Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    n_i7r

    @n_i7r

    原作未成年キャラのエロいやつは全て20歳以上への年齢操作です
    わりとミスキーにいます
    https://misskey.cloud/@n_i7r

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 57

    n_i7r

    ☆quiet follow

    マリィの手を掴んではばたきイベントホールまで振られに行く柊についての脳直怪文書
    ※マリィの人格の癖が強め、捏造多し

    マリィの手を掴んではばたきイベントホールまで振られに行く柊についての脳直怪文書 高架下の幹線から海沿いの国道へ抜けると、車内はぱっと乳白の光で満たされます。昼下がりの太陽が潮に反射して増幅し、隣に座って押し黙ったままの彼の黒々した睫毛をも、波のようにきらきらとさせました。さっき郵便局の前でおばあさんが停車ボタンを押したから、バスの車内はもう本当に、私たち二人きりでした。夜ノ介くんは黙ったまま、私の手首を掴んで座席のベルベットの上に縫い付け、静かに俯いていました。
     彼は本来こんなことをする人ではありませんでした。卒業式が終わり、クラスの皆が別れを惜しんでざわめく中、私も友人たちの姿を順番に探し歩いていました。しばらく離れ離れになってしまう人には最後の、同じ大学に進学する人には暫しの別れの挨拶を、と、一人中庭を歩いているときに、急に誰かが背後から私の手首を掴みました。「一緒に来てください。どうしてもです。」、と、彼は私に有無をも言わせずぐいと引っ張って歩き出します。彼の早足に合わせてもつれながら私も歩き、校門まで差し掛かり、なお歩みを止めぬ彼の背中に「どうしたの?」と聞こうとして、やめました。私もそこまで機微のわからぬ女ではありませんでした。同時に少しだけ失望しました。彼そのものに対してというよりは、理を蓋してままならぬ人の感情に対しての失望でした。私たちの間に三年かけて築かれた良き友人としての絆が、今から一旦粉々に破壊されるのだと思うと、それは私にとってときめくとか色めくとかではなく、ただ寂しい、やるせないものであったのです。
     私には、生来、恋というものがわかりません。今こうして君とお喋りしている現在まで、恋というものをしたことがありません。同性異性問わずです。なぜなのかと「正常な人」からはもう百万遍も問われましたがわからぬものはわからぬのです。特定の親しい個人を思い浮かべて、その人と過ごした楽しい思い出のことを考え安らかな気持ちになることはあれど、胸がどきどきするだとか、頭がくらくらするとか、体に触ってみたいとか触られたいとかそういうことを思ったことがないのです。親しい友が見知らぬ他人と仲良くするのにやきもちをやくからと言って、その人の自由や交友を契約によって、ともすれば性に基づいたおぞましい暴力によって縛り付けるような人倫に悖る行為が、なぜか色恋を理由にすれば正当化される理屈もわかりませんでした。恋バナが大好きな女友達たちのことは少しだけがっかりさせてしまいましたが、私に必要なのはただ友、友でした。彼は、夜ノ介くんは、そんな私にとっての、大切な友でした。
     彼は本来、人の手首を掴んで無理やりどこかへ引っ張って連れてゆくような、乱暴をする人ではありません。平常の彼は否が応でも万人に内在する暴力の可能性を正しく恐れ、慎重に取り扱おうとする人でした。昔、二人で映画を見に行ったときのことです。流行りのアイドルが主役に抜擢され、そんなに上手ではない演技に初挑戦するような、大衆向けの映画でした。帰り道、閑散とした裏通りを二人でぶらぶらと歩きながら、「例えば」と、不意に彼は言いました。「どれだけ芝居の出来が不味かろうとも、終演際、僕がその人の手を取って、微笑みかけ、親し気に耳打ちでもしてやるだけで、差し入れの箱に現金の束を突っ込みかねない人がいます。一人や二人ではありません。水商売とはそういうことです。」と。「……僕にできるのは、せめて真摯に作ることと、あとは距離を間違えないことくらいだ。」私にとっては経験したことも無い世界と、その渦中で戦う彼の辛苦のことを考えて返答しあぐねてしまった私に、彼はちょっと気まずそうに微笑みました。「まあ、とはいえ猫には人の道理なんか通用しませんからね。普通に嫌がられて家出されてしまった。いい勉強になりました。」からりと笑って、彼は再び顔を上げて歩き出しました。私はそんな彼を尊敬していました。彼の友であることを誇らしく思っていました。その彼が、今、無言のまま私を引っ張ってバス停まで連れてゆき、ようやく一言「次に乗ります。」とだけ告げ、それ以来また無言で十数分過ごすような、拗ねた子供じみたひとりよがりを働いていました。さりとて私が抗議せず黙って彼に追従したのは、それが横暴というよりは、怯えているように見えたからでした。結局この人も私とキスとかセックスとかがしたいんだろうかなどと考えてしまったら、私も彼に幻滅してしまうのかもしれない、とも思われましたが、実際、先程から私の手首を縋るように掴む指先の熱が、私の動脈へ伝導し、やがて全身に回るうち、私は彼のことを戸惑いよりむしろ憐憫の目で見るようになっていました。人の心はゆで卵みたいに糸で半分に割れるような代物ではない。平常背筋をぴんと伸ばして歩く彼が、今はこんなに頼りなく俯いて、それほどまでに私をどうにかして繋ぎとめておきたかったのだとわかったとき、私はただ共感によって、私自身では生涯感じることのないであろう、恋の苦しみのひとかけらを味わいました。今彼は私が隣に居ながら世界中の誰よりも孤独であり、どんなに心細いだろう、怖いだろう、と、微かに震える彼の手を握り返してあげたくなって、しかしその行為は私がこれから彼にする返答のことを思えば、不誠実と咎められても仕方のないことであることも、私にはわかっていました。
     海沿いを走っていたバスは、揺れながら再び街道へと入り、ごみごみした繁華街を通り抜けてゆきます。幾分かスピードを緩めたバスが赤信号で停車し、歩行者を待ちます。横断歩道を渡る人々の中には、私たちと同様に、今日卒業式を迎えたのであろう、学生服の姿も混ざっていました。みな晴れやかに、まだ見ぬ将来へ向かって弾むような足取りで歩いてゆくのでした。バスが発進し、「次は、市民ホール前、市民ホール前」と、私たち二人だけに向けたアナウンスを放送します。そのアナウンスの後でようやく彼が一言、呟くように言いました。
    「僕のこと、嫌いになりましたか」
     そんなことない、そんなことないよ、と、私はかぶりを振りました。彼は弱りきった声で続けます。
    「……僕はあなたから、選択肢を奪いました。男の力は振りほどけなかったでしょう。感情に任せて、ここまで無理やり連れてきてしまった。」
     私は彼の顔を覗き込みます。彼が弱弱しく顔を上げ、初めて目が合いました。その葛藤と後悔の苦しみをせめて表情に出すまいと、薄い唇を噛みしめて、瞳の月は今にも溺れそうに揺らいでいました。私は彼をとっくに許しています。彼という人間を知っている以上、大好きな友達であることに変わりなんか生じるはずもないのです。堪えきれず、とうとう、私は彼の手を握り返しました。かろうじて動かせる指先で私の手首を掴む彼を暇乞いするように撫で、緩んだ拘束からにわかに抜け出し、彼の橈骨の先端をなぞり、お互いの指を辿って絡めました。それは今や私たちだけの言語でした。世間という透明な個人のまなざしを断ち切り、ただ静謐に、二人きりで向き合った間に独立して成立した言葉でした。
     慣性に従って二人の体と瞳が同方向に揺れます。バスのアナウンスが、淡々と、ホール前へ到着したことを告げました。
     
     歩きながらぽつぽつと、話をしました。
    「本当は、何も伝えずに帰ろうと思っていました。この三年間のことは楽しかった思い出として、大切に胸にしまって宝物にしようと思いました。それで十分だと、余りある幸せだと思っていました。今でもそう思います。でもあなたの背中を見た瞬間、そういう諦めごと全部、吹き飛んでしまった。全部打ち壊してでもこの気持ちをあなたに押し付けたくなってしまった。それはある意味期待です。一縷の、なんて言えば響きは良いが、つまるところはあさましい欲です。僕が働きかけることであなたの心の何かが動くのではないか、試さずにはいられなかった。いや、それは正確でない。結果なんかどうでもよかった。あなたに伝わってほしかったんです。ばれてほしかったんです。この恋は大きく膨れ上がりすぎました。僕自身の依拠を乗っ取るほどに。この恋が今は僕そのものです。あなたに見てほしかった。見つけてほしかった。僕が今ここにいること。……そういえば、初めて会った時も、僕は迷子をあなたに見つけてもらったんでしたよね。」
     いつだって人と人との間に必要なのは、会話です。諦めず互いを信じて話をし、傾聴することです。このときの私たちにとってもそうだったのでしょう。話すうち、少しは彼の緊張も解けたのか、メインホールの客席に着く頃には「どうぞ」なんて微かに笑って、エスコートの真似事さえして見せました。「小屋入りは明日だから、まだ誰もいないはずです。……卓の人がひょっとしたら先に調光室に出入りしてるかもしれませんが」「えっ、見られて困るようなことさせないでね」などと、軽口も叩き合いました。
    「あなたを公演に招待した時、たしかこの辺りに座ってなかった?」
    「そうだったかな。あんまり覚えてないかも、どこに座ったって舞台しか見ないから」
     おずおずと、二人で並んで座ってみました。「それは光栄だな」、と彼は言いました。「舞台ってね、立ってると眩しいんですよ。板の上だけをめいっぱい照らすから、逆光で客席なんか見えたもんじゃない。『みんなじゃがいも』っていうよくある例え、あれ実は結構的を射ているんです。その中で一人、じゃがいもじゃない人がいた。初めてでした、芝居しながら客席のたった一人を意識したのは」
     私たちは変わらず、ひじ掛けの上で手をつないでいました。「見つけた瞬間、あなたの『楽しみにしている』という言葉を思い出しました。その期待に応えたい、あなたに楽しんでもらいたいと思いながら演技したとき、これまで感じたことのない楽しさが己の中にもふつふつと沸くのを感じました。あなたが喜んでくれることが、笑ってくれることが、僕の幸福でした。僕の行為はそうして間接的に、初めて、僕個人の情動と繋がりました。あなたの前でかっこつけたくて、そしたら、既に数え切れないほど再演した演目が、初めて驚くほどに楽しかった。幕が下りてしまうのが寂しくなった。万雷の拍手に泣きたくなった。ずっと終わらないでほしいと思ってしまった。永遠は、願った瞬間そこにあるのだと知りました。きっと僕は死ぬまで忘れない。あの日のカーテンコールのことも、あなたのことも。……今だって、あなたが僕だけ見つめるこの夢が覚めなければいいと思っている。」
     劇場の湿った静寂と闇は、人を否応なしに観念的な世界へ引きずり込みます。ここには二人しかいないのに、私は彼にさえ置き去りにされたことを刹那に悟りました。彼は既に一人で覚悟を決めてしまって、至極穏やかに、まるで朝の挨拶でもするみたいに、私をまっすぐ見つめて言いました。
    「導き出してしまえばこんなに簡単だ。僕はあなたが好きです。……ここまで、聞いてくれてありがとう」
     「私は」、と、ほとんど用意していた返事を告げようとして、私の言葉は詰まりました。そのとき感じていたのは絶望でした。まだ若かった私には、この世のありとあらゆるものはそれを望み、正しい努力をすることによって手に入るかのように思われていました。そんな私にとっての初めての絶望がこの瞬間だったのです。捨てねばならない、という絶望。私は今から私自身の信念のために、彼のこの切実を打ち捨て不意にしなければならないのだと理解した途端、あまりに悔しく、無念で、瞬時、怒りにも似た激情さえ覚え、矛先の無いままそれは脳漿で破裂し、目頭がかっと熱くなりました。正直な所を言えば、このとき私は、彼のためならなんだってしてやりたい心持であったのです。私に恋はできないけれど、彼の幸福のためだったら一生嘘をつき続けることだって容易い気がしました。全裸や穴の一つや二つくれてやることなんかわけもないとも思われました。ならば受け入れれば良いと言われるかもしれません。多くから理解はされないでしょう。わざわざ弁明したいとも思わない。しかし私は私という人格の自立と尊厳のために、それよりずっと大きな存在、社会構造と固着化したイデオロギーの傘がもたらす安寧に屈服するわけにはゆかなかったのです。きっと傘の中から見れば下らない意地です。人はそうしてみすみす幸福を取り逃がすのでしょう。それでも尚私には目前の幸福を捨て、戦場に身を投げてでも立ち向かわねばならないものがあったのだと、それだけのこととして受け止めていただければ幸いです。ああ、この社会がもっと自由だったなら、私や私と同じ属性の人々の選択が、偏見に晒され傷つけられることなく、個々の自由として尊重される社会であったのなら! 私は戦わなくても良かったのかもしれない。……否、何よりきっと彼自身が望まないとも、私は痛いほどに知っています。理と実は決して交わらず、いかに漸近して見えようといずれ必ず発散に向かうこと、そのエントロピーの存在を彼はきっと熟知していたし、私の幼稚なおためごかしなんか即座に看破してしまったことでしょう。
    「……私は、」咽頭から絞り出した悲鳴の残滓が、どうにか言葉の形を成します。「私は君に、誠実でありたいよ……」
     身を裂かれるような思いとは、このときの気持ちのことを指すのだと思います。彼はあたかも自分が一方的に救われたかのように言うけれど、違うのです。君は全然わかっていない!、と叫び出したくもなった。何事にも真面目で、実はちょっぴり要領が悪くて、それでも懸命だった君の姿に私がどれだけ励まされ、奮い立たされたことか。君の万事に対するひたむきな横顔は私の胸の後ろ暗い部分にも湧水のように清涼に染み入り、怜悧たる内省と僅かな痛みとを促し、人間として生まれ持っていたはずの尊厳と矜持を思い出させました。生まれたからには生きねばならぬ、生きるからには何一つ投げ捨て唾棄し諦めて良いものなど無いのだと、私は君に教わりました。一つの属性に生まれた存在として静かに戦いながら生きていこうと決めたのも、きっと彼の影響あってのことだったのだと思われます。……感情は、人の理を蓋してままなりません。これから君を傷つけることが、何より君がこれから傷付く覚悟をとっくに済ませてしまったことが、私には尚、あまりにも悲しかった。
     為す術をなくし、途方に暮れてさめざめ泣き出した私を、彼は当時の彼に可能な最も鋭い手段によってどうにか孤独から救い出そうとしたのかもしれません。あるいは単なる衝動だったのかもわかりません。雨の日の曇り硝子のようにぼやけた私の視界を彼は静かに覗き込み、やがてゆっくりと私に口づけました。私のほっぺたを焼きながら伝う涙を、ひんやりとした、白珊瑚の彫刻を思わせる繊細な指でそっと拭い、角度を変えてもう一度口づけました。言語の恣意性は時として現象を不適当に矮小化します。私は彼からの口づけを、至極自然なものとして受け入れていました。それだけが事実で、全てでした。
     
    「……私が夜ノ介くんにしてあげられたことなんか全然なかった。私の知る君はずっと一人、凛として立ち、己の足で歩いていた。善とは何か、真とは何か、常に誰かの幸いばかりを祈って正面から立ち向かい、迷い、悩み続け、拒絶したり逃げ出したりはしなかった。君が美しい人であることを私は知っている。大丈夫だ。この先何があったって君は絶対に乗り越えられる。迷ったって間違ったって見失いはせず歩いてゆける。私が証言する。だからどうか、どうか、私と君との縁がそれでも、君の栄誉ある旅路の礎の小さな一部たらんことを。さようなら、夜ノ介くん。私は君が大好きです。」
     
     ※
     ……さて、一方的な思い出話はこれくらいにしましょう。せっかくのお茶も冷めてしまう。私たちに必要なのは演説ではなく会話です。長い空白を埋め尽くすだけのお喋りです。次は君の話も聞かせてほしい。
     久しぶりだね、夜ノ介くん。また会えて嬉しい。


    .
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💜💜💜💜💜💜💜💜💜💜🌈😭🍼🍼🍼🍼🍼😭😭😭😭💜👏👏👏👏👏😭💜
    Let's send reactions!
    Replies from the creator