薄紅の夜 人間の姿を模倣し、暗躍する以上マタドゥルモンも居住スペースを有している。否、正確には押し付けられたという方が正しい。
どうやら、吸血鬼の千年王国を築くという野望を持った同胞はマタドゥルモンには共感出来ぬ美学を持っているらしく、眠る場所さえあればいいと言ったマタドゥルモンに対し彼が用意したのは家具家電付き――どれもそれなりに良いものだった――の、一人で過ごすには些か広すぎる部屋であった。もう一体の同胞曰く、彼にも人型用ではないにしろ相応の良い部屋が用意されているという。
部屋を与えられた当初こそ、酔狂な同胞の行動に少なからず困惑したマタドゥルモンであるが、人間の真似事を続けてそれなりの時が過ぎればそれも日常へと転じ。彼は今日もまた、見慣れた自室の扉を開けるのだった。
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