重力下メルヘンロマンス!「危ない!」
ここが地上であることを忘れていたわけではなかった。しかしこの後のスケジュールにばかり意識が向かっていて、無意識レベルでの注意力が散漫だったのは否定できない。部屋を出ると同時に無重力下のように床を軽く蹴ってから、「しまった」と悟った。ぐらっと重心が傾いて、見つめていたタブレットごと床に顔面衝突…… するかと思ったが、衝撃は襲ってこなかった。
「大丈夫ですか! 頭は打ってませんか!?」
「は、はい……」
先ほど廊下に響いた叫び声――― そうだ、彼と一緒に部屋を出たのだ。
「よかった……! 貴方に何かあったら―――」
隣の男が突然間抜けにつんのめって、さぞ仰天したことだろう。前方不注意と叱られると思いきや、こちらを覗き込む表情は大事に至らなかった安堵に満ちていた。
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