Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    エルアの倉庫

    ただの絵倉庫 '-'
    (@elua12)

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 196

    エルアの倉庫

    ☆quiet follow

    今はこのままで、

    Tap to full screen (size:2000x2829).Repost is prohibited
    💖
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works

    桜道明寺

    DONE七夕にふたたび巡り合う諦玄の話
    二つ星 したたか酔って、草を枕に寝転がる。
     よく晴れた宵、日中は激しく照りつけた陽も西の果てに隠れて、涼しい風が吹き抜けるようになった頃、心地よい気候に誘われるようにして、ひとり、酒を呷った。まだ生まれたての夏、鳴く虫もそう多くはなく、ジィ、という微かな声は夏草を揺らす風に流されてゆく。他に何の音もしないし、傍に誰もいない。俺は、妙に解き放たれたような心持ちになって、ぐいぐいと酒を流し込んだ。酒は弱い方じゃないけれど、それでも強い酒をふた瓷も飲めば、頭は朧になってゆく。そうして酒精に絡め取られて、目の上がぼんやりと熱くなった頃、俺は大きく息を吐き、大の字になって草の上に倒れ込んだ。
     見上げる空は雲の一片もなく、まだ夏の熱気に揺らぐ前の星々は、一粒一粒がくっきりと輝いて見えた。視界の端から端まで、遮るものなく広がる星空をずっと見ていると、だんだんと天地が逆転しているような錯覚に陥る。まるで夜空を見下ろしているような——否、そもそもこの大地は、突き詰めれば途方もなく大きな玉なのだ。そこにはきっと上も下もない。見上げているのか見下ろしているのか、そんなことは、考えるまでもなく曖昧だ。老君に連れられて、初めて月宮へ行った時のことを思い出す。あの時は、砂だらけの黒白の世界から、色鮮やかなこの世を、ただぽかんとして見上げていた。俺たちが何気なく暮らしているこの星も、ひとたび外に出てみれば、漆黒の空に浮かぶ光のひとつとなる。それがどうにも不思議で、そして遠ざかったからこそ、俺たちの暮らすこの大地が、妙に愛しく見えた。その時は、その愛しさの源は、一体なんだろうと思っていたけれど、今にして思えば、それは、笑ってしまうほど単純な理由だった。
    2437