Ivory これまで心細くなったのは一体どんな時だっただろうと晶は思い浮かべる。例えば大学を出て就職してすぐの頃。学生時代は学校に行けば誰かしらいて、友達と過ごすのが当たり前で。帰宅すれば親がいて食事や寝床などの住環境を心地よく整えてくれた。就職して一人暮らしを始めたとたん、急にそのどちらも取り上げられてしまって、代わりに知り合いのいない職場、やり方が分からない仕事、知らない土地、他人のようにまだよそよそしい部屋と家具たちに囲まれた。どうやってそれを乗り越えたか、乗り越えたと感じたのかと思い返してみても、結局は時間が解決したとしか言いようがない。必死で前に進んでいるうちに、いつの間にか景色が変わっていたような感覚だったのだ。
4974