マネー、マネー、ダーリン!【あらすじ】
弟の英智からもらった怪しいパッケージに入っていた写真のまじないを試みる結。
その結果、理想の彼氏が出てくる夢を見るが……。
【登場人物】
結:英智という弟がいる。ポジティブな性格。非現実的なことにも適応力が高い。
ロイス:金持ちでイケメンという結の理想が詰まったような男。写真の世界から出るために結のハートをゲットしたい。
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結が風呂上がりに自室へ戻るとメモの貼り付けられたダンボールがベッドに置かれていた。どうやら弟の英智(えいち)が持ってきたようだ。
結:何これ……『姉ちゃんへ いいブツが手に入ったから、姉ちゃんに献上します。感想聞かせてね。 英智より』って、あいつまた変な物をネットで買ったんじゃないでしょうね? いい加減にしろって言ってるのに……中身だけは見といてやるか。えーっと、ゲームソフトか何かのパッケージみたいだけど『マネー、マネー、ダーリン!』ねぇ。乙女ゲームかしら? ハズレっぽいタイトルね……。
結がパッケージを開くと、そこには一枚の写真のみが入っていた。
結:……は、え? 写真だけって、これで何をどうしろっていうの? あれ、写真の裏に何か書いてある……『枕の下にいれて寝てください。あなた様に極上の夢をお届けいたします。』いやいや、枕の下に好きな人の写真を入れると好きな人の夢が見れちゃうよっ! とか今どき誰が信じるっていうのよ。でも確かに、かなり……いやとても好みのイケメンではあるんだよね。うーーーん……まあ、弟が? 英智がわざわざ用意してくれた訳だし? 渋々ね、感想も求められてるし、使ってあげなきゃね、姉としての責務ってもんだわ。よし、おやすみなさーい。
枕の下に写真を入れて、ベッドに横になると、結は不思議なくらいに早く眠りについた。
ロイス:グッモーニン、ハニー。早く起きないとキスしちゃうぞ~。んーーーまっ!
結:ぎゃーっ! なになに、誰!? え、は、はじめまして……?
ロイス:今日はやけに冷たいね、ハニー。確か君は低血圧だったかな、なら仕方ないね。君がはじめましてと言うのなら、僕は今日から君と恋愛を始めるまでだよ。……やあ、天から落ちてきてくれたのかな、エンジェルちゃん。僕の名前はロイス。君の最愛のダーリンさ!
結:あー、いや、えっと……むむ、よく見ると写真と同じ顔だわ。つまりこれは夢、よね……だとしたら、楽しんだもの勝ち。コホン、えーロイスだったっけ、私の最愛のダーリンを名乗るなら、私が恋人に求める基本条件は揃えてるんでしょうね?
ロイス:もちろんさ! まずは顔が良い! そして僕はフランスと日本のハーフ! スタイルもよし、お金も数える必要が無いくらいある! 君の理想を詰め込んだ男だよ。
結:やばい、フランスのハーフはポイントが高すぎる。しかもお金持ちだと、こんなにイケメンで!? やはり金持ちってのは顔で子孫を残してるんだな……合格! じゃあ私を、最高のデートにつれてってちょうだい?
ロイス:そうだね、では最高級のホテルを予約して、近くのテーマパークにでも遊びに行こう。君に夢を見せてあげるよ。アン、ドゥ、トロワッ!
暗転して、再び明るくなるとそこはテーマパークだった。
結:夢だから? 最強すぎる、私このまま目が覚めなくなっちゃうんじゃないの……やだ~幸せ! 遊びに行こう、ダーリン!
ロイス:いいとも、もちろんさ! 最初はそうだな、買い物にでも行ってコスプレグッズを楽しもうよ。君に似合うかわいいグッズを選んであげたいからね!
結:わぁ、私ハロウィンって大好き! この時期にテーマパークに来られるなんて思わなかった、嬉しい~! どれ買うか悩むね、ロイスには何が似合うかな?
ロイス:悩む必要は無いさ、結。このショップの商品はすべて僕が買い上げてあるからね。
結:え、えええ、全部? こ、この非常識な行いも金持ち故なの!? ……でも、私に喜んで欲しくてついつい張り切っちゃった、ってことよね。まあかわいいところもあるじゃない! じゃあ、ロイスにはこのコウモリのモチーフをつけてもらおうかな、金髪イケメンならヴァンパイアもありだよねぇ!
ロイス:ハハハ、僕も嬉しいよ。じゃあ今宵、僕は君だけのとっておきのヴァンパイアでいるよ。結の血は……さぞかし甘いんだろうなぁ。もちろん、今夜だけじゃなくて毎日を君の側で過ごしたいよ。そうだね、結とのベイビーはきっとプリティでキュートに違いないさ!
結:ばか、何えっちなこと考えてんのよ~! んも~!
ロイス:結には全部お見通しか、ハハ! あぁ、そうだ。ハニーにはこれなんてどうかな? そのセクシーな胸元によく似合いそうだよ。
結:え、札束? あー金持ちジョーク、かな? 胸にこれを挟もうって?
ロイス:む、そういえば興奮して少し汗をかいたみたいだ、こういう時にも札束って使えるんだ。……胸に挟むばかりじゃない、便利だよね。
結:そ、そうかな? タオルくらい貸してあげるよ? ……あ、あーそうだ! 私は狼の耳を付けようかな~魔女も捨てがたいけど、ケモミミってかわいいもんね!
ロイス:ハハハ、その耳にはとても札束が映えそうだね、リボンの形にしたりしてさ。折角だから、写真でも一緒に撮らないか?
結:はは、はははは……駄目だ、さっきから全然笑いどころが分かんない。何が面白くて笑ってるのロイス……! でも、玉の輿するならこういうのも乗っておかないと、バカにされちゃうよね。ははははは!
ロイス:その素敵な笑顔を写真に収めちゃおうかな。さあさあ、写真を撮るよ。掛け声は……?
結:え、掛け声ってなに、ハイチーズ的な?
ロイス:ハイ、マネーマネー!
良い笑顔でロイスがポーズを決めると、シャッター音が響く。
結:……完全に間抜け面で写ってしまった。いやいや、そもそもマネーマネーって何? 金持ちの間では流行ってるの!? 奥が深すぎるわよ、金持ちワールド……!
ロイス:アッハッハッハッハ!
日が沈み、イルミネーションが映える時間帯。結とロイスはパレードを見るために広場へ向かっていた。
結:あ~楽しくてついついパレードのこと忘れてたー! もう良い場所は取られちゃってるよね……残念だけど、今の今まで楽しんだし今回のパレードは諦めるかぁ。また来れば良いもんね、ってロイス何してるの?
ロイス:おい、そこの君……彼女に場所を譲ってくれたまえ。ほら、これをやるからさっさとどくんだな。
ロイスは札束を渡し、一般人にひとり、またひとりと場所を譲らせていく。
結:ロイス、いいよそこまでしなくて……諦めて遠目に見てようよ? 遠くからでもきっと楽しいよ。
ロイス:いや駄目さ! ……すまない声を荒げて、でも今夜は結と過ごす特別な夜だから何一つ諦めたりしたくないんだ。それに、これくらいは金の力で解決出来る。僕には数える必要がないほどの金があると言ったろう? ほら、お前もどくんだ! 金ならくれてやる!!
結:やだもう、嘘でしょ? もういいって、いいってば! 恥ずかしいからホテルに戻ろう!!
ロイス:なぜだ結! 金で何でも解決出来るのに、君ってやつは謙虚な女の子だなぁ。結~! ひとりでホテルへ向かわないでくれ、待って、待ってくれ……!
結:はあ、夢を見てたのにいきなり現金があんな大量に飛び出してくるなんて、なんとも言えない気持ちになったわ。私を大声で呼ぶのもやめて欲しいんだけど……。
ホテルへ着くと、スタッフたちはどこか緊張した面持ちで結とロイスを迎えた。
ロイス:やあ、この部屋こそ僕らが今夜、愛を確かめ合う巣だよ、ハニー!
結:な、何これ。ホームページでも見たこと無いようなキラキラで豪華な装飾~! シークレットスイートルームとか、そういうものなのかしら!? 金持ちってやっぱりすごいわ! 幻滅しかけていたけど、あまりにもメリットが大きいのよね~!
ロイス:違うよ、結。これらはね、今日、ハニーのためだけに用意させたのさ。きっと気に入ってくれると思った。
結:え、ここのホテルってそういうサービスもしてるんだ! さっすが~!
ロイス:いやそれが、中々ここの支配人が頑固でね。大金をいくら積まれても特別なサービスは出来ないの一点張りだったんだが、まあ金で解決したよ。金さえあれば周囲から懐柔することも簡単だからね。
結:じゃ、じゃあさっきのスタッフたちが硬い表情だったのも、私達に対して畏れを抱いていたからってこと……?
ロイス:そうだな、所詮は貧乏人。大金の前には怯えて足も震えだしてしまうのだろうね。
結:……むり、もう無理! あなたはイケメンでハーフで金持ちで、理想の彼氏だと思ったけどもう無理……! 私、先に帰るから!!
ロイス:結! 待って、待って……! どうして帰るだなんて言うんだ、僕が無理ってどういうことなんだ、僕は理想のダーリンだぞ! 金なら、ほら、こんなにあるっていうのに……!
結:お金より愛だなんて、そこまでロマンチックなことは少しも思わないけど、あなたみたいな非常識男ごめんだって言ってるの!!!
ロイス:分かった。ならこれでどうだ? 少し早いけど、君に誕生日プレゼントを用意していたんだ! おい君、チップならさっき渡しただろう。さっさとそこの紐を引っ張れ!
ロイスに促されたスタッフが紐を引くと、大きな布がスルスルとずれていき、下からは大量の札束が綺麗に並べられていた。
結:いやー! 頭おかしいんじゃないの!? 誕生日プレゼントが現金って、妙に冷めた親子関係かっつの!
ロイス:何を言うんだ結、これは100億円だ。その辺の親子じゃ用意することすら叶わないに決まってるだろう。形を伴わない愛より、大きな形をもった愛を君にプレゼントしたかったのさ。さすがに嬉しくて小躍りしそうだろう? 君がこの愛を、受け取ってさえくれたら僕は、一生の愛を誓って君の側にいられるんだよ? 夢だけじゃない、これからの人生をずっと、ずっと、
結:もういや、夢なんだから早く覚めて! こんな男、絶対むりむりむりーーーっ!
ロイス:そんな。ようやく、写真の世界を出られると思ったのに……。
絶叫と共にベッドで目を覚ます結。
結:はあ、はあ…………現実。……あ、あんな写真さっさと燃やして処分しなきゃ……。それから、弟にも文句言ってやるんだから……。
結が見落とすような小さな字で、パッケージには『あなた様が気に入った場合、彼は夢の世界から飛び出してずっと側にいてくれるでしょう。』と書かれていた。