マリッジ・リグレット(次五) 五ェ門、お前はいつだって我儘な男だ。スパゲッティを作ってやったというのに、今日は蕎麦の気分だったと皿を前に吐きやがる。気を利かせて褌を洗濯機に食わせてやった日も、「何故手洗いにしなかった」と憤る。そういうなら、最初から洗濯板のひとつでも用意しておけばわかるってのに。
五ェ門、お前はいつだって適当な男だ。俺のブランデーを(勝手に)拝借したかと思えば、日本酒の入っていたお猪口にぶち込む。お手製カクテルのつもりなのだろうが知らないが、味の混ざったブランデーはブランデーじゃァないんだ。そいつを指摘しても、お前は空返事で酒を煽るのみ。くそ、旨そうに笑いやがって。
五ェ門、お前はいつだって馬鹿な男だ。降り注ぐ弾丸の雨を駆けて、守りたいものを守る。自分の命なんて二の次だ。大抵の窮地もお前なら大丈夫だろう、と思っている節があるのは事実だが、それでもお前の身を案じていないわけじゃない。晒を赤く染めてアジトに帰ってきた日に感じた、あの心臓の冷たさは忘れられない。お前は無茶して格好つけるから、そんな所がたまにいやになる。
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