ほしのこさにわぶわりと花びらが舞う。
具現された事を理解した僕は瞼を開き、目の前の相手……主に向かって名乗りを始める。
「やぁ、僕は歌仙兼定。雅を愛するぶんけ………」
「ぷえ」
間。
人間の形で、人間と思えない音を出したそれに首を傾げた。
幼い子どもに見えるその子は髪が真っ白で、肌は陶器のようだ。胸元からは謎の光を発している。そういうデザインか?
横にいる管狐、こんのすけを見るとラフレシアの世話を任されたかのような顔をしていた。ラフレシアの世話を任された顔ってなんだ。
「ぷ、ぷ、」
「え、な、なんだい」
何故か真っ白な蝋燭をこちらに差し出してくる。
意図が分からず視線でこんのすけに助けを求めた。
「受け取ってください」
「な、何故」
「受け取らないと分かりません、いや私も理解出来てません。兎に角全部受け取ってください」
全部、とは。
ちらりと彼女(?)を見つめると、眩しい程の笑顔が返ってくる。
……まあ、よく分からないがこの子が僕の主だしな。と謎に自分へ言い聞かせて受け取る。
瞬間、それは空気に溶けるように消えて、代わりに“繋がり”が出来た。
刀剣男士には顕現された時、主人と縁が出来る物だ。だが、それとはまた別物だと本能に感じる。
「(これは……?)」
首を傾げるその間にも、新しい蝋燭が差し出される。歌仙兼定は考える事をやめた。
そうして繰り返す事何度目か、
受け取った瞬間に彼女は笑みを深めて“告げた”。
「ーーーこんにちは、“牡丹くん”!」
相変わらずぷえぷえという鳴き声(?)も響いているが、それと同時に声が聞こえる。
……成る程、あれを受け取ると繋がりが強まり、言語も通じるようになるらしい。
不思議な感覚に驚きつつ、こちらも挨拶を返した。
「こちらこそ、主ーーーその、”牡丹くん“というのは?」
「?キミの呼び名!」
首を傾げる。こんのすけも困った顔を隠せていない。
「……僕は歌仙兼定だよ、主。ちなみにこっちはこんのすけというんだ」
「かせんかねさだ?」
「名前でございます、審神者様」
「???」
「……?????」
間。
お互い首を捻り、主があ、という声を上げる。
「そういえばせーふ?の人が、この世界は1人1人、元から名前を持ってるって言ってた!」
牡丹くんの名前はかせんかねさだ、なんだねぇと笑う。
この子どもはもしや、名前を持っていないのか?声をかけられた時、どうやって自分と認識するのだろう。
「じゃあ次からは名前聞いてからどう呼ぶか決める。牡丹くんも変えた方がいい?」
「いや、まあ……」
名前の方がとも思うが、花の名で呼ばれるのもーーー中々雅ではないだろうか。
「……そのままで良いよ、主。」
「そう?じゃあそーする!」
にぱ、と笑った彼女は僕とこんのすけを見てぺこりとお辞儀した。
「私は“星の子”。使命はまだまだ終わらないけど、今は他の皆に任せて“さにわ”をしてって言われて来た!」
“星の子”
聞きなれない単語。それが彼女の種族名なのだろうか。そして使命とは一体。
ぷわ、と鳴き声が響く。
「私が星の子ではじめての“さにわ”!これから沢山よろしく!牡丹くん!」
*
「それでは早速出陣しましょう」
「しゅつじん」
こんのすけの言葉に主が首を傾げる。
……政府はどこまで教えたのか、それとも覚えていないのかが判断つかない。
「我々が戦争……ええと、戦っている事はご存じですか?」
「うん!暗黒竜みたいなのをやっつけるって言ってた!私の所の暗黒竜は悪いだけの奴じゃ無いけど、こっちはきょーぞんできないんだって」
……暗黒竜とは?
主は種族こそ違うが、人間の子どものように感じる。
こちらの説明も分かっているようで分かっていない事の方が多いのではなかろうか。
「……暗黒竜が分かりませんが多分合ってます。とりあえずその敵を倒す為、刀剣男士時代を飛び越えなければなりません」
「とーけんだんし、牡丹くんときをこえる?」
「そうだね、主は行けないよ」
こちらを見るその目はどことなく期待に満ちていた。
時を超える、というのが楽しそうなのかもしれない。
「それでこの機械を使って……」
「動かすのに火は?」
「要りません!!どっから出したんですかそのろうそく!!」
タブレットを見せるこんのすけの隣で、主が赤い蝋燭を取り出した。
……今、胸元の光から出していたような……気のせいか?
「こほん、えー……とにかく今回はここに行きます。押してください」
「こう?わ、変わった」
「はい、それで歌仙兼定様をーー」
どうやら出陣の準備が整ったようだ。
こんのすけに誘導され、定位置に着く。
「それでは参ります!」
「いってらっしゃあい」
主が星を散らすように手を振り見送ってくれる。
……いや比喩でなく実際キラキラしていた。星の子って一体どうなっているんだ?
*
「ぼろーーーーーーーーっっっ!?!?!?」
初陣は敗北してしまった。
重症で帰ると主がギョッとした様子で駆け寄ってくる。
ああ、怪我すると心配するのは人間と同じ………
「火ぃ!!!」
「ですから火はしまってください!!!!!」
同じじゃないかもしれない。
「火に当たっても治らない?」
「治りません」
「ふべん………星の子は治るのに………」
「………貴方達の身体どうなってるんです??」
星の子は火があれば大抵なんとかなるらしい。いざというときは炎の中に突っ込んでいくのだとか。
火が苦手な相手が見たら卒倒しそうだ。
*
「刀剣男士を治すには資材を使ってここで……」
こんのすけの説明に、主はふんふんと頷きながら言われた通りの動きを始める。
なかなか手際が良い。傷が治ったのを見て「おお〜」と手を叩いて喜んでいた。
……手を叩いた際花が弾けるような光が出ていたが、あれは本当に何なんだ?
「では、次は鍛刀をしましょう!」
「たんとー!」
途端に主はどこかから紙を取り出す。
「せーふでこのレシピ?が良いって言ってた!」
「今回はall50です」
「なんと」
あからさまに何故……という表情をしていたが、何にせよ戦力は必要、と鍛刀を始めた。
*
「秋田藤四郎です、よろしくお願いします!」
チュートリアル鍛刀は基本、粟田口になる。
そう上手く知り合いが来ることは無い。分かってはいたがちょっとだけ残念だ。
と、何故か主があわわと動揺していた。
「ぼ、牡丹くん……」
「どうしたんだい主」
「ケープが無いよ!?とーけんだんしは最初からあるんじゃ無いの!?どうやって飛ぶの!?!?」
「待ってくれケープってなんだい!?僕らに飛行能力なんて無いよ!?!?」
「じゃあそのケープは何の為にあるの!?!?!?」
「これは飛ぶための物では無いよ!!!!!!!!!」
まだ主と話せない彼を置いて騒いでしまった僕達はこんのすけに怒られた。
秋田藤四郎は困惑していた。正直すまない。
余談だが、次に鍛刀された山姥切国広を見て「やっぱりケープある!!」「だからケープじゃない!!!」という会話を繰り広げ、再びこんのすけに怒られる事になる。
さておき。
二振とも挨拶を済ませた主は秋田藤四郎を“秋くん”、山姥切国広を“切国くん”と呼んでいた。
正直山姥切国広は“山くん”かと思っていた僕は、理由を聞いてみた。
「せーふで“やまんばぎり”と会ってたから、山くんだとややこしいなって」
案外ちゃんとした理由があった。
この山姥切がどっちかは知らないが、多分本歌の方だろう。
「せーふで皆名前名乗ってたけど、せーふが変なのかなって思ってた」
「うん、それが普通なんだよね」
もしかして彼女は、一般常識を教えられていないのではなかろうか。
正直、とても不安になってきた。
*
あれから出陣もして何振か増え、2軍まできっちり埋まるようにはなった。
僕、秋田、切国(秋田も真似していたのでそう呼ばせて貰う事にした)に加え、
愛染、五虎退、薬研、乱、前田、小夜、
青江に同田貫、燭台切、大和守。
かなりのハイペースだが、主の体調に変化は無い。
丈夫なのか、見た目より霊力強いのか。
分からないが、倒れる前にとやめさせた。
「今日は皆様お疲れでしょう、食事にしては如何でしょうか」
審神者を初めて、本丸が稼働し始めて1週間は簡易的な食事が政府から用意して貰えるらしい。
それまでに畑を軌道に乗せ、料理ができるようになっておかねばならないのだとか。
もしくはーー料理をしなくても良いほど稼ぐか。
それはまだまだ難しそうなのと、料理をしてみたい僕や燭台切が率先して覚え出したので心配無さそうだとこんのすけが安心していた。
他のメンバーも料理まで行かずとも食事には興味があるらしく、全員厨に来ていた。
主も例外ではなく、ひょっこりと下から顔を出している。
「……こんこん」
「その呼び名は多分私ですね、なんでしょう」
「これなに?」
「おにぎりです、日本ではメジャーな食べ物ですね」
「光の球は……?」
「………作り方が分からないので……というかそもそも食べないですね………」
「……………」
つん、と自分用に置かれたおにぎりをつつく。
「……………………食べれるかな……………」
困惑、不安。
僕達も主の身体がどうなっているのかわからない為、答える事ができない。
しかしひとりだけ食べられないというのもあんまりだ。
「えっと………」
秋田が困った顔をする。
全員分からないとなると、主はおにぎりを持って移動を始めた。
「ちょっ、どこへ行くんだい!?」
「大精霊様に聞いてくるー!」
たっ、と床を蹴ると、軽やかに宙に浮きーーー
ーーーバサッ!と“ケープを広げ”、“飛んでいった”。
「……………は、!?」
“飛ぶ”という単語を聞いていた僕も、他の皆も全員、ポカンとそれを見送る事になりーー
「………政府に、星の子について詳しく聞いて参ります……………」
こんのすけが疲れた顔で歩いて行ったのだった。
*
⭐︎ほしのこさにわ
星の子の中ではかなりのお兄さんお姉さん。
星座版の解放、all100%を達成し、全部のステージを隅から隅まで見尽くして「ひーーーーーーまーーーーーーー!!!!!!!!!」と爆鳴きしていた所を書庫様に捕獲された。
ニンゲンとのこーりゅー?とーけんだんし?
よくわかんないけどわかった!行ってきまーす!!
そこから政府で(一応)勉強という名の探索/探検/冒険を繰り広げ……ついでに色々やらかし………一部とは仲良くなってるし一部からは問題児判定をくらってる。
初心忘れるべからず、という事で政府では生まれたての格好(初期ヘア/面/ズボン/茶ケープ)でいたが、今はお気に入りの精霊、祈る侍者の姿をしている。今はお面外してるけどね。これからもやらかす。
ちなみにおにぎりは食べれた。
⭐︎牡丹くん
ほしのこさにわの初期刀。よく分からん生き物に振り回されて困惑の極み。慣れたら新刃のフォローという名の、新刃が繰り広げるツッコミに“自分もそんな頃があったなぁ”という顔をするようになる。フォローしろ。
暫くは主の星の子ならではの行動、言動にひたすらツッコむ事になる。
おにぎりを食べれる事には安心したが、どこかに設置しようとしないでほしい。
⭐︎こんこん
星の子という未知の生き物を担当させられた哀れな管狐。最初白い蝋燭を差し出されて困惑してたら、あまりに受け取らない為押し付けられた。ジュッ。
星の子について政府に聞きに行ったものの、政府にすら「分からない……あれは一体………」「採用した奴誰だよ……適正があっても限度ってものがあるよ……」と全員に遠い目をされてしまい途方に暮れる。聞いた相手が悪い。
⭐︎秋くん
後でケープ貰った。飛んでるとこ真似したけど飛べない。
⭐︎切国くん
似たケープあるよ!って大樹の究極ケープ見せられた。今どうやって着替えた?
⭐︎愛くん
何故かケープ貰った。ヒーローごっこした、シャキーン。
⭐︎ごこくん
やっぱりケープ貰った。寝てる虎くんにかけてあげた。
⭐︎げんくん
そしてケープ貰った。妙にサマになってて飛べるのでは?されてた。飛べない。
⭐︎みーくん
さらにケープ貰った。可愛いのが良いと言ったらピンクを貰った。ご満悦。
⭐︎前くん
「ケープあるひとと無いひとがいる」
「だからケープじゃ無いとあれほど」
想いの白ケープでお揃いしてた。
⭐︎さよくん
ケープ貰った/再び。笠を妙に気に入られたし私も持ってる!と見せられてた。……今早着替えした……?
⭐︎青くん
ケープ!!と白い布をパサパサされた。やけに周りをうろうろされる。
⭐︎たぬくん
ケープ渡されたけど返品しようとした。が、何故……?ケープなのに………?という顔をされて渋々受け取った。
⭐︎みつくん
光忠の光でみつくん。やはりケープを渡された。
「格好良く着こなしたいよね!!」「キャッキャッ」「(身体のサイズと共にケープの大きさも変わったのに、何も突っ込まない……だと……?)」
⭐︎やすくん
そしてケープは着てない(ケープ判定を食らってない)刀全員に渡され、自分にも渡されると思っていたーーー
「着てる」「えっこれケープ判定なの!?」「私も持ってる!」「本当だ色違い」
⭐︎せーふのひとたち
やべぇ新人きちゃった……
⭐︎大精霊様
そうですか暇ですか、では頼まれごとをしてください。
行き来はできるように交渉しましたからね、無理はせず自分のペースで行動するんですよ。食事?必要かはさておきできますよ。
時々報告を聞いてはにこにこしてる。
人間の常識は正直あんまり分かってない。
*