指輪を無くした大國さんの話指輪をなくした。
昇平が揃いのペアリングが欲しいと言うので買いに行って、つけるようになってから数ヶ月。
ふと、自宅に戻って手元を見ると昨日まで左手の薬指にあったそれが、なくなっていることに気づいた。
確かに今朝指輪をつけた覚えはある。
でもそのあとどうしたか正直覚えていない。風呂の時はいつも外しているが……と思って脱衣所を探してもない。
外で気づかないうちに落としていたら絶望的なのでそれはあまり考えたくない。
だが、家の中で指輪を置きそうな場所、落としそうな場所を探しても何処にも見つからなかった。
職場でわざわざ外すなんてこともないし……それこそ剣道で外す時はいつも昇平に預けている。
もし、このまま見つからなかったら……。
あいつの反応を予想する。昇平のことだから怒りはしないだろうが『俺はすごく嬉しくて大事にしてたけど、統くんにとっての指輪ってやっぱりその程度の物なんだね』とか思われそうで嫌だ。言わないだろうが勝手にそんなこと考えて落ち込まれそうだ。
いやそもそも無くした俺が悪いのはそうなんだが……。
正直に言うか迷ったが、悲しませたくないしできれば昇平にはバレないで解決したい。
明日一応職場も探してみて、無ければ同じのが売っていないか探すか……いやでも正直シンプルな銀のリングだから似たのと見分けつかないかもしれねぇ。
『ピンポーン』
思考がインターホンで中断される。こんな夜に誰だと確認すると昇平が扉の前で待っていた。
「昇平、どうしたんだ?」
扉を開けて、なるべく普段と変わらないように対応する。
「ああ、ごめんいきなり。LINEしたけど暫く反応なかったからそのまま来ちゃった」
その言葉で、そういえば暫く指輪を探していてスマホを見ていなかった事に気がつく。
「悪かったな、部屋掃除したりして見てなかった」
「……それで、わざわざ何しに来たんだ?」
「忘れ物、探してるかと思って」
そう言って昇平は俺の目の前に右手を差し出した。
その掌の上には銀色に光るリングがある。
「……どこで見つけたんだ、それ」
「俺の家。昨日遊びに来た時にそのまま外して置いてったでしょ」
ああ、そういえば昨日昇平の家で風呂借りたんだった、すっかり忘れていた。
「ん、悪い。家の中探してもなかったからちょっと焦った。良かった」
安心して、受け取ろうと右手を伸ばす……が、ひとつ思いついて手を戻した。
昇平は不思議そうに俺の顔を見上げてくる。
「?、とらないの統くん」
「昇平がつけてくれよ」
「……なぁ、いいだろ」
つい、こいつの顔を見ると甘えたくなる。
指輪を買った日と同じように、俺は昇平に今度は左手を差し出す。
昇平はしょうがないなぁと笑ってから、銀色に輝くそれを薬指に嵌めるのだった。