演劇部の日常風景高校の演劇部員である男女四人が、 自作の中世を舞台にした脚本を練習するシナリオです。
演劇部員としての氏名と中世舞台での氏名が'脚本上で違っている'のでご注意ください。
もともと身内用に書いたものなので、分かりづらい点があるかもしれません。
【登場人物】
ココロ:
演劇部では衣装係。 ツルギに片思いしている女の子。
恥ずかしがり屋で、それを克服するためにも演劇部に入った。
演じる役は、ココロッテ。
異世界からきた騎士であるツルギウスに片思いする貴族の娘。
初めて感じる不穏な空気に、次の戦いでの彼の安否を心配する。
ダイア:
演劇部では脚本係。
自分の名前がコンプレックスで、 周囲にはだーちゃんと呼ばせている。
ツルギとココロの恋を応援している。
演じる役は、 エレオノーラ。
世間知らずの貴族の娘。
パーティーやオシャレ、 他人の色恋沙汰が好き。
戦争には、興味がない。
ツルギ:
顔と声が良い演劇部部長。
個性的なメンツをまとめるのに苦労してるらしい。
鈍感なところがある。
演じる役は、ツルギウス。
異界から来た男。
女王に褒められるほどの実力を持っている。
密かにココロッテへ想いを寄せる。
ヨツバ:
演劇部では大道具係。
少し滑舌が悪い。
明るくて誰にでも優しいので、人間関係が広い。
演劇部と部員たちが大好き。
演じる役は、ヨツバルト。
策略家として実力を買われ最近将軍になった。
場を丸く収めたり、人間関係を円滑にするのが得意。
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エレオノーラ:ねえココロッテ、あなたはこのドレスをどう思うかしら?
ココロッテ:独創的かつ意匠を凝らした素敵なドレスね。けれど、こんな華やかなドレスいったいいつ着るの? 普段使いのものではないでしょう?
エレオノーラ:あら、あなた聞いていなかったのね。今度、フランツ様のお屋敷で舞踏会があるの。そこで着るドレスよ。
ココロッテ:え、舞踏会? エレオノーラ、私達の国は戦争中なのよ。いつ敵軍が侵攻してくるかわからないのに、舞踏会なんて……。
エレオノーラ:ココロッテはいつもそれね。戦争なんて私達には関係ないわ。我が国は無敵。異界からきたと名乗る王が相手だろうが蹴散らしてくださるわ。だから、私達は戦争が終わったときのために社交界で一族の権威を示すのよ。
ココロッテ:けれど、
エレオノーラ:はぁ……あなた、昔はそんなこと言わなかったじゃない。あ、わかったわ! ツルギウスの影響ね。
ココロッテ:え、まさか、違うわよ!
エレオノーラ:いいえ、そうよ。思えばヨツバルトがあなたにツルギウスを紹介した頃から、あなたはおかしくなったんだわ! トランプ様という、素敵な婚約者がいながら、あろうことか心を奪われてしまったのね……!
ココロッテ:違うったら!
エレオノーラ:彼はあなたが警戒している、敵の王と同じ出自よ! いくら武芸に秀でているからって、異界から来た男を好きになるなんて……! ああ、なんて恐ろしい……!
ココロッテ:大きな声を出さないでよ! 誰かに聞かれていたらどうするの!?
エレオノーラ:ココロッテ、あなたの声も随分大きいみたいよ。
ココロッテ:うっ……。
エレオノーラ:それで、どうなの? ツルギウスとは。
ココロッテ:ツルギウス様とは……その、普通よ。貴族の娘と、騎士の、普通の距離。
エレオノーラ:そうかしら? 彼、私に対してはよそよそしいけれど、あなたと話しているときは活き活きとしているわ。あれは満更でもなさそうよ?
ココロッテ:え、本当に?
エレオノーラ:……ふふっ、あははは!
ココロッテ:も、もう、エレオノーラったら! 面白がって!
エレオノーラ:大丈夫、私は応援するわよ。あなたの恋。ぷっ……!
ココロッテ:エ・レ・オ・ノ・ー・ラぁ???
エレオノーラ:やだ、やめなさいよー!
ふたりの追いかけっこはノックの音で中断される。軽く身だしなみを整えてからエレオノーラは扉の先に問いかける。
エレオノーラ:あら、どなた?
ツルギウス:王宮騎士団、副団長のツルギウスです。エレオノーラ殿、突然お伺いしてしまい申し訳ありません。こちらにココロッテ殿がいらっしゃるとお聞きしたのですが……。
エレオノーラ:あら、ウワサをすればツルギウス様よ。愛の告白かしら? ふたりきりになるチャンスね。
ココロッテ:エレオノーラ……!
エレオノーラ:はーい! ココロッテならここに!
ココロッテ:もう、エレオノーラったら!
エレオノーラが扉を開けて、ツルギウスとヨツバルトが部屋に入る。
ツルギウス:失礼します。
ヨツバルト:やあ、邪魔するよ。
ココロッテ:まあ、ヨツバルト将軍……!
エレオノーラ:あらヨツバルト。あなたまでいたのね、知らなかったわ。
ヨツバルト:最初から俺がいると知っていたら、君は扉を開けることがないだろうからね。
ツルギウス:エレオノーラ殿。失礼ながら、こちらはヨツバルト将軍です。
ヨツバルト:はは、いいよ。彼女は俺の仕事を評価していないのだろう。それに俺も将軍らしい振る舞いをするつもりはない、この方が気楽さ。それより伝えたいことがあって来たんだ。
エレオノーラ:どうせまた退屈なお話でしょ?
ココロッテ:エレオノーラ、聞く前からそういう態度は失礼よ。
ヨツバルト:退屈なお話……君は毎度そういうが、お話なんてもんじゃない。俺が話すのは外の世界の現実だ。今回のは特に、これが最後の忠告になるかもしれない。
ココロッテ:最後、ですか……?
ツルギウス:ヨツバルト将軍、彼女らの不安を煽るような発言は控えた方がよろしいかと。
ヨツバルト:いや、強めに言っておかなければダメだ。ココロッテ殿は問題なさそうだが、エレろろーラは危機感がない。ボナふぁルト・カール・ほン・クラウゼぜッツ様のご息女でなければ、俺だって適当に安心させて放っておくさ。
ココロッテ:そ、それで、お話というのは……?
ヨツバルト:敵の軍勢がここ、スタンダールまで迫ってきている。
ココロッテ:そんな……!
ヨツバルト:いざとなればパルム川に架かる五つの橋をすべて爆破する。スタンダールは三十メートルほどの石の壁で囲まれているから、すぐには入ってこれないだろうが……それも時間の問題だ。エレろろーラとココロッテ殿は他国に亡命する準備を進めた方がいい。
ヨツバルト:そうだ。エレろろー……
:名前を間違えるヨツバに、ダイアからカットの声が掛かる。
ダイア:もう、カットカーット! なんでいつも名前噛むわけ、しっかりしてよー!
ヨツバ:いやこれ言いづらいんだもの。えれ、えるお、えれれ……
ダイア:ボナパルト・カール・フォン・クラウゼビッツ様のご息女エレオノーラ! 女性の名前を間違える騎士なんて本当に最低!
ココロ:でも、どうしてエレオノーラ? 他は役者の名前をもじった名前になってるでしょう?
ツルギ:そうだよ。俺はツルギだからツルギウスで、ヨツバはヨツバルト、ココロちゃんはココロッテ。ダイアはダイアが本名じゃん、なのにどうして……
ダイア:だーっ! もう、ダイアダイアって言わないでよ! 私は名前がコンプレックスなんだってば、そろそろ発狂するよ!?
ツルギ:なんで発狂するんだよ。ダイアって名前、俺はカッコイイと思うけど。
ダイア:だぁってだってだって、男の子が生まれるようにって願掛けみたいに名前決めちゃってさ、病院で先に女の子ですねって言われてたにも関わらず今更また考えるものアレだからってそのまま採用! めでたく生まれました女の子の名前はだいあです! しかもどう気を遣ったのか知らないけどひらがなにしよう、やわらかい感じがするだろうから、って。って!
ヨツバ:いや、って! と言われても……。まあ本名にかすらない名前にしたかったのは分かったけど、それにしてもえれろろーらって言いづらいよ~。このままじゃ新たなコンプレックスが生まれるだけじゃないか?
ココロ:あたしも名前好きだよ。やわらかい感じ、良いと思う。このふにふにほっぺたまらん~。
ダイア:ふにふにするにゃあ!
ツルギ:あ~確かにやわらかい感じがするのは認める、ってそうじゃなくて。いつもここでカットが入るから次のシーン練習出来てなくて不安なんだけど。ちょっと練習させてくれない?
ココロ:あ、うん、ふたりきりで庭で話すシーンだよね? ツルギウス様と、ココロッテのふたりきりで……ね。
ツルギ:そうそう、あのシーン今回の見せ場になるしさ、結構大事な場面になると思うんだ。
ヨツバ:じゃあ、俺はちょっと名前の練習でもしてようかな。える、ろ、えれのろ、ろろ……本当に中世の人ってこういう喋り方するのかなぁ。
ダイア:ブブー残念でした、中世の人は日本語喋りません~。それをわざわざ日本語でやろうってんだから、違和感があるのは仕方なくない? どうせ私は21世紀を生きるしがない女子高生だもん、中世とか生きたことないもん。
ツルギ:おい落ち着けよダイア。ヨツバも、俺らは脚本書けないんだからそういうのやめようって四人で決めただろ。
ヨツバ:そうだった。ごめんよだーちゃん。
ダイア:いいってことよ……じゃ、ふたりのシーンやろうか。私見ててあげる……はい!
ツルギとココロは定位置につくと、演技の練習を始める。
ココロッテ:ツルギウス様、私がスタンダールを発つ前に受け取っていただきたいものがあります。
ツルギウス:君が僕にと用意してくれたものなら、なんであろうと受け取りましょう。
ココロッテ:これは、母の形見の指輪です。父が若い頃に海を渡った先、パブェという湖の地下で手にした宝石をあしらっています。
ツルギウス:美しい。赤い宝石なら、この世界にきてからしばしば見てきたが、この宝石は特に鮮やかだ。傾けたときにだけ暗い赤を覗かせる奥ゆかしさは少し、君に似ている……。
ココロッテ:……あの、戦いが終わったそのときは、必ずふたり。いえ、四人でまた会いましょう。私、その指輪にあなたが無事であるようにって、何度もお祈りしたから、その、
ツルギウス:安心してください。この指輪が僕をココロッテ殿のもとへ導いてくれるでしょう。不安に飲み込まれそうな時は、初めて会った日あの聖堂で歌っていた歌を口ずさんで。
ココロッテ:はい。……祈りを、込めて。
ツルギウス:再会の際には、ずっと胸に秘めてきた思いを君に伝えよう。ココロッテ殿。
ココロッテ:私、待つわ! あ……いえ、その時をお待ちしております。ツルギウス様。
ふたりの距離が縮み、良い雰囲気といったところで突然しゃがみこむココロ。
ココロ:あ、あたし! お腹が今鳴っちゃったかも! ひぃ~ごめん!
ツルギ:別に俺は聞こえなかったよ、続けよう?
ココロ:だ、だめだめ、だめ……あの、ほら、んーーーもうすぐ! もうすぐチャイム鳴っちゃうし、着替えもあるから、ね!
ツルギ:そんなもう少しくらい……
ヨツバ:エレオノーラ! 言えた、言えたぞエレオノーラ!
ダイア:新しい呪文おぼえたみたいに高らかに叫ぶなよ! まあいいか、今日はここまでにしようお疲れ様~!
ツルギ:なあ、もうすぐ本番だぞ、少しくらい居残り練習していこうよ。
ダイア:ツルギ部長が言うのはごもっともだが、女子ってのは着替えに時間がかかるの。ごめんなさいね~ほら出ていった出ていった! ……っと、ココロいつまで照れてるの? このままじゃ、あのシーンいつまでも出来ないじゃん。さすがにもうごまかしだってきかないと思うよ。
ココロ:だーちゃんのいじわる! あたしがツルギくんのことを好きって知っててああいう台本にするんだもん!
ダイア:オーホホホホ、いちゃラブ台本はだ~い好物じゃ! もっと食わせろ~!
ココロ:本当に恥ずかしいんだからね! すっごくすっご~く照れるんだからね、本番うまくいかなかったらどうするの?
ダイア:いやぁ、そういう葛藤が舞台をよりよくすると思うのよね~あっ今名監督の名言みたいなの出たわ。メモしておこうかな。
ココロ:もう、ひとごとだと思って~!
ヨツバ:コンコン! 着替え終わった~? 戸締まりついでに一緒に帰ろうぜ。
ダイア:終わってるよ、どうぞどうぞ。戸締まりついでに帰り道すがら反省会でもしようか、とかそういうことなのかな。
ココロ:ああううう、ツルギくんさっきはごめんね。中断しちゃって。
ツルギ:いいよいいよ、気にするなって。それより帰りに寄り道していこうぜ、腹も減ったしさ。
ココロ:う、うん。ありがとう、ツルギくんは優しいね。
ツルギ:そんなこと無いと思うけど……やっぱりたった四人の演劇部員だからかな? 部長の俺、脚本書くダイア、大道具のヨツバに、衣装作ってくれるココロちゃん。誰一人欠けても演劇出来なくなっちゃうもんなあ。
ダイア:また名前で呼んだな~!
ツルギ:だーちゃんって呼ぶのなんか恥ずかしいだろ。
ヨツバ:俺はだーちゃんって呼べるけどね~。あっところでだーちゃん、新しくペット飼い始めたんだって?
ダイア:ヨツバはいつも情報が早いね、そうだよ新生活スタートだよ。
ココロ:へえ、可愛いの? 写真とかあるなら見てみたいなあ。
ツルギ:そうだ、じゃあ四人でこのままダイアんち寄ってこうぜ。
ダイア:家に来るのはいいけど、名前で呼ぶなっつの。……んで、可愛いっていうよりかは面白いかな、朝はうるさいし。
ヨツバ:え、なにそれ、何を飼い始めたの……?
ダイア:にわとり。