コーデ(想雨)「北村の服はどこのブランドなんだ?」
頭上から響く声に振り返ってみれば、急にそんなことを聞かれた。声の主の表情はいつもと変わらず、いまいち読み取ることが難しい。
聞かれたことに対しては隠すことでもないし、正直に答えてあげたけど。
あの質問って一体なんだったんだろう。
待ちあわせ場所で雨彦さんを待ちながら、ふとそんなことを考える。今日は所詮デートというわけで。少し早めに到着してしまったので、周りの様子やスマートフォンの画面を見て時間を潰すことにした。
(質問の答えは未だ分からない。……特に意味はなくて聞いてきただけなのかもー……。僕だってたまにそういう質問したりするし……)
スマートフォンの画面を再度除くと、そこには『悪い、待たせちまったな』の文字。雨彦さんに質問をされたときみたいに、頭を上げてみれば。
「よお、北村。寒空の中、待たせちまって悪かったな」
見慣れた藤色の瞳。少し上がった口角。そして珍しくあまり見えない秘色の髪の毛。それもそのはずで、今日の雨彦さんは帽子を被っていた。しかも、見慣れたブランドのマークが付いた。
「全然待ってないから大丈夫だよー。あれ、今日は帽子被ってるんだねー。珍しいー」
「ああ、こいつか。……実はな、今日はお前さんと服装を揃えてみたかったんだが……。生憎、この背丈だろう? 丁度良いサイズがなかったんだ。柄にもないことはするもんじゃねぇな。はは」
本当に。本当に珍しく気恥ずかしそうに笑って、頭をかきながら雨彦さんはそんなことを言う。
正直、お揃いとかそういうことを考える人だとは思っていなかったから驚いた。今だって言葉ひとつ出てこない。
……そんな、サプライズみたいにしなくたっていいのに。言ってくれたらいくらでもお揃いにするのに。
「……。雨彦さん、とても似合ってるよー。ちょうど僕の帽子と色違いでいいかもー」
「お前さんが帽子を被っていなかったらどうしたものかとは思っていたよ。とりあえず一安心だ」
「そんなにー?……あ、そうだ。雨彦さん。ちょっと耳をこっちに向けてくれるー?」
小さく手招きをして、僕の方に体を傾けてもらう。形の良い耳には『嬉しかったよ、大好き』と吹き込んであげた。
終