はるさがし ああ、ここにもない。
村雲江は幾度目かの失望を肩に乗せて、何も買わずにしおしお店を出た。こんなに見付からないものだとは思わなかった。
人の世は風の匂いよりも早く季節を移してゆく。まだ寒さも緩み切っていないというのに、街行く人たちの服の色は明るくなり、商店はこぞって春一番ですという顔で新商品を売り出す。まだ冬だよ、と悪態をつきながら、村雲もまた春に踊らされている。
今日から発売予定の、コンビニエンスストアの新商品。染井吉野よりも一月も早く咲く、満開の桜を模した洋菓子を、たまたま広告を目にしたらしい五月雨が「美しい季語ですね」と話していたから。その彼は数日前から遠征に出ていて、帰還予定が今日の昼過ぎで。疲れて帰ってきた彼に、その季語を差し出せたらきっとすごく喜んでくれる。だから、割り当てられた内番を高速で片付けて、財布片手に店舗に飛び込んで――何の成果も得られないまま、徒労感だけが伸し掛かってくる。
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