手鎖の部屋で 花沢勇作少尉が目を開けると、真っ白な天井が目に入った。いや、天井と呼ぶには境界線が曖昧で、目を動かす範囲すべてが白い。
「気が付きましたか」
ふいに聞き覚えのある低い声が隣からして身体を起こすと、そこには尾形百之助上等兵、つまり勇作の兄がいた。いつも通りの軍装だが胸元は寛げている。
「兄様……ここはいったい」
周りを見渡せば一面真っ白の空間だった。一人でこの状況におかれていたら我を失ってしまったかもしれない。兄が居てくれて良かったと思うと同時に何故このようなところに二人で居るのか分からなかった。
「兄様、私たちは蕎麦屋で昼食をとっていたと思うのですが」
「はい。俺もさっき気がついたところですが、知らぬ間にこんなところへ来てしまったようです」
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