Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    akishima221z

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 17

    akishima221z

    ☆quiet follow

    ■if:最初の狙撃手と最初の弟子の話。
    東春秋(21)/木崎レイジ(17)
    ※過去捏造/すべて妄想

    ■if:最初の狙撃手と最初の弟子の話。-----



    最初の狙撃手・東春秋は、
    大学院で歴史(戦史)を研究している。

    彼が何故、それを選択しているのか。
    その理由は、誰も知らない。



    ■if:最初の狙撃手と最初の弟子の話。

    ---

    その日のことを、東はよく覚えている。
    それは、今から4年ほどの前のことか。

    その日、東はラウンジの一席で。先日に預けた企画書の行方を確認していた。

    「東さん」

    名を呼ばれ、手元の端末から顔を上げる。そこに立っていたのは、ボーダーゼロ世代の青年、木崎レイジ。まだ高校生だと聞いている。

    (こんな声をしていたのか)

    そのとき東は、彼は自分の名を知っていたのか、と。そのぐらいのことしか考えていなかった。

    後から思えば考えるべきであった。そうすればもっと違う対処もできたのかもしれない。

    「東さんが狙撃手を作るとききました。弟子にしてください」

    「………弟子?」

    「お願いします」

    広々としたラウンジに。
    木崎の声が、凛と通る。

    そうして東は
    頭の片隅で。
    思い出していた。

    『今日はラウンジに
     寄っていかないの?』

    そう、話しかけてきた
    人懐こい、あの少年も。

    ゼロ世代のこどもではなかったか?


    ---

    「いやいや、
     ちょっと待ってくれ」

    東は片手をあげ、
    まずは制止を求めた。

    そうして東は考える。

    (ーーー何が、始まった?)



    設立して間もないこの組織は。
    最近、本部施設ができた。
    堅牢な巨大建築。

    その外観に対し内部で稼働しているエリアはまだごく一部に限定されている。立入禁止内の区域でどのように整備が進んでいるのかは、東にはわからない。

    知るべきではないことが
    多分ここには多大にある。

    そんな中で最近ラウンジが解放された。

    現在のボーダーの人員数に対してはただただ広い。訓練の合間に、防衛任務の合間に。人が集まる。ココはそういう場になっていた。

    東は穏やかに自分の場を築いてきたつもりだった。程よくと、突出しすぎず、目立たずに。


     ーーーーこの組織の
     傍観者となるために。


    東の予定では。
    このラウンジで。

    人の目を集める流れに
    巻き込まれる予定は、
    まったくもって
    無かったのだ。

    今、このときまでは。


    東は目の前に立つ、青年を見上げた。


    ---

    界境防衛組織、ボーダー。

    設立して間もないこの組織で。設立以前からこの戦場にいた、語られざる戦史を生きたこどもの一人。

    ーー木崎レイジ。


    『我々はこの日のために
     ずっと備えてきた』


    記憶に新しい、先日の。
    三門市災害、近界民侵攻。

    それまでの常識が覆ったあの日。
    あらゆる衝撃が走り抜けたあの日。

    様々な戸惑いの中。
    その一団に、こどもたちがいることも。

    その時期の自分には。
    衝撃だった。


    ーー何故、守られるべきこどもが?


    当初から見事な情報統制だった。
    こどもたちの個の情報は伏せられ
    巧みに繰り返し重ねられる
    未知の敵への今後の防衛指針。

    「近界民侵攻」と、最初にその
    呼称を使い出したのも彼らだった。

    彼らは畏怖を適切な範囲で煽り。
    明確な具体的な指針を語り。
    近界民と言う共通敵を定め。

    侵攻された。
    だから、
    "守る"のだ、と。

    侵攻された。
    だから、
    "反撃"するのだ、と。

    わかりやすい"理由"を作る。
    シンプルな"理由"を作る。

    人を動かすために。
    人の思考を奪うために。

    そうして、彼らは
    世論を支配し。

    この国に。この街に。
    防衛組織を作り上げた。


    ーー認めさせた、"戦う"ことを。


    戦争の始まりを見た。
    幾多の綴られた戦史で見た、
    人々の常識が塗り替えられる瞬間が。

    この、三門市で。

    常識の境界が変わる。
    静かに、変わりゆく。
    境界の向こうには、一体何があるのか。

    最初に思った。
    これからの日々は。
    後の世でどのように語られるのか。

    次に思った。
    今のこの日々は。
    後の世で、はたして語られるのか?

    近界民と呼ばれる、アレは。
    いつの時代から、いた?

    いたはずだ。
    そう、以前から。

    ならば、何故。
    歴史に残らない?

    人の歴史には
    語られざる空白の時代が時折にある。

    空白があることさえも
    巧妙に隠されたものも。
    おそらく、あるのだろう。
    あるはずだ。

    人の歴史は、不可思議だ。
    だからこそ、魅せられる。

    歴史に残らない歴史が、今。


      この、三門市でーー?


    そう、有り体に言えば。
    東は、リアタイがしたかっただけだ。
    リアタイができると思った。

    歴史に残らない歴史を。
    より良い、席で。


    東は穏やかに自分の場を築いてきたつもりだった。程よくと、突出しすぎず、目立たずに。

    だからこそ。

    冬島に預けたのだ。
    狙撃手に関する、それらを。
    開発室からの上申という形式で。

    東の名は伏せた。
    東の存在は消した。

    しかし木崎は先程言った。

    「東さんが狙撃手を作るとききました」

    ………………どこから?
    数秒前のあの操作か?
    数秒前の? ログで?

    時系列がどこかおかしい。
    ーーー何が、起こった?


    ---

    「東さん」

    木崎が再びに東の名を呼んだ。
    思考が浮上する。

    木崎が静かに東を見ていた。

    「弟子にしてください。お願いします」

    繰り返される。

    「……きみが? 俺に?」

    この会話の流れは危険だ。

    現ボーダーで。
    トップクラスのトリオンを持つ青年が。
    東を見ている。

    「俺が教えられることは何も無い。
     きみはもう攻撃手として充分な……」

    まだ層の薄いこの組織の中で。組織構築に動く上層部の大人達に代わり、現場の防衛を静かに回す。
    個で一部隊相当の戦力を持つ彼は、黙々と。担当エリアに開く門を捌き、担当外のエリアのサポートにも気を配る。

    そんな印象がある、青年だった。
    だから。

    見誤った。

    「足りません。
     失うばかりでした」

    彼の声が、被さる。


    強い、強い眼差しが。
    強い、強い意志が。
    東を捕らえる。

    そうだ、目の前の彼は。
    設立以前からこの戦場にいた、
    語られざる戦史を生きたこどもの一人。

    この戦争が始まる前から。
    彼の戦場は始まっていた。

    そう、ずっと、以前から。


    「お願いします」


    何故、傍観者でいられると思った?


    「ーー迅が、」

    「迅が、
     最上さんのトリガーを使うなら」

    「俺にも。
     長距離で戦う術が必要です」


    引き上げられる、この壇上に。


    「……俺は。迅と小南を
     「守れ」と言われている」


    わかりやすい"理由"が。
    シンプルな"理由"が。

    人を動かし、
    人の思考を奪う。


    そうだ、もう既に。
    境界線は遥かに越えていた。



    ここはもう、ボーダーだ。



    ---

    「木崎! どうした?」
    「忍田さん?」

    ラウンジに新たな声が響く。
    防衛任務上がりと思える衣服の忍田が、木崎の肩に手をかけた。

    木崎の視線が外れ、東は自分が息を詰めていたことに気付く。

    「東くん、木崎がなにか……?」

    これまでさほど関わりが無い2人が、ラウンジの注目をあび、対峙している。流石の忍田も普段とは違う空気を察したか。

    「あぁ、いえ……」

    どう説明したものか。
    一瞬と思考を巡らせようとした後に。

    東は、考えることを止めた。
    シンプルに行こう。

    「彼が、声をかけてくれた所で」

    忍田に。穏やかないつもの声音で返した東は、そのまま木崎へとゆるやかに笑みを向けた。

    「……きみの希望は、わかった。
     だが、狙撃手はまだまだこれからだ。
     手伝ってくれると、嬉しい」

    そうして。

    「よかったら、座っていかないか?
     もう少し、話をしよう」

    ようやくと東は、佇む木崎に席をすすめたのだった。


    -----

    その日、
    ひとつの未来が
    確定した。



    木崎レイジが東春秋の弟子になった。
    東春秋が狙撃手を作るらしい。

    その日、ボーダーを駆け抜けた噂に。
    東は今でも思うときがある。

     (俺は、弟子については。
     了承した記憶は無いのだが)



    4年を経た、今。
    東の系譜は広がり。

    気付けば、数多くのこどもたちが。
    戦場に立っている。



    今ならば、
    躱せただろう。

    だが、あの頃は。

    自身では大人の側にいたつもりではあったものの。まだまだと自分も存外と、若造だったということだろう。

    21歳だった自分が描いた立ち位置とは。
    随分と違う、道を進むことになった。

    でも。
    それもまぁ、悪くない。


    戦争の始まりを見た。
    だから。
    戦争の終わりを見よう。


    今日も、東は。
    歴史に残らない歴史の日々を
    語られざる戦史の日々を
    自身に綴り、進むのだ。


    人の歴史は、不可思議だ。

    だからこそ、何よりも
    愛おしい。



    -----

    ■END■


    東さんからの木崎の呼び名が
    いまだに判明していないの、
    本当に。

    ワは何もわからない……。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭😭
    Let's send reactions!
    Replies from the creator