アンドロイドなデンジと主人アキアンドロイドのデンジ。自分を引き取って連れてきてくれたアキのことは慕っている(主人として)。
初めて会った日から何処か寂しそうな顔をしていたアキ。その表情の理由をデンジは知る訳もなく、献身的にアキの身の回りの世話した。
アンドロイドとはいえ全てを完璧にこなせるわけでないデンジをアキは厳しく叱った。
アキに叱られる度に「俺、失敗ばっか...なぁ、もう俺なんか捨てちまえよ」と呟くデンジ。
それでもアキはデンジを捨てる事はなかった。デンジはデンジでこれ以上アキに叱られないよう隠れてできない事を克服していった。
できなかった事を出来るようになれば普段ほとんど変わらない表情のアキが優しい表情と大きな手で「よく出来たな、デンジ」とデンジの頭を撫でた。
そんなアキのことをデンジはもっと知りたいのに、アキはデンジに見えない壁を作り続けた。
ある日、アキが自室で髪を下ろしたままうたた寝しているのを見たデンジ。
歳のわりに幼い寝顔のアキが愛おしくなりデンジはついアキの髪から頬にかけて優しく撫でた。
その感触にぼんやりと目を覚ましたアキ。デンジは慌てて謝ろうとするが、自分の頬を撫でたデンジの手を掴み今まで見た事もない優しい顔でアキは
「...デンジ」
と呟く。
その言葉に大きく拍動するはずのないデンジの心が跳ねた。
そのすぐ後、完全に覚醒したアキはデンジに
「悪い、忘れろ...」
と残し出て行ってしまう。
1人取り残されたデンジは力無く床に座り込み、アキの見せた表情。愛おしい物に言葉を掛けるような声を思い出しうずくまる。
アイツ、あんな顔ができんのか?
俺には見せない表情を見せる相手がいんのか?
俺と同じ名前なのに、別のヤツだ...きっと、アキの大切な...
嫌だ...寂しい...怖い...
もっと俺を叱って...俺を見て...
「俺を...愛して...」
1人祈るように言った言葉は誰にも届く事はなかった。