鍵チャリ….…
ポケットの中にある2つの鍵を意識しながら
家へと歩いていた。
真下と交際することになった。
どちらからともなく、その場の流れで付き合うかという事になった。あまり恋人らしいことはお互いしてないが、ほぼ毎日と言っていい程あいつは九条館に来る様になっていた。
急に通うようになった理由を聞いたら、
「客室のベッドがよく眠れる。」と言っていた。
付き合っているからとでも言えば可愛げもあるものをと思わなくもなかったが、あの男が素直にそのようなことを口にするとは思えん。
それに睡眠は大事だし隈が薄れているのは本当なので、「そうか。」と答えてこの話は終わった。
しかしだ、俺も調査で遅くなるときがある。
その間もずっと外で待っている真下を見ると少し申し訳ない心持ちにもなる。
だから今日はポケットの中にあるものを作ってきたのだ。
九条館が見えてきた。
やはり今日も真下が扉の前で煙草を吸って時間を潰している。
「今日も来てたのか。」
真下へ声をかける。
「….…戻ったか八敷。」
俺に気づき面持ちが緩む真下は可愛いと思う。
本人は気づいていないようなので教えるつもりはない。
「調査にでも行ってきたのか?」
「今日は別の用向きで出ていた。」
「調査以外に出かける用があるのか?」
失礼な男だな。
一応これでも当主なのだがな….…
「これを作りに出てた。」
そう言ってポケットから出した手を開いて真下に見せる。
「………………鍵か。」
不思議そうに見つめた後、何かを察したという表情で
「貴様、鍵を無くしたのか?」
と口にし、呆れたというような目を向けてくる男。
本当に失礼すぎないか?
「これはお前にだ。」
「は?」
「いつも外で待たすのは悪いと思ってな。」
「ほら手を出せ。」
呆気に囚われてる真下の手に鍵を乗せ握らせる。
「待つなら家の中で待っててくれ。その方が安心する。」
「安心も何も、こんなとこ来るやつなんて限られて…」
「天気が悪い時もあるだろ。」
「それに、恋人なのだから安心させてくれ」
付き合ってから初めて口にする恋人という言葉に、口をパクパクと開けては閉じてを繰り返し、チッと舌打ちを鳴らした男は貰ったばかりの鍵を使って扉を開けた。
屋敷に入るとき耳を赤くしながら、
「今度からは自由にこの屋敷で眠れるってわけか、悪くないぞ当主様。」
なんて言うから可愛くて、つい頭をぐしゃぐしゃに撫でたら鳩尾に肘鉄を食らった。