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    ponponitainone

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    ponponitainone

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    厳しい王様と、想いを告げたくないぐだくんと、やきもきするジャンヌオルタ。
    途中まで!

    「立てぬと申すか、立香よ」
     砂埃が舞う戦場で賢王は己のマスターに問うた。立香は礼装のあちこちを汚し浅からぬ傷をいくつも作っている。エネミーは半数程度に減ったものの、共にレイシフトした英霊も少なくなってしまった。キャスターギルガメッシュにジャンヌダルクオルタ。立香の側にはもう二人の英霊しか残っていなかった。今の戦力を考えるとカルデアに帰還しても致し方ない。それなのにギルガメッシュは立香を焚きつける。
     ギルガメッシュの赤い瞳が立香を見つめていた。ジャンヌの嫌いな炎の赤だった。
    「…いえ、いけます!」
    そう言って立香は立ち上がった。傷だらけの体を無理やり鼓舞し、もう立てないという足に鞭打って歩き出す。キンという小さな音と共にジャンヌの体が熱くなる。立香が魔力を回したのだとわかった。
     傷だらけの少年を酷使するどこぞの王にも、王の言葉に答えるかのように無い魔力を捻り出す少年にも吐き気がしてジャンヌは小さく舌打ちをした。


     


    「あんたあの男はやめなさい」

    レイシフトから帰るなり立香の部屋に訪れたジャンヌオルタは、美しい顔を歪ませながらそう吐き捨てた。立香はベッドで横になり体を休めていたらしく、ジャンヌの来訪に目を見開く。突然のジャンヌの発言の意図がわから無いのかはあ、と間抜けな返答だけが返ってくる。そんな態度が不満だと言わんばかりにジャンヌは大きなため息をついた。
    よくわかんないけどとりあえず、と立香がジャンヌにマイルーム唯一の椅子を勧める。サーヴァントがよく遊びに来てくれるから用意したのだといつだったか言っていた。立香も転がっていた体を起こしベッドサイドに腰掛けた。

    「で、もう一回言ってもらっていいかな」
    「ですから、ギルガメッシュはやめておけと言っているの」

     ジャンヌが繰り返しても立香は意味がわからないと言わんばかりだ。人の機微には聡いのにどうしてこう自分のことには疎いのか。立香の態度にますます苛立ちが募る。

    「恋人なのでしょう。ギルガメッシュと。それなのにレイシフトでのあの対応!」

     惚れた相手が傷ついているのにさらに戦わせようとするなんて。あんな男絶対だめよと立香を指差して言う。対する立香は一度驚いたような顔をするとあーだのーうーだの言葉にならない言葉を繰り返した。要領を得ないその答えに立香を睨む。そうすると少し経ってから立香は何かを決めたかのようにあのさ、と呟いた。

    「俺と王様はそういうんじゃないよ」
    「…はあ?」

     思わず腰が浮く。恋人ではない?全くもって信じられない!
     ジャンヌ自身立香とはオルレアンを越えてからの付き合いだ。だからそれなりに古参といえよう。けれどあの賢王はそれよりももっと前、冬木から共にしていると聞く。それだけに二人の絆は深い。ただその絆はマスターとサーヴァントという枠を超えているとジャンヌは思っていた。
    以前立香が微小特異点にレイシフトした時のことだ。その特異点の性質ゆえか、特定のサーヴァントしか連れていくことができず、ジャンヌもギルガメッシュも留守番だった。ジャンヌは確かどうせ暇なのだからと部屋でゆったり過ごした気がする。数日後にレイシフト完了・マスター帰還との放送が鳴り響いた。出迎えがないのも寂しいだろうと管制室に向かうと、立香が丁度帰還したところらしくコフィンの前でスタッフに支えられていた。たった数日とはいえ立香からすれば自身の命をかけた旅だ。気力も体力も消耗しているだろうにしきりに首を動かしている。何かを探すようなその仕草が何か引っかかる。共にレイシフトしたマシュを探しているのかとも思ったがマシュは立香のすぐ側にいる。ジャンヌが疑問に思っていると立香は目的の人を見つけたのかへらりと微笑んだ。
     視線の先にいたのはギルガメッシュだった。いつもの不遜なオーラはなりを潜め、立香に微笑みを返している。あの、ギルガメッシュが!ほんの数舜の視線の交わりだった。だけれど側から見ていたジャンヌにもわかるくらい、彼らには深い絆があるのだと伝わった。
     ああ、二人はお互いを思い合っているのだ。すとんとなぜか納得できた。どうしてそう思うんだと言われてもジャンヌだってわからない。女のカンとだけ言っておこう。
     ギルガメッシュを選ぶセンスの悪さだけはいただけないけど、素直によかったなと思ったのだ。無理やり人理なんて大層なものを押し付けられた哀れな少年に、支えになる人がいる。それだけで湧いてくる力もあるだろう。
     あの光景をジャンヌは知っている。だから恋人でないだなんてあり得ないと思った。
     大きく深呼吸をするとジャンヌは立香に問うた。
      
    「でも、あんたあの王様のこと好きでしょう」
    「…うん。好きだよ」
    「なら、告白なり」
    「でもだめなんだ」
    立香の拳がぐっと握られる。
    「確かに王様のことは好きだよ。王様も役に立つ小間使いくらいには思ってくれてるんじゃないかな。」
    きっとそれ以上に思っているわよ。そう言いたい気持ちをぐっと堪える。

    「でもだめなんだ。王様がもし、隕石が降るような確率だとしても、俺に答えてくれたら俺はそれで満たされてしまう。きっと一番苦しい時にどこかでもういいかって思ってしまう」

    それだけは嫌なんだと立香は言う。満たされてしまうことが怖いのだと。もうこれで死んでしまってもいいかと人理を修復することを諦め、全てを投げ出してしまうことが怖いのだと。レフライノールによる管制室爆破で亡くなったスタッフ達。人理焼却により消えた全世界の人々。魔術的な知識も経験もない立香を支えてくれているカルデアスタッフ。そういう皆の努力を、生命を無視して自分の感情だけで投げ出してしまうことが怖いのだ。
    ジャンヌが立香の手を掴む。傷だらけの手をそっと親指で撫でた。きっとこの手はカルデアに来なければ傷ひとつないままだっただろう。令呪なんていう呪いも植え付けられなかっただろう。
    世界なんて背負わされていなければ普通に恋をする少年でいれたはずだ。

     「…勝手に世界を救うことを無理やり押し付けられて文句一つ言わない?自分の感情を後回しにする?笑わせないで。そんなことができたらあんたは今頃聖人よ」

    ジャンヌの眉間に皺が寄る。
    もし。もしジャンヌが主の声を聞き旗を手に取ったように。立香が自分で選んで立ち上がったのなら、今の彼のありようをジャンヌはきっと讃えるだろう。自らが決めた道を突き進むためにその他を捨てることはよくあることだ。彼の決意を心から称賛しよう。
    けれど立香はそうせざるを得なかった。どこまでも凡人でただの人でしかなかった彼が、突然英雄として世界を救えと言われた。そんな彼に使命以外の全てを捨てる義理などありはしない。
    ーーーせめて世界を呪いなさいよ、マスター。
    進むことしかできなくて、進み続けるために褒美の一つも受け取らない。そんな生き方をするならせめて世界を呪ってしまえ。自分にマスターという鎧を被せてしまった世界を恨んでしまえ。そうすれば復讐者たる己は何もかもを焼き払おう。貴方の道を拒むものを全て燃やし尽くしてしまおう。
    …立香がそんなことを望むはずがないことなんてわかっている。わかっているからこそ憎らしい。

    「何度死地に赴こうと、幾多の英霊を従えようと、貴方はただの凡人です。
    …いい加減理解しなさい」 

    だからこそ、貴方は聖人なんかにならなくていいのだと、感情に蓋をしなくていいのだと、私くらいは叫ばなくては。
    立香の手を強く握る。もしかしたら傷が開くかもしれない。開いてしまえと思った。

    「ジャンヌは優しいね」

    立香の呟きがマイルームに響いた。
         
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