「ニキ……」
あぁ、まただ。
また燐音くんにアイドルを続けさせてあげられなかった。
最初は僕だってもっとやる気で、燐音くんに色々意見したりずぶずぶにこの問題に取り組んでいたはずだ。
なのにいつの間にか何度やっても同じ結末であることに疲れ、その代償のようにどんどんお腹が空いていく。
燐音くんの故郷に帰った僕たちから先の未来は見たことがなく、気がつくとまた僕らが出会った日にいるのだ。それも空腹が蓄積された形で。
時間が巻き戻るたびに僕のお腹からなくなっていくものはなんなんだろう。
「ニキ……」
あぁまた、燐音くんにこんな声を出させてしまった。
僕だけが悪いんじゃないことは十分にわかっている。でも、一番状況がわかっていて結末も知っている僕が避けられずこの結果なのはさすがの僕でも罪悪感が湧くというものだ。
背中に当たる体温がじんわりと僕に移り、まるで責められているかのように僕の中に重く沈んでいく。僕が悪いんじゃないけど、燐音くんがああいう行動に出てしまうのは僕のせいでもある気もする。
もうお腹がすいてなにも考えたくなくて、僕は何度目かの言葉を吐いた。
一緒についていくと言った時の燐音くんの表情は毎度変わらない。なぜそんなに驚くのかもずっとわからないままだ。
そして、僕を突き放すことがないのもいつも同じだった。だって僕たちはもう簡単に言うと運命共同体のようなものなんだから。
だから、何度やっても僕たちの関係が変わることもないのはわかりきっている。燐音くんの思考も信念も変わることはないので結果はこれからも同じだろう。
だったらもう、諦めてしまおうか。
「燐音くん、なんか疲れたっすね」
そう笑いかけると、燐音くんの表情がますます泣きそうに歪んだ。そんな顔をさせたいわけじゃなかったのに。
燐音くんと故郷に帰って、その先の未来に進めるかわからないけど最後になりそうだし、今まで出来なかったことをしよう。お腹なんて空きすぎて微塵も食べたくないけど、いつも気になって後ろ髪引かれる思いで見送ってたサービスエリアでご当地のものでも食べよう。その土地の肉を使った串焼き、食べるのがめんどくさそうな焼き貝、変な味のアイスクリーム。
「燐音くん、帰る途中でなんか美味しいものでも食べましょうね」
「お前はほんと、そればっかりで安心するわ」
こんなことを言ったのは今回で初めてだけど、ご飯のために一緒に付いてってるって思ってくれてるなら燐音くんの気も軽くなるからまぁいいか。
そんなことを思いながら、ご当地に全然関係のない蕎麦なんかもいいな、なんて考えた。