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    日 髙

    @hidakatakadaka

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    日 髙

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    付き合ってる2人が
    イルミネーションを見に行くお話

    『イルミネーション?』

    珍しくスマートフォンで通話に出たファルガーは
    いつもよりもくぐもった声をしている。
     それぞれ作業やゲームをしながら、いつものたわいのない話をしている中で、ふと、昨夜に妹たちが話していた事を思い出した。目の前のパソコンにカタカタと音を立てて文字を打ち込んでいく。

    「そう!割と近くにあるテーマパークなんだけど、結構大規模のイルミネーションを今年からやるんだって」

    『へえ。気になるなら行こうか? 車出すよ』

    「うーん、気になるは気になるけど」

    寒いのは嫌だしなぁ。なんて考えながら検索に出たテーマパークのホームページをクリックする。
    トップページにはメインのイルネーションであろう城がライトアップされた写真が、バナーとして大きく表示されている。
     予想よりも本格的なイルミネーションに、「おっ」と声は出さずにおもわず反応してしまう。スクロールをしながら他の写真を見ていると、ヘッドホン越しに喉を鳴らしたようなファルガーの低い笑い声が聞こえてきた。

    『寒いから嫌だ、とか考えてるだろ』

    「んへへ、ばれた?」

    『日にちに拘りがないなら、今月にでも行こうか?クリスマス当日に行くより少しは寒さはましだろう』

    「うん、たしかにそれなら。じゃあ予定合わせて一緒に行こうよ」

    そういうと『ああ』と短い返事が返ってきた。そっけないけど口角は上がっているんだろうなと分かるのは、小さな成長だ。
    僕も足を床から離して少しだけばたつかせる。何を着ていこうか、と僕はクローゼットの中を頭に浮かべた。






    「平日なのに結構人いるね」

    「本当だな…シュウから話を聞いてから、やたら目に付くようになったんだけど結構特集されてたよ」

    通常料金より少しだけ安いナイトチケットを窓口で買って入園すると、園内には沢山の人で賑わっていた。思い返すとチケットを買う列も夕方にも関わらず並んでいたので、僕たちと同じでイルミネーションを目的に来た人も多いのだろう。
     園内を進んでいくと、赤レンガ調の建物が立ち並ぶ場所でチュロスの のぼりが、風にひらひらと揺れていた。少し焦げた砂糖の甘い香りが漂い、夕飯を済ませていないお腹がきゅーとなる。

    「ふーちゃん、僕チュロス買ってもいい?」

    「ああ、俺も何か買おうかな」

     売店で自分の分を頼み、ファルガーの注文を待つ。お酒のメニューを物欲しそうに眺めていたので帰りは僕が運転すると提案したが、彼は首を横に振って、悩んだ末にホットミルクチョコを頼んでいた。

    「ん、おいしい!久しぶりに食べたかも」

    さく、と音を立ててチュロスを一口齧る。出来立てで温かく、咀嚼するとじんわりと砂糖の甘さが口の中に広がり、シナモンの香りが鼻を抜けていった。最後に食べたのは思い出せないぐらい前で、なんだか懐かしささえも感じる。横を見ると熱そうにカップに息を吹きかけるファルガーがいた。口元に「はい」とチュロスを寄せると、ファルガーはそれを控えめに齧った。

    「うん。うまいな」

    「んへへ、でしょ?」

     チュロスを食べ終わった頃、コートのポケットに入れていたスマートフォンで時間を確認すると、いつの間にかライトアップまで20分を切っていた。よくよく周りを見ると、大勢の人がライトアップの瞬間を収めようとカメラを用意したり、どことなくそわそわとしている。

    「もう始まるみたいだな、どっか場所取るか?」

    「んー、よく見えそうな所あるかな……あ!」

     入園の時にもらったパンフレットを一応開いて見てみてもどこがいいのかよく分からず、首を伸ばしてあたりを見渡す。すると、ある一箇所が目に入った。僕は急いでファルガーの手を掴み、足早にそこへ向かう。ファルガーは急に手を取った僕に驚いている様子だったけれど、すぐ足並みを揃えて早足になった。

    「観覧車! これなら間違いないでしょ?」

    「はは!確かにな」

    息を切らしながらも、観覧車の足元に着いたが、そこにはすでに同じような考えの人達で列ができている。最後尾に並び、何度も時計を見ながら待っていると順番は思ったよりも早く回ってきて、運良くライトアップ前には間に合った。ぐらつくゴンドラに乗り込み、ファルガーと対面になって椅子に座る。

     ゆっくりと登っていくゴンドラが4分の1ほど回った頃、ライトアップの時間になった。窓に張り付き、じっとその時を待つ。ファルガーも席を立って僕の隣に座り直し、乗り出す様にして外を眺めた。
    「くるよ」僕はおもわず小声になる。少しの緊張感とゴンドラの中の静寂を破るように、地上が色とりどりのライトにみるみると覆われていった。

    「わあ、きれい…!」

    「これはすごいな!」

    中央の城やメリーゴーランド、さっきまで居たレンガの建物もキラキラと点滅したり、色を変えたり、なんだか玩具箱の中にいる様な気持ちになる。イルミネーションなんて子供の頃にしか縁がなかったけれど大人になってから見ても、こうして心が躍ることに驚いた。鼻の先に窓の冷気を感じるほど夢中で外を見ていると、思い立った様にファルガーが椅子に置いていたバッグを開け、何かを探し始めた。

    「シュウ、これ。こんなロマンチックな感じの場所で渡すつもりではなかったんだけど」

    「えっ!?ありがとう!!…ごめん僕用意できてないよ…」

    ファルガーがバッグから取り出したのは、綺麗な紫色のリボンでラッピングされた両手サイズの箱だった。眉を下げて、苦笑いを浮かべながら僕に渡す。
     プレゼントに驚き、嬉しさでその場で跳ねていると、クリスマスまで日付があるからと家に置いて来てしまったファルガー宛のプレゼントを思い出す。確かに渡すなら今日がよかったかもしれない、と肩を落として悔やんでいるとファルガーは口元に手を当て小さく笑った。

    「いや、クリスマスにしては早いから、大丈夫。気にするな」

    「うん…。ねえ、ふーちゃん開けてもいい?」

    「ああ、もちろん」

    丁寧に結ばれたリボンを解き蓋を開けると、なにやら小物入れの様なものが、そこにひっそりといた。表面には様々な色のクオーツが散りばめられている。おそるおそる中から取り出すと、わずかな光を拾ってさらに輝きを増していくそれは、小物入れにしては見た目に反してずっしりとした重みがある。でも、いくら見てみても何かは分からなかった。

    「なんだろう?」

    「中、開いてみて」

    ファルガーは蓋を開ける様な素振りをする。手探りで側面を撫でる様にして探すと小さな突起があるのを見つけた。指をかけてゆっくりと蓋を開けると、中には小さな小さな女神像と上蓋の内側には一面に星空が広がっている。そして、同時に音楽が鳴り始めた。

    「…オルゴールだ!」

    それの正体が分かり嬉しくなってファルガーの顔を見ると、正解と言わんばかりに目を細めて頷いた。

    「アンティークショップの前を通りかかった時に目を惹かれて、なんとなくシュウに渡したくなったんだ」

    「貰ったの初めてだよ。なんか、すごくワクワクしてる。この曲は…愛のワルツだね」

    「へぇ、曲は聞いたことあったけど、そんな名前なのか」

    「少しだけ音楽をやっていたからね。嬉しい、ありがとう。大切にする。」

    耳元に寄せて、流れる音楽に浸る様に目を瞑る。
    ファルガーは少し照れくさそうにして、窓の外に再び視線を移した。
     プレゼントに夢中になり観覧車は1番高いところをとうに過ぎていて、僕たちは惜しむ様に残りの時間はオルゴールの音色を響かせながらイルミネーションをただ2人で眺めた。




    「帰り混みそうだから少し早めに出る?」

    「そうだな、最後にメインのイルミネーションだけ見て帰ろうか」

    観覧車から降りた後、そんな会話をして移動してきたものの、メインの城の前はさらに人で溢れかえっていた。はぐれないように肩を寄せながら歩いているけれど気を抜いたら迷子になってしまいそうだ。
     そんなことを考えていると、急に人の流れが止まりそうなほどゆっくりになる。周りを見ると、数秒毎に色が入れ替わるライトで包まれた城を全員が見上げている。なんだか不思議な光景だ。
     そして横にいる彼もまた、城を見上げてその美しい光景に見惚れている。ふと、振り返ったファルガーと目が合った。見られていることに気づいたファルガーは、こてんと首を傾げて微笑み、僕が何か話しかけると思ったのか膝を少し曲げて耳を寄せる。
     僕はイルミネーションに照らされるそんな彼の顔を見てオルゴールを思い出し、寄せられた耳元にひっそりと話しかけた。

    「…目が、ふーちゃんのグレーの目がさっきのクオーツみたいに色んな色に変わってキラキラしてるね。きっと今日のイルミネーションも、今日のふーちゃんも、オルゴールを見ればいつだって思い出せるよ」

    「…………シュウって案外恥ずかしいこと言うんだな」

    耳を抑えて膝を伸ばしたファルガーは、しばらくの沈黙の後、呆れた言い草で顔を逸らした。ファルガーの目がイルミネーションの光をさらに反射させていたのを、僕はそっと見ないふりをする。

    「僕は思ったことを言っただけだよ」

    また一つ大切な日と大切な物ができた。
    それを噛み締める様にバックを抱きしめる。

    「また来よう」

    背を向けたファルガーがざわめきに消え入りそうな声で言う。でもそれは、僕にはやけに鮮明に聞こえた。

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