をぐるりと返し仰向けにさせた。
     赤面とはまさにこの事というような顔は視線を合わせる事を拒むように背けられ、ぎゅっと目を閉じながら唸るように逃げようとするレオナルドの姿にスティーブンは唇を噛んだ。
     「レオ、僕を見ろ」
     「んーッ」
     「君の願望が叶えば楽になるんだ。今の状態じゃ苦しいままだ。わかるだろ?」
     「やだ…いやです…離して…」
     「僕に触られるのがそんなに嫌なのかッ!?」
     叫ぶように出たスティーブンの言葉にレオナルドはびくっと体を震わした。
     肩をすくめて震えるレオナルドの姿にスティーブンは、はっとして「すまない」と小さく謝ると押さえつけていた手首を離した。
     「レオ―」
     腕で顔を隠すようにして自分を拒否している姿を見るのがこんなにもつらいなんて
     スティーブンはどうすればいいのかわからなくなってただ茫然と自分の下で小動物のように丸まっているレオナルドの姿を見下ろしていた。

     「…君が好きだと言ってくれた時僕は本当に嬉しかった。だから僕もちゃんと答えなきゃと思って、君は信じないかもしれないけれど、君に好きだと言う時緊張で唇が震えたんだ」

     君への恋に気づいて好きだと思って、でもこの気持ちは伝えないままでいよう。
     何もないまま時は過ぎるのだと思っていた中で
     君が好きだと言ってくれて、天にも昇るような気持ちでいたのは
     自分だけだったのか?

     「君はあの時、どんな気持ちで僕に好きだと言ったんだ?君の願望は僕じゃ叶えられないのか?」
     スティーブンはそう言った後、虚しさがじわりじわりと心を覆っていく感覚に目を閉じて耐えていた。
     
     「こんな状況じゃ、イヤです」
     ふと聞こえたか細い声にスティーブンはゆっくり目を開けた。
     自分の下で変わらず腕で顔を隠したままのレオナルドの口がゆっくりと開くのが見えて
     「こんな、術がかかった状態で…スティーブンさんに触られても嬉しくない、ちゃんと自分の意思がある時に、しっかりしてる時に、スティーブンさんに…触ってもらいたい、スティーブンさんに触りたい…ッ」
     「―ッ」
     「こんなの…欲しくない、ッ嬉しくない…こんな時に触って、もらってもッ嬉しくなんかない…抱い、てほしい…でも、ッこんな状態じゃ、なく―」
     ひくひくと喉を震わして泣きながら繰り返すそれは、まさしく彼の、蓋をしていた願望であり
     スティーブンにはとんでもない愛の告白にも聞こえた。
     
     スティーブンはレオナルドを包むように抱きかかえそのまま抱きしめた。
     シャツ越しでもわかる熱すぎる体温が不意の出来事に驚いて胸の中で逃げ惑うように動く。
     「ッあ、いや、だァ」
     「大丈夫だ。抱きしめるだけ抱きしめるだけだから。君の嫌がる事は何もしない。大丈夫だから」
     「うっうぅ…」
     「苦しいな、大丈夫だから、ちゃんと君の願望は伝わってる」
     「ごめ、ごめんなさい」
     「謝る事なんてない」
     「だ、ってスティーブンさんに、迷惑、かける…」
     「迷惑なんて」
     「オレ、スティーブンさん、みたいに…かっこよくないし、魅力ないから…」
     そう言って泣き続けるレオナルドにスティーブンは「君なぁ」と思わず呟いた。
     「なぁレオ、聞いてくれ。この間君を僕の車で家まで送ってあげた時、僕は君にキスしたいと思った」
     「……へ?」
     「キスしたいって思ったし、君の体に触りたいって思った。今でも思ってる。君の為じゃない、僕の好きはそういう好きで今許されるのなら君の全身愛で尽くしたい」
     自分の言葉にさらに体を熱くするレオナルドの変化を服越しに感じてスティーブンはふっと微笑む。
     「でもしないよ。君が望んでないから、君を無理矢理抱いたってそんなの全然嬉しくない。だから今日は君を抱かない。でもこれだけは今聞きたい。君の願望を叶えられるのは僕だけだ。そうだよね?」
     「…はい」
     耳元で聞こえたレオナルドの声にスティーブンは「よかったぁ」と自然と言葉をこぼした。
     「その事がすごく嬉しい。本当に嬉しくてしょうがない。君の願いはちゃんと叶う。叶えさせてくれ」
     
     君が望む形で
     
     ふわりとレオナルドの額に貼られた札の術印が浮かび柔らかく光るとすぅっと消えて
     「うれしい…」
     そう聞こえたかと思うと、次の瞬間自分の体に不意にのしかかってきた重みにスティーブンは「レオナルド?」と声をかけて様子を見ると
     「うにゃ~」
     「え?ちょッレオナルド!?」
     茹で上がったような顔で気を失ったレオナルドにスティーブンは「マジかッ!?」と思わず叫び、天を仰いだ。
     「まったく…本当に君って奴は」
     言いながら、くすっと笑ってスティーブンは自分の胸の中で眠るレオナルドに
     「まぁなんだ。お疲れ…あと少しだけ、つまみ食いだ」
     そう言うとスティーブンはレオナルドのこめかみに唇を寄せてちゅっと音を立てて
     「良い夢を」
     静かな言葉はまどろみの中に揺蕩うように溶けていった。
     




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