箱庭仕事に疲れてしまった。
残業を深夜までして作った企画書を横取りされては手柄を奪われ、地位を上げていく上司に怒りと悲しみで一人で泣いた。
毎回精神をすり減らし、いつか波の音が響いく自由な海の元で冷たい水に身を沈めて死にたいと思うようになった。
「こんばんは、迎えに来ました」
夜の海の波が響く音と冬独特の冷たい空気に寒気を覚えながら砂浜に裸足で立ち1歩海面へと踏み出そうとしたら背後から聞いた事のない声がして肩に手が触れたかと思えば視界が回る。
咄嗟に閉じた目を開ければ見たことの無い部屋のソファへと座らされていた。
目の前の声をかけてきた知らない男が膝を着いて目線の高さを合わせ私の手を取る。
「待たせすぎましたねこんなに冷えて」
部屋は暖房がついているのかエアコンから流れる風が温かい。
先程の海辺の寒さが無かったかのように感じられる、海辺にいたのは事実なので体は芯まで冷えきっている。がそんな事はどうでも良くてこの目の前の男は誰なのだろうか、私が死ぬのを止めに来るなんて物好きだな。
「あなたの事をずっと追っていました、好きなのでここに住みませんか」
「私、あなたの事知らないし…死のうとしてたんだけど」
「そうですね」
空いている片方の手が頬に触れる、酷く優しく温かい手のひらの温度に少し泣きそうになる。
「死なせたくないのでここに居てもらいます」
「……」
「死なないと約束してもらえますか」
本気らしい、本当に物好きなのかもしれない。
返事をする前に部屋の説明をされてしまった、欲する物はできる限りこの男が買い揃えてくれるそう。
多機能な風呂や、キッチンも備え付けであるしテレビだってこの部屋にあるのが確認できる。
仕事もしなくていいらしくここで本当に暮らすだけで生きてるだけで良いと、何をそこまで?と疑問に思ってしまう。
「あなたを好きな以外に理由がいりますか」
「……」
「必要であれば経緯を全て話ますよ」
ずっと追っていたって言ってたけどいつからそんなことを?と考えたら怖くなったので断っておいた、何も心配せずこのままここで一生を過ごせれるのであれば楽なのかもしれない。この男からの好意は分からないけれど。
「そうですか、ですが念の為チップをあなたの体に入れさせてください。一瞬で終わりますので」
「…どうぞ」
なにかポケットから取り出し小さな入れ物から出されたチップは更に小さく手の甲に当てられたかと思えば「終わりました」と言われた今ので?と半信半疑になる。
位置情報、心拍数、血圧などなど色々測定してくれる優れものらしくアプリで全て見れてしまうそう。
「では今日からよろしくお願いしますね」
「あの、名前……」
「ああ、伝え忘れてしまたした。島崎亮です」
あれ?っと記憶の端っこで少しだけ何かが引っかかる感じがした様な気もするけれど鮮明には思い出せずにまあそのうち思い出すだろうと楽観的に考える。
「よろしくお願いします、島崎さん」
そして後から気づいたのでもう遅いのだが部屋には出入りする扉が一切なく壁には人が通れないほどの小さな窓と換気扇があるだけだということに。
--監禁生活のはじまり