My Honor〜悪癖〜サイクロンが深夜、マーヴェリックの部屋へ様子を見に行くと、そこには床で寝ている彼を見つけた。
ルースターの言っていた通りだとため息をつくと、眠りの浅い彼を起こさないように、そっと抱き上げベッドへ戻した。
帰還中空母内で発覚したマーヴェリックの床で眠る悪癖を、ルースターは共に暮らすことになったサイクロンに話していた。
空母の硬いマットでも柔らかいと言っていたマーヴェリックは病院のベッドでもろくに眠れず、何度か睡眠薬を処方された。
退院後やってきたサイクロンの家のベッドはさらにふかふかと柔らかく、眠れるか不安そうにしていたマーヴェリックだったが、やはり眠れなかったようだ。
サイクロンはベッドに横たえたマーヴェリックの隣にそっと潜り込んだ。
そして、体を胎児のように丸めて眠るマーヴェリックの背中を優しく、けれどしっかりと抱き込むと眠りについた。
翌朝マーヴェリックが目を覚ますと、誰かに抱きしめられていた。
ギョッとして身構えたが、相手の顔を確認しようと振り向くと力を抜いた。
「ボー?」
そこにいたのはサイクロンだった。彼の綺麗に整った顔を縁取る産毛がカーテンから溢れる光をさらに輝かせていた。
いつも寄せている眉間の皺もなく、上げている前髪が額にかかると幾分か幼く見える。
そんな普段と違う彼の様子が面白くてしばらく見つめていたが、睫毛がふるりと震えゆっくりと目が開いた。
「ピート?」
「おはよう、ボー。」
サイクロンは目の前にいるマーヴェリックの美しい顔に目を奪われた。
穏やかに微笑み、入院中に消えなかった目の下のクマが心なしか薄くなっているような気がした。
「おはよう、ピート。」
「ボー、僕、昨日床で寝てなかった?」
そう眉を下げ尋ねるマーヴェリックにサイクロンは上体を起こすと、背をベッドボードへ預けながら答えた。
「床で寝ていたので、ベッドへ戻した。傷に触るといけないからな。」
「・・・信じられないくらいぐっすり眠れた。君のおかげかな?」
マーヴェリックはなぜ添い寝していたのか、と言う疑問は尋ねることなくふわりと微笑んだ。
グースを亡くしてからここまでよく眠れたのは初めてだった。隣にサイクロンがいたことも気づかなかったくらいだ。
サイクロンは微笑むマーヴェリックを愛おしそうに見つめた。