『もう!毎年毎年この時期になるとふたりして深刻な顔してそわそわしちゃって!いい加減シリアスな雰囲気を出しながら物思いに耽る仕草をするのはやめてほしいかも!』
『そんなふたりには学園都市を離れてリフレッシュできるよう、特別な休暇をプレゼント!ってミサカはミサカは今日まで秘密にしてきたサプライズの発表に胸を躍らせてみる!』
『本当は私たちも付いて行きたかったんだけど、こもえからすき焼きのお誘いが、じゃなくて、こほん……いつも頑張ってるふたりへの日頃の感謝の気持ちだから受け取ってほしいな』
『ヨミカワとヨシカワにも止められちゃったし、ここは断腸の思いでがまんがまん……でもでもっ、宿のクオリティはお墨付きだよ!こだわりの強いアナタでも大満足しちゃうんじゃないかな?って、ミサカはミサカは誇らしげに成長途中の胸を堂々と張ってみる!』
学園都市から出てから2時間弱、乗り込んだ特急列車から景色を眺めながら、上条はつい先日の会話を思い返していた。
特に何かが起こるわけでもない8月某日を前に、毎年浮き足立っていたのは指摘の通りだった。例年だって特別なことをしたわけでもない、ただ、昼間の熱気を宿したままの夜の風の匂いとか、土埃が鉄骨を叩く音とか、そういうものが感傷的な気分にさせるだけだ。個人の感傷くらい許してほしいとは思うが、それがふたり分だと流石に目に余ることもあるのだろう。
女子二人に手渡された封筒の中には、今こうして乗っている特急列車のチケットと、上条の名前で予約済みの宿が書かれたメモ、それと「楽しんで来てね」とそれぞれが書いたメッセージが入っていた。色々なことを言っていたが、上条たちを心配し労わりたいというのももちろん本心なのだろう。初めは二人揃って学園都市を離れることに難色を示していた一方通行も、主に打ち止めの熱心な説得により、ようやく首を縦に振って現在に至る。
「楽しみだな」
「……まァ、ここまで来ちまったら逃げらンねェしなァ」
向かいの席に座る一方通行が投げやりに言いながら窓の外へと視線を外すのに倣って、上条も高速で流れていく木々や山々を見る。触れそうで触れないふたりの膝、その間にある境界線を軽々越えて伸ばした右手で、一方通行の左手を掴まえて指を絡めた。一方通行は一瞥もくれなかったが、上条の手を振り解くこともなかった。