Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    Hyiot_kbuch

    @Hyiot_kbuch

    スタンプありがとうございます。めちゃくちゃ励みになります。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 🍻 ☺ 🐾
    POIPOI 50

    Hyiot_kbuch

    ☆quiet follow

    シンプルに吐かせたかったヤツ

    『壺を嘔吐物で満たさないと出られない部屋』
     気が付けば壁にそう書かれた部屋に南方はただ一人閉じ込められていた。

     一体ここは何処なんだととりあえず部屋を見渡す。扉が二つ、片方の扉の隣には不自然に人間の頭が収まりそうなサイズの壺が置いてある。これが満たすべき壺なのだろう。念の為ドアノブを捻るも鍵がかかっている。
     壺を持ち上げてみようとするも固定されている。それならばと中を調べるとなにやら上部に金属が貼ってあった。片方は銅と思われる光沢、もう一方は銀白色のもので恐らくは亜鉛だろう。どうやらボルタ電池と同じ仕組みで胃酸により電気を発生させドアを解錠するようだ。
     もうひとつの扉は自動ドアであった。近づけばすんなり開いた扉の向こうには壁際にビュッフェスタイルで置いてある食事と飲み物。ご丁寧にアルコールまでもが置いてある。 これだけの物があるのであれば、壺に満たすものは嘔吐物ではなく他に酸性の液体でも良いのではないか。アルコールというものは大抵酸性だ。吐かずに済むのであればそれに越したことはない。そう思った南方はとりあえず試しに近くのジョッキにビールを注ぎ片手に持ち隣の部屋に戻ろうとする。だが先程すんなりと開いた自動ドアはピクリとも動かない。
     しまった。迂闊に入ってしまったが、こちらも何かしら出るのに条件がある部屋だったか。しかし、向こうの扉と違いこちらの扉には解錠条件が書いていない。だが、ここまで吐くようにお膳立てしておいてこの部屋から出られないというのはどういう事だと先程入った時との違いを考える。
     やはりこれかと試しにジョッキを扉から少し離れたテーブルに置いて、再び自動ドアの前へと立つ。今度は何事もなかったかのように扉は開かれた。なるほど、こちらの物は持ち出せないようになっているのか。よくよく見ればジョッキの底にはタグのようなものが埋め込まれている。他の食器についても調べてはいないがきっとそうだろう。つまりアルコール等を用いるとしても己の身体を器として運べということか。どこまでも悪趣味だ。
     仮に身体を器とした場合、壺の大きさからして最低でも二度吐き出す必要があるだろう。現在空腹の胃には吐き出す物が入っていないため、ここにある食料を詰め込まなければならない。
    「毒とか盛られていないよな……?」
     自分でそう言っておきながらどうせ吐かせるものに毒を仕込んでどうすると自嘲する。それに南方の命が目的なのであれば、こんな回りくどいことをせずとも意識を失っている間に手を下せばよかったのだ。
     非常に気は進まないながらも南方は食事をすべく壁際の料理の元へ向かう。こんな部屋だというのに意外にも料理はしっかりと保温され出来たての状態を保っていた。品数もしっかりあり、和、洋、中のおかずが各三種はあり、スープも主食も三種類はあるといった揃いようだ。どう見ても一人分には多すぎる量。壺を満たす程吐いたとしても十分に有り余るのでは無いだろうか。
     近くにあった取り皿へほうれん草の胡麻和えをよそう。シンプルな料理であるこれがなにか盛られていた場合、一番わかりやすそうだ。
     試しに一口含むと特におかしい味はしない。至って普通の胡麻和えだ。これだけで盛られていないと考えるには尚早だが、どうせすぐに吐き出すこともありそこまで心配はいらないだろう。
     そんなことを考えながら、皿によそった胡麻和えの残りを口に入れた。口の中に胡麻の風味がひろがる。吐くために用意された料理とはいえ味付けもきちんとしてありなかなかに美味しい。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works