【ジェリーフィッシュが解ける頃】Ⅵ ゆるやかに街が暗くなれば反するように地上からそびえ建つ様々な人工物が人工的な明かりを灯していく。
高層ビルの窓が不規則に四角く輝き、何かを宣伝するように緑と赤と青がびかびかと交代でリズムに合わせて光っているのが遠くに見える。
リヴァイはそう言った人工的な明かりがあまり好きでは無かった。
暗闇を照らす明るさは人間が発明した最高の科学のひとつだと思う。
リヴァイはそんな事を考えながら空を見上げる。
星が、見えねぇな
心の中で呟きながら朝に見た天気予報を思い出す。今日は一日晴れ模様という事で確かに地下鉄まで歩く道すがらに見た空は小さな雲がいくつか浮かぶだけであとは青い色が広がっていた。
そのまま夜になれば見る事ができるだろう星は
地上の明るさに隠されてしまっている。
それでもじっと見ていれば輝く星をいくつか見つける事は出来る。地上の明るさに負けぬ輝きを持つその星を見てリヴァイはふっと目を細めた。
星が一番に輝く時、それは死に際の輝きだとどこかで聞いた事がある。
人工物でありふれた中で見える自然の輝きが死に際の輝きだなんて―
「……エレン」
自然と口からこぼれた名前にゆっくりと目を閉じて開き見上げていた空から視線を外す。
仕事帰りだろう疲れた表情のまま自分の横を通り過ぎていったスーツ姿の数人を見て自分も似たような感じなのだろうかとリヴァイはふと思う。
意味もなく自分が着ているいるスーツを見て辺りを見渡してもう閉店している何屋かわからない店のショーウィンドウにうっすらと映る自分の姿を見て現状を確認する。
そこには仕事に疲れた男が一人、のっぺりとした顔で立っているのがぼんやりと見える。その様にリヴァイは目を逸らして歩き出した。
「………」
今更に自分が勢いでエレンを家に誘った事を歩きながらじわじわと後悔が心に滲む。
よく考えてみればひと回りも年上の男に急に家に誘われたら引くだろうよ。
しかし一度は食事に行っている…成り行きだが
そもそも、今日だって番号を渡したからって必ずかけてくるってわけじゃない。
リヴァイはそうだと自分に言い聞かせるように思いながらスーツの内ポケットからスマートフォンを取り出す。
あと十五分程でパン屋は閉まる時間、少し離れた場所でエレンに見つからないように様子を見てあいつが何もせず帰るようなら自分もそのまま帰ろう。
リヴァイはそう思ってパン屋の入り口が見え離れた場所にある建っている銅像の台座のそばに身を隠すように立つと入り口をじっと見た。
オレンジ色の光が入り口からこぼれる様子を見つめてものの数分、手に持ったままのスマートフォンが震えたのでリヴァイは驚きで小さく体を震わした後画面を見れば見た事の無い数字の羅列に心臓が跳ねた。
直観的にその番号がエレンの番号だとリヴァイは確信めいたものを感じ
深呼吸を大きくひとつしたあと、ゆっくりと電話に出た。
「…もしもし」
『あ、もしもしリヴァイさんですか?エレンですけど』
耳に届く、その声にリヴァイはぎゅっとスマホを握りしめながら、かかってきたッと心の中で叫んだ。
「まだ閉店時間じゃないだろう?」
『エルドさんが待ち合わせしてるって言ったら巻いてくれたんです。オレまだ店の中なんですけどリヴァイさん近くにいます?』
「あ、あぁ今、そっちに向かってる所で」
咄嗟にそう言いながら台座から離れてパン屋へと進んでいると裏口から出てきたエレンの姿が表に姿を現しリヴァイの足が止まった。
『どの辺にいます?暗いからよくわかんないな。とりあえずオレ入り口のとこ立って待ってましょうか?』
そう言いながらパン屋の明かりが漏れる場所できょろきょろと自分を探すエレンの姿にリヴァイは向かおうとするが足が動かず戸惑って
「も、もう少ししたらそこに着く、銅像の近くに今いるから―」
言いながら足を一歩なんとか進めるとその瞬間に耳に『あっいた』
そう聞こえたかと思うとぶんぶんと手を振って見せ駆け寄ってくるエレンにリヴァイは思わず意味のない声を上げて後ずさった。
「ッ!?なんなんすか」
「いや、急に来るから、お前」
「人を不審者扱いしないでくださいよ」
「悪いそんなつもりじゃ」
そう言って否定しようとするとぷっと小さく吹き出してエレンは笑いながら
「よかった。元気そうで」
「は?」
エレンはそう言った後、それが言うつもりではなかった言葉だったのだろう。あッと情けない声をひとつ出した後誤魔化すように笑いをこぼして見せて
「会ってすぐで申し訳ないんですけどコンビニ寄ってもいいですか?腹減ってるんで適当に買ってきてリヴァイさん家で飯食いたいんですけど」
「飯なら家で作ろうと思ってたんだが」
「えッリヴァイさんの手作りですか?」
「簡単なものしかできねぇが、手作りが苦手っていうんなら確か駅前にコンビニが」
「全然ッ」
そう言ってにかっと嬉しそうに笑うエレンにリヴァイは思わず視線を逸らす。
「口に合うかどうかわかんねぇけど」
「オレ割となんでも食べれるんで大丈夫です」
「そうか」
「それじゃあさっそく行きましょうか。楽しみだなぁどっちの方向です?」
着ているジャンパーのポケットに両手を突っ込んでにこにことしているエレンにリヴァイが帰宅する方向を指させばエレンは跳ねるように一歩を踏み出した。
「なぁひとつ聞いていいか?」
「なんですか?」
電車に乗り込んで、乗客は少なかったので椅子に座れたがなんとなく立っていたかったのでリヴァイは目的地で開く扉の前に立てばエレンも隣に立って
「なんか、楽しんでるような感じがするんだが、気のせいか?」
リヴァイがそう聞くとエレンは「めっちゃ楽しみにしてますけど?」と首を傾げるようにして言った。
「なんですか急に?」
「いや、なんかテンションが高めだと思ったから」
緩やかなカーブに足を踏ん張らせながらリヴァイがそう言うと同じように踏ん張っていたエレンは扉に肩をつけるようにもたれかかって
「なんか人ん家ってテンション上がりません?」
「そうか」
そういうものなのだろうかとリヴァイは考えてみる。
他人の家か、エルヴィンの家に最初に行った時は割と綺麗にしていると感心したが仕事が忙しい時に訪れた時は家の事をするのが途端にめんどくさくなったとでもいうように出したら出しっぱなしな状態になっていたのを見てイライラしてしまった。
ハンジの家は、ブチ切れた。
「まぁ、ある意味テンションは上がったな」
ぼそりと呟いたリヴァイの言葉に、エレンはある意味とは?と思ったが返すタイミングを失って話は一旦終わってしまった。
「広ッキレイ!」
リビングに入ったエレンはそう言うとほぇ~と感心の声を小さく出しながら全体をざっくりと眺めた。
「カウンターキッチンだ」
そう言ってリビングの地続きであるキッチンのほうへ近づいてエレンが眺めていると後からやってきたリヴァイはそんな姿のエレンに「おい」と声をかけた。
「あ、勝手にすいません」
「かまわねぇが、そんなに見る程特別なもんでもないだろう」
「いやぁ一人暮らしにしては広いと思いますよ。1LDKでしょ?羨ましいなぁ」
そう言いながらエレンは「TVも結構おっきいですね」とシンクの前で指をさす。
「もらいもんだ」
「え?誰からですか?」
「会社の知り合いが引っ越しする時にいらなくなったって言ってな。せっかくだからもらったんだ」
「うわぁ羨ましい」
「所でエレン」
「はい?」
リヴァイはすっとエレンのいるシンクに近づくと通り過ぎて奥にある小さな戸棚からガラスコップを取り出すとエレンに差し出した。
「なんすか?」
「家に帰ったら手洗いうがいだ」
大真面目な顔でそう言ってコップを差し出すリヴァイにエレンはしばし固まった後吹き出した。
「おい、てめぇ何笑ってんだ」
「いや、すんませ、だってすげぇ真面目な顔して何言うかと思ったら」
「キッチンで申し訳ないがタオル持ってくるからその間にちゃんと洗っておけ」
「わかりました」
エレンはそう言うと差し出されたコップを受け取る。その際に指先がリヴァイの指先に当たる感触がして
その瞬間リヴァイの耳上がふわりと赤くなったように見えてエレンはそこから目を離せなくなった。
「ちゃんと洗えよ」
そう言って足早にリビングを出て姿を消したリヴァイにエレンはしばしぼーっとしたままコップを握る自分の手を見つめた。
タオルを取りにバスルームに入ったリヴァイは扉を閉めた後に自分の指先を手のひらで包むように触れた後ぶんぶんと頭を振った。
いきなり誘ったにもかかわらず楽しいとまで言うとは、これがあれか大学生のノリというやつなのか!?
リヴァイはそんな事を思いながらフェイスタオルを一枚取り出すと一旦それを置いて寝室へ向かいクローゼットにスーツとネクタイをしまうと改めてバスルームで出していたフェイスタオルを手に取りリビングへと戻った。
「あ、リヴァイさん?」
「…何やってんだ」
キッチンへ戻って見ればシンクをのぞくようにして固まっているエレンの姿がありよくよく見ればその顔は水で濡れエレンは目を閉じたまま顎から水滴がシンクへとぽたぽたと落ちていた。
「手洗いうがいのついでに顔も洗いたくなっちゃって勢いで洗っちゃって。すんません」
「お前なぁ」
リヴァイは呆れた声を出しながらフェイスタオルを広げると
「タオル顔に当てるぞ」
「お願いします」
リヴァイは手のひらで顔全体をタオルで押さえるように当てると全体の水分をふき取るようにぽんぽんと当てて
背筋をまっすぐに伸ばして自分のほうへと向いてきたエレンに「おいいきなり動くなタオルがずれる」と言いながらタオル越しに頬を挟めばゆっくりと開かれたエレンの目がリヴァイを捉えた。
「ッ、前髪まで濡れてるぞ、お前…」
「よかった」
「何言ってやがる―」
「あれからずっと気になってたんです」
そう言って頬に触れていた手を握られリヴァイの肩がびくっと震えた。
「あの時泣いてたでしょう?ずっと気になってて、だから今日会った時に元気そうに見えて、ここに来る間も喋ってて引きずってる感じしなかったとオレは思ったんですけど」
そう言いながら自分に対してどうだと問いかけるように見つけてくるエレンにまさかそんな風に自分の事を考えてくれていたとは思いもしておらずリヴァイの心臓が強く跳ねた。
「気に、しなくていい。あの時は、その―」
どう言い訳すればいいのか言葉が見つからずリヴァイはぱくぱくと口を動かす。
「お金いつか返せるようにって財布に入れたままにしておいてよかった」
「使わなかったのか?」
「二人分の食事代にしては出しすぎですよ」
「返さなくていい、余った分はお前が使え」
リヴァイはそう言うと手を離そうとしたがエレンがそれを許さないというようにぎゅっと力を込めて
「お金に対してあまり執着が無いんですか?それとも、オレに対して何か”望み”でもあるとか?」
わざとらしく含みを込めていじわるく聞いてみれば予想外の言葉だったのかリヴァイの目に小さな怒りと戸惑い、そして寂しさが混ざった色が浮かんだ。
「馬鹿言うな、そんなつもりはねぇ。そんな風に思われるなら金を返してもらう」
リヴァイはそう言うとぐいっと引き抜くようにエレンの手から手を逃がした。タオルが一瞬浮かんだように舞ってすぐに重力に従って床に落ちたのをリヴァイはすぐに拾うと畳んでいく。
「ごめんなさい、怒らせるつもりは無かった」
「……いいや勘違いさせた俺が悪い。今日だって急に家に誘ったんだ。そんな風に思われてもしょうがねぇよ」
リヴァイはそう言うとくるりと背を向けると「待ってろ、お前のタオル持ってくる」と言うと置いてある場所へ向かおうと足を踏み出して
「待って」
腕を掴んでリヴァイを引き止めたエレンは見えた横顔に驚いた。
今にも泣きだしそうな、それを必死に抑え込もうとして赤くなっている目元にエレンの瞳が大きく開く。
「え、」
「離せ」
リヴァイの声は届かずエレンは腕を掴んだまま
どうしてそんな顔をする?なんでそんな風に、まるで寂しさを閉じ込めようとしているように
気が付けばエレンは掴んだ腕を引っ張ってリヴァイをぎゅうと抱きしめていた。
「な、」
いきなりの事でリヴァイは一瞬何が起きたのか理解できず、エレンも内心驚きながらもそのままぎゅうと抱きしめ続けた。
「な、なにしてる。離れろ」
「いやです」
「言っただろ、そんなつもりで呼んだんじゃない」
「わかってます。今のこれはオレがしたくてやってるだけです。すいません」
そう言って耳元でもう一度謝りの言葉を囁くエレンの声にリヴァイはぐっと唇を噛む。
温かく力強い腕が自分の背中に触れて自分の体を抱きしめている。
ふわりとパンの香りがエレンから漂ってきてすんと鼻を動かすとリヴァイは自然と目を閉じた。
「オレ勘違いしてました。間違いだった。貴方は全然、あの時泣いていた時のままだ」
エレンはそう言うと腕の力を解いてリヴァイの顔を間近で見つめた。
大きな瞳が自分を見つめてきてリヴァイは一瞬息を吸うのを忘れてしまう程―
「リヴァイさん」
静かに名前を呼んで目元を指先でなぞった後、包むようにエレンは手のひらでリヴァイの頬に触れる。
「ッ」
自分を見つめている目が不安げに揺れるのをエレンはじっと見つめながらゆっくりと顔を近づけると額同士をくっつけて
「エ、レン」
「……なんだか、貴方にキスしたくなりました」
近くで囁かれた言葉にリヴァイの顔が赤くなる。心臓が大きく跳ねて言葉が出てこない。
「嫌なら逃げてください。殴ってでも」
そう言って逃げる余裕を与えるようにゆっくりと動くエレンの動作に、リヴァイは正解が出せない子供の様に動けず固まったまま
鼻先が触れくすぐったい感覚に小さな反応を見せればふっとエレンが笑ったような気がして次の瞬間には唇が合わさっていた。
じわりと何かが溶け込むように体の力が抜けていきそうでリヴァイは自然と目を閉じて足に力を入れる。
数秒の口づけだったが随分長いようにも思え、されど離れようとすれば途端に惜しく思いリヴァイは無意識にエレンの頬を指先で撫でた。
「ッー」
自分を見るエレンが眉を寄せて苦し気な表情をしているのが見えリヴァイが「どうした?」と囁けば眉間の皺が深くなった。
「エレン?」
瞬間、まるで奪うようなキスをしてきたエレンにリヴァイは驚いて肩を震わし相手の肩を掴んで押し返そうとしたがじゅっと下唇を吸われると背中がぶるりと震えるように痺れ、手の力が抜けていった。
「ッふ、んん」
角度を変えて食むように唇を合わせてくるエレンにリヴァイは小さく唸るような声を上げれば
「リヴァイさんッ」
離れた瞬間呼ばれた名前とぎらりと欲を宿らせた瞳にリヴァイの理性は風に吹かれた砂の様にさらさらと薄くなっていって
合わさった唇を受け止めながら肩に乗せていた手を滑らせ背中に回せばエレンもリヴァイの背中に手を伸ばし背骨をなぞるように上から撫でた。
「ぁ、ッ」
びくんと背を反らせてリヴァイは倒れないように足を踏ん張っていたがゆっくりと後退していって
とん、と背中に壁が当たる感覚にうっすらと目を開ければ夢中になっているように自分を求めるエレンの様子にどくんを心臓が大きく跳ねた。
「ッ、ぇ」
名前を呼ぼうとして唇を開けばそこからぬるりとした熱い何かが入ってくる感覚にリヴァイはそれが相手の舌先だとすぐにはわからなかった。
唇の内側の柔らかさを確認するように舌を動かしその後に中へと進んでリヴァイの舌を捕えようと動く舌にリヴァイはふ、ふ、と甘くも苦しい息を鼻からこぼして
息苦しさに意識がぼんやりとしてきて縋るようにエレンの肩を掴めばエレンは応えるように耳たぶを指先でふにふにとつまんでリヴァイの上あごをべろりと舐め上げた。
「んんッ」
くぐもった声を出しながら反応を見せるリヴァイにエレンはこれ以上はやばいと思いながらも、もう少しだけもう少しだけと誰に言うでもなくリヴァイを求めて、口内を味わう事から抜け出せず
自分でもわからない程に内側から溢れる欲求に脳が沸騰しそうな程くらくらとして
最初に触れて離れた際、自分を見つめるリヴァイの縋るような甘い瞳と頬に触れてきた指先に自分の中の何かが弾けるような音がしたのを思い出す。
もう、離れないと
あと少し
もっと触れたい
これ以上はだめだ。
「ん、ぇ…エ、レン」
名前を呼ばないでくれ。と心の中で叫ぶように言いながらエレンはぐっと眉根を寄せる。
もっと触れたい唇だけじゃなく、もっと―
「………くる、しッい」
不意に聞こえた声にエレンはハッとして離れればリヴァイは大きく息を吐いて吸った後むせながらずるずると壁に背中を当てたまま床に崩れるように座り込んだ。
「リヴァイさんッ!」
エレンは驚いて慌てて自分も床に座り込むとリヴァイの様子を確かめるように顔を覗き込む。
「リヴァイさんッ大丈夫ですか!?」
「お前…いき、止まるかと」
「す、すいません」
はぁはぁと上がった息を整えるように肩を揺らしているリヴァイにエレンは焦りの表情を浮かべる。
「あ、あのオレ、自分でも途中から夢中になっちゃって、訳わかんなくなっちゃって、いや言い訳です…本当、本当すんませんッあ、あの殴ってください!」
そう言って土下座するように頭を下げるエレンにリヴァイはどちらともいえない唾液で濡れた唇を拭いながらふぅと息を吐くと
「別に怒ってない…頭上げろ」
「で、でも」
「合意の上だ。大丈夫」
「…はい」
静かに返事をして頭を上げたエレンだったがしゅんとした表情のまま、先程の勢いが嘘のような姿にリヴァイは後頭部を壁にもたげてぼんやりとどこを見るでもなく
すごかったな、いろいろと、あともうちょっとしてたら完璧にやばかった。
リヴァイはそんな風に思いながら目を閉じて、もう一度すごかったぁとしみじみと心の中で呟いた。
「リヴァイさん、大丈夫ですか?」
「あぁ平気だ」
そう答えて立ち上がろうとしたがうまく足に力が入らない。
まさかキスひとつでこんな風になるとは思ってもいなかったのでリヴァイは恥ずかしさで顔が熱くなるのがわかり壁に手をつきながら無理やりにでも気合を入れてなんとか立ち上がるとエレンもゆっくりと立ち上がった。
「あの…」
なんと言葉を続ければいいのかエレンは声はかけたがその後が何も出てこず視線をきょろきょろとさせながら困っていると、ぐぅぅぅとその場に不似合いな音が響いた。
それがエレンのお腹から鳴った音だとリヴァイは気づくと小さく吹き出して、くっくっくと手のひらで顔を隠すようにして笑いをかみ殺して
「お、ま、すげぇ腹の音」
「すいませんッこんな時に」
恥ずかしそうに慌てるエレンを指の隙間から覗き見て、リヴァイははぁと大きく息を吐くと
「飯、食ってけ。簡単なものしか作れねぇが」
「……いや今日は帰ります」
「遠慮すんな」
「いいえ、なんかこのままいるとオレ…貴方に変な事しちゃいそうだからッ」
叫ぶようにそう言ったエレンにリヴァイはぽかんと口を開けたまま、意味を理解するとぼっと顔を赤くした。
「あの、だから今度また機会があったら誘ってください」
「お、おぉ、そうか。そういう事、なら?」
「……意味わかってますか?」
「なにがだ」
聞き返したリヴァイにエレンはぐっと一度唇に力を込めると
「オレは、次誘われたらそのつもりがあるんだって思って来ますって言ってるんです」
エレンにそう言われリヴァイの心臓が早鐘を打つように跳ねる。
「ぁ、ぉ…それ、は」
戸惑うように自分の胸を押さえて黙ってしまったリヴァイにエレンが一歩近づくと反射するように後ずさってどんと壁に背中をぶつけたリヴァイは焦ったような声を短く出して
そんなリヴァイの様子にエレンは伸ばそうとしていた手を止めて下ろすと
「今日は、せっかく誘ってもらったのにごめんなさい。オレが帰った後鍵閉めるの忘れないでください。電話番号、登録しておいてください。オレもしておきます。あと」
そう言うとエレンはすっとリヴァイの耳元に唇を寄せて
「次があるって信じてます」
囁くようにそう伝え、「お邪魔しました」と足早に去りながら言ってリビングを出て行ったエレンをリヴァイはその場に立ち尽くしたまま動くことができず
小さくなっていく足音と相反するように自分の心臓の音がやけにうるさく耳に届くような気がして
そんな中でもガチャンと扉が閉まる音はちゃんと聞こえ、それが合図かの様に足の力が抜けリヴァイは再び今度は膝からくずれるようにへたり込んで
「…………若さ、若さなのかッ!?」
意味もなく叫んでそのまま腕で顔を覆うようにして床に突っ伏したのだった。