うちよそ第2話【第8幕】 会場を出ると途端に喧騒は遠のいた。ベルボーイと微かに会話を交わした玖朗は、恐らく行き先の階層を告げたのだろう。乗り込んだエレベーターは相も変わらず滑らかに上昇していく。追眠はちらりと隣を窺ったが、玖朗は視線を合わせてくれなかった。するりと、腰に添えられていた手が離れていく。
「20階です。ごゆっくりお寛ぎくださいませ」
一礼するベルボーイに見送られてエレベーターを降りると、周囲は一層の静けさに包まれる。エレベーターホールを挟んで、左右に真紅の絨毯が敷き詰められた通路が細長く伸びていた。先ほどまでの人だかりが嘘のように人影が一切見えない。無言でつかつかと歩き出す玖朗に、追眠は慌ててついていく。
「なぁ……なんでさっきから黙ってんの? なんか怒ってんのか」
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