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    ゆき📚

    ひっそりと文字書きしてる

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    ゆき📚

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    【血界】【行き先は自由】Ⅲ
    のっけから妹さんが登場しています。兄妹かわいい、大好き
    のそのそ書いています。今回も意味も無く推しがただただ会話しております。
    相変わらず設定とか諸々雑です。書きたいように書いてます。
    大丈夫、どんなものでもどんとこい!という心の広い方がいらっしゃたらよかったら読んでやってください。

    ##BBB
    ##STLO

    【行き先は自由】Ⅲ 子供の頃、寝る時間になって自分の部屋に行く前に必ず妹のミシェーラの部屋の前を通るのでおやすみの挨拶をして自分の部屋に戻るのがいつの間にか日課になっていた。
     ノックをして扉を開けて顔だけひょこっとのぞかせて、おやすみミシェーラと声をかけて
     「お兄ちゃん待って」
     時折声をかけてくる時があって、それは彼女からお願い事をされる時
     「ねぇちょっとお部屋に入ってきて」
     そう言われ部屋に入れば彼女はベッドに入ってはいるが半身を起こした状態で
     「ミシェーラ、もう寝る時間だよ」
     「わかってる。でもお願いお兄ちゃん何かお話して」
     そう言ってお願いとじっと見上げるように自分を見てくる視線に断ったほうが面倒くさい事になるというのを経験上知っているのでため息をつきながらベッドサイドに座ると嬉しそうに口元を緩める妹をとりあえず横にさせて首元まで毛布をかけて
     「話っていってもなぁ」
     「何かあるでしょ」
     「僕はお前みたいに想像力があるわけじゃないんだ」
     「じゃあ最近お兄ちゃんが楽しかった事話して」
     「えー」
     不服そうな声を出してみても意に介さず、自分が眠るまで話してと言う妹の横でそのまま寝落ちしてしまった事もある。
     めんどくさいとか億劫だとか不思議とそういう事は思わなかったけど、どうしてそんな風に言ってくるのだろうかという単純な疑問は心の中でぷかぷかと浮かんでいた。
     
     数年後、その事をミシェーラ自身がお気に入りの場所のひとつである湖のほとりで教えてくれた。
     太陽の光に水面がきらきらと輝いて反射しているのを眺めながら彼女は語るように静かに
     「時々だけど夜が怖くなる時があったの。なんて言ったらいいのかなベッドに横になってるとどこからともなく黒い靄みたいなものが私の周りを取り囲んでくるような気持ちになって、あぁどうしようってなっている時にタイミングよくお兄ちゃんが顔をのぞかせてきて」
     そう言ってふふっと当時を思い出したミシェーラは小さく笑って
     「安心したのよ。お兄ちゃんがそばにいるってだけで」
     「でも俺が適当に話してたら怒ったじゃないか」
     「せっかくなら楽しい話を聞きたいじゃない?」
     「わがままだなぁ」
     くすくすと笑う声と同時に彼女の淡い栗色が静かに揺れるのを背後に立ったまま見つめていると
     「ありがとうお兄ちゃん」
     「何だよ、急に」
     「感謝してるのよ。だってお兄ちゃんなんだかんだ言いながら最後には私のお願いを聞いてくれるから。私嬉しかったのよ。お兄ちゃんの声を聞いてると安心して眠る事ができた」
     「そうか、まぁだったら話した甲斐があったもんだ」
     腰に手を当て少しふんぞるようにそう言って見せるとミシェーラはまた小さく笑った後ぽつりと
     「私お兄ちゃんに甘えてばっかりね」
     
     そんな事無い
     そんな事無いよ
     君はとても強い
     でもそんな君を守ってやれるのは
     「私のトータスナイト」
     そんな風に自分を頼ってくれる君を
     なのに
     
     「お兄ちゃん、私、お兄ちゃんに伝えたい事があるの―」
     
     水面の輝きが眩しすぎて見つめるにはあまりにも強い光に僕は思わず目を閉じた。
     
     ※
     
     「ミシェーラ」
     イスに座ったまま眠っている姿を見てスティーブンは器用な奴だなとぼんやりとした思考の中で思った。
     自分の手を掴んだままレオは俯いた状態だったがスティーブンのほうが体勢は低い状態でいるので顔ははっきりと見えた。目が覚めて最初に顔を見た時は起きてるのか寝てるのかわからなかったがすーすーと寝呼吸の音が耳に届いて
     しばし眺めているとぽつりと呟かれた言葉にスティーブンはより注意深く彼の表情を見つめていると少しずつ眉間に皺が寄ってきたかと思うとぐっと口に力が入り等間隔にしていた呼吸に乱れが見えた瞬間―
     「言うな…ッミシェーラ―ッ」
     自分の手を掴んでいる手が表情の力みと相反して抜けていく。
     離れそうになるその手をスティーブンは掴んで握ればびくりと体を震わして
     「起きろ、レオナルド」
     そう言ってぐいっと手綱を引くようにスティーブンはレオの手を引けばすっと息を吸ってはじかれたように目を覚ましたレオは顔を上げて
     小さく肩を揺らして乱れた呼吸を整えながら落ち着いた頃合に自分を見たレオの視線にスティーブンはどんな表情をしたものかと迷っている自分に少しばかり驚いた。
     「おはよう、ございます」
     「おはよう」
     「えっと…」
     周りを確認するようにきょろきょろと顔を動かして自分が置かれた状態を思い出したレオはイスから勢いよく立ち上がった。
     手を掴んでいたスティーブンは引っ張られるような状態になって小さく声を出すとその姿にレオは慌てたように「すいませんッ」と謝った。
     「寝起きに元気だなぁ少年」
     「俺も寝て、たんすね」
     「首痛くなってないか?座ったまま寝るなんて器用だなぁ」
     スティーブンがそう言ってハハハと短く笑って見せるとレオは「大丈夫っす」と言いながら戸惑っているような様子になんだろうかとスティーブンは考えて答えはすぐに見つかった。
     今の今まで繋いだままの状態の互いの手にスティーブンはぱっと手を離すと半身をゆっくりと起こしてソファに座るように足を下ろす。
     「すまないぼーっとしててまったく無自覚だった」
     「いえ、大丈夫です」
     しばらくの間互いになんとなく喋らず静かな空気が漂っていたがこれではいけないとスティーブンはスマートフォンで時間を確認すると一時間ほど経過していた。
     「自分が寝落ちた瞬間あんまり覚えてないんだけど」
     「横になって数分もしないうちに寝てましたよ」
     「え、ホント?」
     レオの言葉にスティーブンはびっくりして聞き返すとレオはこくりとうなずいて「はい」と答えた。
     「へぇ、そう」
     「どうかしました?」
     「いや、君に寝顔見られたんだと思って」
     「なんすかそれ、別に変な顔してなかったですよ」
     「そう」
     「なんすか、寝てる時に白目剥いちゃう時とかあるんですか?」
     「いや、自分では確かめよう無いから何とも言えないけどそんな事は無いと思う」
     ていうかすごい発想だな。とスティーブンはこぼすように言うと
     「友達にいたんすよ。寝てる時白目剥いててたまにそのまま高速瞬きしたりする奴」
     「なにそれ怖い。でもちょっと見てみたい」
     「初めて見た時びびって起こしましたもん」
     「ていうか友達と寝てるっていつ」
     「え?昔実家に住んでた時の話です。家に泊まりに来た時に」
     「へぇ」
     「へぇってスティーブンさんそういうの無かったんですか?」
     「子供の頃だろ?家に友人を招くって無かったな」
     「そうなんですか」
     「なんだ、今もしかして友達がいなかったのかなとか考えただろ?」
     スティーブンの言葉とじとーっと見つめる視線にレオはぶんぶんを首を振りながらそんな事はと否定したが内心少し思っていた。
     「まぁ友人は多いほうでは無かったのは事実だよ。あと皆そういう事に興味ない感じだったし」
     「そうですか」
     「類は友を呼ぶって言うだろ」
     スティーブンはそう言うとこの会話はこれで切ろうと考えて立ち上がった後テーブルの上にある異界の植物―キージュエリアが目についたので歩いて近づいていった。
     レオもそんなスティーブンの後ろをついて歩き二人は改めてキージュエリアを並んで眺めて見る。
     「心なしか咲いてるか?」
     「そんな気はします」
     蕾状態だったものがほんの少しだけ緩んだように花弁を見せている様子に二人はそれぞれ安堵と今後のペースを思考した。
     「この様子だと結構な量喋らないといけないような気がするんすけど」
     「どこまでの会話をカウントしてこの状態になったのかが不明瞭だからな。ただ確実性はわかった」
     「確実性―?」
     「会話する事で本当に花が開くって事」
     「あぁなるほど」
     自分の隣で納得するようにゆっくり首を縦に動かすレオをちらりと見やりスティーブンはふっと笑った。
     「今笑いました?」
     「いや別に」
     自分の顔を見るレオの視線に気づきながらスティーブンはすっと表情を戻して、さてこれからどうするかなと考える。
     「今日中に出られるかなぁ」
     ぼそりと聞こえたレオの言葉が耳に届いてスティーブンは視線を彼へと向ける。
     「……どうかしましたか?」
     自分をじっと見つめる視線にしばらくして気が付いたレオは疑問の言葉そのまま表情に張り付けてスティーブンを見上げるように見返した。
     「焦ってもしょうがないぞ少年」
     「そうっすけどスティーブンさんだって長居していたくはないでしょう?」
     その問いかけにもちろんだと答えようとして言葉がすんなりと出てこない感覚にスティーブンは口を半開きにしたような状態で固まって
     「スティーブンさん?」
     「うん」
     「どうかしましたか?なんかぼーっとしてますけど」
     「いや、なんでも…寝起きですぐにシャキッとできないだけ」
     「あぁ、そうなんですか」
     納得するようにうなづくレオの含みのあるような言い方にスティーブンは少しむっとしてレオの頬をつまんだ。
     「ッな!?」
     「今、おじさんだからとか思っただろ。自分と違って寝起き悪いの加齢のせいだって思っただろ」
     そう言って自分の頬を指でつまんで揉みしだくように動かすスティーブンにレオは逃げようとして体ごと仰け反ったりスティーブンの手を両手で掴んで離そうとする様子にスティーブンは無意識に口角を上げて
     「被害妄想もいいとこっす!やめへください」
     離せ離せとじたばたするレオの様子にスティーブンは楽し気に笑うと両手で挟むようにレオの頬を挟んで
     「ふにゃッ」
     眉根を寄せて困ったような顔をするレオにスティーブンはそのまま頬を挟んだまま
     「スティーブンさ、」
     「さっきどんな夢を見てたんだ?」
     不意に問いかけてきたスティーブンにレオは何の事かとその質問の意味がわからず固まった。
     「さっき眠ってた時、夢を見てるような感じだったから」
     改めてそう言われ問いかけられてレオは思い出して表情を静かにこわばらせた。
     「あ、の」
     どう言ったものかと逡巡するような姿を見せるレオにスティーブンは引き下がっても良かったがなんとなくそうはしたくなくて
     「夢見が悪いのか?」
     「いえ、そんな事はないですけど、え?なんかそんなにひどい顔してたりしてました?」
     「いやただ―」
     スティーブンはそこまで言って少し間を開けた後
     「ちょっとだけ唸ってるような声が出てたから」
     スティーブンの言葉にレオはしばらく黙った後に静かに息を吸って
     「…妹の、夢を見てたんです」
     正直に答えたレオの言葉にスティーブンは本当は妹の名を呼んでいたという事を素直に言わなかった事に対してなんだか後ろめたくなってゆっくりと手を頬から離した。
     「小さい頃あいつも時々俺に何か話をしてくれって眠る前にお願いしてくる事があったんです。最初は自分が読んで覚えていた本のあらすじを語り聞かせていたんですけど段々ネタが無くなってきて話すのに苦労しました。なんでもいいっていう癖に適当に話したら怒るし」
     「君達兄妹は仲がいいんだな」
     レオはその後の続きを話そうとは思わなかった。ただそれだけで見た夢は終わりだという風に笑みを見せるレオにスティーブンは隠し事の空気を感じ取りながらもそこはお互い様だなと思って踏み込みはしなかった。
     「僕にはどんな話をしてくれた?」
     「はい?」
     「僕も君に言っただろう。自分が眠るまで何か話してくれって」
     「もしかして覚えてないんですか?」
     「うん」
     少しだけ不服そうな表情を見せたレオにスティーブンは「悪かったよ」と言うと
     「別に構いませんよ、大した話してないですし」
     「どんな話だ」
     「えー?別にいいじゃないですか」
     めんどくさそうな態度を隠さずに言ったレオにスティーブンはむすっと唇を尖らすと
     「どうせ二人で話をしなきゃいけないんだからもったいぶるなよ。これもカウントされているかもしれないだろ」
     スティーブンの言葉にレオは確かに、と思いながらキージュエリアへと視線を向ける。どのくらいの速度で花が咲くのか全く予想できない物言わぬ植物―
     「あの」
     「なんだ?」
     「喉乾いたんでなんか飲みながらでもいいですか?あ、あとどうせなら座って話したいっす」
     「あぁ、そうだな。僕も欲しいな。確か冷蔵庫にペットボトルの水があったはず」
     「取ってきます」
     そう言って小走り気味に冷蔵庫へと向かうレオにスティーブンは声をかけた。
     「一応怪しい所が無いか視てもらっていいか」
     「了解です」
     ぐっと拳を顔の前に掲げて見せた後レオは冷蔵庫の前へ行き片開きの扉を開けると眠る前にスティーブンが言っていた通り二人分にしては充分な食料が綺麗に入っていた。
     「どういう仕組みになってんだろうな」
     独り言を言いながらレオはドアポケットにあるペットボトルを二本手に取るとバタンと扉を閉めてスティーブンの元へと戻る前にレオはそのペットボトルを視てみたが特に変わった所は無く
     「見る限りおかしな所は無いみたいっす」
     レオはそう言いながらスティーブンの元へ戻ってきて持ってきたペットボトルの一本を差し出した。
     「ありがとう」
     受け取ったスティーブンはキャップの部分を掴んで顔の前につるすようにして中身を自分でもじっと眺めてみる。これで何がわかるというわけでは無いが一応の為の行動を
     端から見ていたレオはまぁ用心したくなるのはわかると思いながら先にキャップをひねるとごくごくと飲んだ。
     「はぁ」
     いい感じに冷えた水分は喉を潤して気持ちがいい。
     レオの様子をしばし見てスティーブンも同じようにひと口飲むと静かに息を吐いた。
     「なんか落ち着きますね」
     「そうだなお互いひと眠りしたし」
     二人はそう言い合いながら先程スティーブンが横になっていたソファに並んで座るとほぼ同じタイミングで背もたれに重心を置いて
     「で」
     「え?」
     「僕に何の話をしてくれてたんだ?」
     改めてそう聞いてきたスティーブンにレオは忘れてなかったかと望み薄な願望をあっさり砕かれてため息をついた。
     「今更聞いたってつまんないと思いますよ」
     「それは聞いてみないとわかんないだろ」
     足を組んで自分を見るスティーブンと目が合うと静かに微笑まれて
     「期待してるんだったら今のうちに諦めてください。昔読んで今でもふと思い出す本の話をしたんです」
     「うん」
     「記憶曖昧なんで話の辻褄とかごちゃごちゃですよ」
     「いいよ。わかった」
     「えっと、まぁ簡単に話しますととある国の王様とそこにとあるものを売りに来た商人の話で」
     そう言いながらおおざっぱにあらすじを話した後レオは覚えている物語の文章を口にした。
     
     “貴方が欲しいと仰っていた物―竜の鱗を私は持ってまいりました。
     王よ、この鱗が本物かどうか。貴方はその確かめかたを知っている。
     私はそれを受け入れる覚悟がございます。
     王よ、是非私の持ってきた鱗を私を使ってご確認ください“
     
     「その話、知ってる」
     ぽつりと呟かれたスティーブンの言葉にレオは思わずといった風にスティーブンへと顔を向けた。
     「知ってるんですか?」
     「タイトルそのまま竜の鱗って話じゃないか?」
     「そう、そうです」
     「懐かしいな、学生の頃読んだよ」
     「まじっすか?俺もです。実はこの話二回読んでるんですよ」
     「へぇ、お気に入りなのか」
     「そう言う訳じゃないんですけど」
     答えるレオにスティーブンは今更に彼の話の腰を折ってしまったと気づいた。
     「少年」
     「なんですか」
     「せっかく話してくれてたのに、話の腰を折ってしまってすまなかったな」
     急にそう言って謝ってきたスティーブンにレオはぽかんとした後、ぷっと噴き出すと盛大に笑った。
     「そんな神妙な顔をして謝る事じゃないですよスティーブンさん」
     「いや話してくれって自分から言っておいてさすがに失礼だと思ってさ」
     「大丈夫ですよ。むしろ嬉しいです」
     「嬉しい?」
     「だってこの作品書いた人って別段有名な作家ではなかったと思うんすよ。本自体も数はそんなに出してなかったと思うし」
     「君、詳しいな。好きだったのか」
     「うーん、どちらかと言えば好きなほうだったと思います」
     「へぇ」
     「スティーブンさんはどうでした?」
     「何が?」
     「何がって、本を読んだ感想です。学生の頃読んだんですよね」
     「そうだなぁ…あんまり覚えてない」
     素直に答えたスティーブンに隣でがくっとリアクションをして見せるレオに
     「君だって二度読んだのに記憶曖昧だって言ってたじゃないか」
     「まぁ、そう言われたら返す言葉もありませんけど」
     「なんかさ記憶はあるんだけどただそれだけっていうか」
     「つまらない話じゃないんですけど人に勧めるほどでもないというか」
     二人は顔を見合わせて互いに似たような感想を持ったなという感情を表情に見せていたが瞬時に真顔になり
     「なんか、せっかく書いて世に出た作品を」
     「君と僕が読んだ作品でもあるものを」
     「「こんな風に言うのはむなしい」」
     声を揃えて言った後二人はそれぞれに正面を向いた後、静かにスティーブンから言葉を出した。
     「商人は自分が持ってきた竜の鱗を本物だと証明する為に自分の手を差し出すんだったよな」
     「その鱗本物ならばどんな盾よりも己を守る強固な盾となる。手始めにそれを証明する為に私は自らの手を差し出しましょう」
     レオが朗読するように言った言葉にスティーブンはじわじわとだが話の内容を思い出していく。
     「手の甲に鱗を乗せてナイフが突き通るかどうか試させるんだ。小型のナイフを王に差し出して、自らの甲をそれで刺せと商人は言う」
     スティーブンは言いながら自分の手の甲を見せつけるように腕を水平に伸ばして
     「君ならどうする?」
     「え?」
     不意に問いかけられたスティーブンの言葉にレオは隣の男を見る。
     「もし君が王様だったらどうする?」
     「え~俺別に鱗欲しいとは思わないです」
     「そんな事言ったら僕だって欲しいとは思わないよ。あくまでもしもの話だよ。君が王様の立場であった場合」
     「うーん、なんかうまく想像できないなぁ」
     そう言ってぐわんと頭を揺らすレオに呆れたような表情を見せていたスティーブンだったがその表情が何かひらめいたような表情に変わり
     「じゃあ僕が商人やるよ」
     「はい?」
     何言ってるんだと思っている間にスティーブンはレオのほうへと体勢を向けると
     「王様、私が持ってきた鱗は本物です。どうか信じれぬのなら私がそれを自らを持って証明いたしましょう」
     どこかのSS先輩よりは断然にまともな芝居口調だとぼんやりと思いながらレオは差し出された手に視線を向けた。
     「どうぞナイフで私の手を―」
     
     “商人の言葉に私の背はぞわりと瞬間に鳥肌が立つのがわかりました。
     毛羽立つ布を当てられたように背中がぞわぞわとしたままそれが収まらないのです。
     何故、君までも私にそのような事を言うのか
     私はどうすればいいのか
     差し出されたナイフは小さきものでも
     君を傷つける代物には違いないものだと自分自身でもわかっているはずなのに”
     
     「王様」と囁くように自分に向けられる声にレオはひどく心がざわつくような感覚になってソファから仰け反るように立ち上がった。
     「少年?どうした」
     「いや、なんか」
     レオはそう言って自分の手同士を握りこむように合わせる。ほんの少しだけ気持ちが落ち着くような感じがして
     「すいません、なんか」
     そう言いながらソファに改めて座りなおしたレオは、乾いた笑みを表情に見せながら
     「話を思い出して考え込んだらぞわっとしちゃって」
     「ふーん、僕の手にナイフでも刺してみた?」
     「なんで、そん―」
     「ぞわっとするじゃん?そういう所想像すると」
     まるで他人事のように言うスティーブンにレオはむっとした表情を隠さなかった。
     こういう、自分の事を放り投げるような言い方をする時があるスティーブンさんは好きにはなれない。と心の中で思いながら自然と顔を俯かせる。
     「少年?」
     「そんなんじゃないですよ。物語を思い出しちゃっただけです。俺は、刺しませんよ」
     レオの言葉にスティーブンは目を細める。
     「君は商人の言葉を信じないって事?」
     「それは―」
     「竜の鱗を持ってきたと言う商人である僕を、王である君は信じてくれないんだね」
     「スティーブンさんは商人じゃないじゃないですか」
     「じゃあ僕の事は信じてくれる?」
     「もちろんです!」
     迷いも見せず答えたレオに聞いた当人であるスティーブンが驚いた。
     「いや、ちょっと待ってください、こう言っちゃうとなんか今後面倒な仕事を」
     「そこは言い切った所で終わってくれよ。嬉しかったのに」
     「ははは、すいません冗談です、冗談。スティーブンさんの事僕ちゃんと信じてますよ」
     そう言って笑顔を見せるレオをじっと見るスティーブンは嬉しいと思う反面、馬鹿だなぁとも思ってしまって
     「そんな簡単に信じるなんて言わないほうがいいよ」
     「さっきまで信じてくれないと拗ねそうな顔しておいて今更何を言ってるんすか」
     「なんだよそれ」
     「信じないから刺さないんじゃないです。傷つけたくないから刺さない。だって信じればいい。ただそれだけの話なんですから」

     それがこの世の中でどんなに難しい事なのか
     君だって少なからず知っているはずなのに

     躊躇いもなくそんな風に言ったレオの姿を見ながらスティーブンは心の中で呟いて
     「僕も君を信じてるよ」
     言ってみて、自分の言葉はなんて軽薄なのだろうと
     感じている虚しさのような感情の原因はなんなのかわからずスティーブンは流し込むようにペットボトルに口をつけるとごくりとひと口、水を飲み込んだ。
     
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