熱と卵雑炊とうわ言と布団から覗いている頬は少し赤らんでいる。
瞼は閉じられており、呼吸は少々苦しそうだ。
目の前の彼は、自身の上司でありバディでもある暁明星で、ここは、彼が暮らす部屋。
体調が優れずに寝込んでいる枕元で、額の固く絞った濡れタオルを新しいものに変えたところだが、横顔を眺めるくらいは構わないだろう。案外幼く見えて少し笑ってしまう。
そうしていると、彼との出会いをふと思い出して、目を細める。彼の元で働くのは心地がいい。
今日は、職務中からどこか様子のおかしかった彼を見かねて、いつも通り残業しようとするところを半ば無理矢理帰宅させた。心配だったので、お節介だとは思いつつも、家まで着いていくと、帰り着くや否や、電池が切れたかのように床へ崩れ落ちてしまう。
「夕間、悪い……」
慌てて受け止めてから布団へと寝かせたのだった。その時、少々引き摺る形になったのはどうか許してほしい。
着替えさせるのは流石に憚られたので、衣服を首元を少し弛めるにとどめる。それから、ラフな服を引っ張り出して、本人に自分で着るように促す。
そして、自身は冷蔵庫の中のものを勝手ながら拝借し、簡単に雑炊を作り始めた。
大方、本人も気づかないうちに相当無理をしていたが、帰宅して気が抜けたのだろう。
周りだけでなく、もっと自身のことを省みて欲しいところだが、今の彼に言っても仕方がない。困りごとがあれば打ち明けてもらえるように頑張らなければと、つい、鍋をかき混ぜる腕に力が入る。
卵雑炊を平らげてもらい、水分補給させたのちに、布団で眠る彼の横顔を見つめていたといったところだ。片付けも残っているのに。
すると、熱にうなされる彼がうわ言のように何かを言っている。
「……………、ま………」
耳をすませる。
「………ゆう、ま……!」
今度はあまりにも悲痛な声で呼ばれる。
思わず、ここにいると言わんばかりに、宙に寂しく伸ばされた手を取ってしまう。
彼の中でバディである自分の存在が極端に大きいことはどこか感じていた。それが危ういと理解していながらも、どこかで期待し、ましてや心が浮き立つ自分もいた。
彼の見ている夢の中ですらも自分が占める割合が大きいことが嬉しい。
もっと自分だけを見ていてほしい、なんて。
しかし、そんな発想をしてしまう自身に吐き気すら覚える。
そもそも、ただの部下に過ぎない一個人の、こんなみっともなく重苦しい感情は知られてしまっては、迷惑にしかならないに決まっている。そう思わないと、自分がとんでもないことをしてしまいそうで怖い。
とはいえ、彼の隣を誰かに譲る気は更々ないのだが。
ずっと変わらずに、というのは難しい話だろうが、許される限りは、隣で笑って、拳を振るうと決めているのだ。
「……ゆうま」
また、ぽつりと名が呼ばれる。
切ない気持ちを抱えたまま呟く。
「はい、メイさん。俺はここにいますよ」
――おやすみなさい。
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お題ガチャより
【熱にうなされるメイさんが自分の名前を呼ぶたび、心配と満たされる独占欲とそれに対する自己嫌悪とでぐちゃぐちゃになるゆうまくん。】
枕元でゆうまくんも寝落ちて、翌日メイさんにびっくりされてると思う。