My Honor〜感謝祭〜感謝祭がやってきた。
ルースターたちヤングガンズとサイクロンがマーヴェリックと共に教会のスープキッチンを手伝いに来ていた。
始めはルースターとサイクロンだけだったが、話を聞いたヤングガンズも参加することになった。
皆の手にはたくさんの食材が入った紙袋や木箱があった。
「やあ!ピート!」
教会の前でテーブルなど準備していた男がマーヴェリックに親しそうに話しかけた。服装からこの教会の牧師のようだった。
「おはよう、牧師様。」
「おはよう。今日は友達も連れてきてくれたのか?賑やかでいいな!」
「あの、シスタークラレンスは?」
「キッチンにいるはずだ。」
気さくな牧師と二言三言、言葉を交わすとマーヴェリックはたくさんの食材を持ったヤングガンズを引き連れて、教会の中へ入っていった。
しかしサイクロンだけは牧師に捕まってしまった。
「あんたたち、軍人さんかい?」
「ああ、そうだが・・・何か?」
「いや、スープキッチンによく来る退役軍人たちがピートも軍人だって言ってたから。本当なんだなって思ってな。」
サイクロンは不思議に思った。マーヴェリックはこの教会の手伝いに何年も来ていると言っていた。それなのに、軍人だったと知らないのは少し意外だった。
「ピートはうちの教会では”守護天使”って呼ばれててな。自分も大変そうなのにホームレス支援に熱心に参加してくれるし、寄付も良くしてくれる。シャイで自分のことは話さないし、人と深く関わり合おうとしないが、みんな彼を良き隣人として愛している。」
サイクロンは牧師が話す言葉に静かに耳を傾けた。
マーヴェリックはどこにいても皆から愛される、そう言う存在だ。たとえ彼自身が望まなくても、彼を愛し、心配し、支えようとする人は必ずいる。
長年の不遇の時でも一人きりでなかったことに、サイクロンは心の底から安心した。
そんなサイクロンに牧師がちらりと視線をやった。
「そう言うわけで、ピートを泣かせるようならうちの信徒全員と退役軍人たちが容赦しないからな?」
突然の展開にサイクロンは面食らったが、口元は笑みを浮かべているものの牧師の目が笑っていないことに気づいた。
「・・・肝に銘じておく。」
その返事に満足がいったのか、今度こそ笑みを浮かべた牧師は去っていった。
「マーヴって、教会の活動にこんな熱心だったっけ?」
教会の狭いキッチンに人でぎゅうぎゅう詰めになりながらルースターがマーヴェリックに尋ねた。
ヤングガンズはたくさんの野菜と格闘していた。切っても切っても減らない野菜たちに圧倒されながらも、これから美味しく煮込まれることを想像しながらひたすら切っていた。
「不名誉除隊になって、農薬散布の仕事を始めてからかな?」
「その頃って感謝祭もクリスマスもうちにいただろ?」
「君とキャロルが最優先だったからね。」
「なんで始めたんだ?」
ルースターとマーヴェリックの話を聞きながら作業していたヤングガンズだったが、マーヴェリックが答えると、一斉に動きを止めた。
「この教会が支援しているホームレスの中に、退役軍人が多くいるんだ。」
ルースターも作業の手を止め、マーヴェリックの方を向いた。マーヴェリックは見られていることも気づかず、話しながらも淡々と作業を続ける。
「僕は不名誉除隊になったのに、仕事も、雨風を凌げるところもあるのに、任務で怪我をして名誉除隊した人や、任期満了で退役したにも関わらずにホームレスになっている人たちに申し訳なくて・・・。ただの自己満足だよ。」
そう言って、マーヴェリックが顔を上げると、ルースターもヤングガンズも目から大量の涙を流していた。
「え?!みんな、どうしたんだ?」
「・・・玉ねぎが目に染みて。」
ルースター以外誰も言葉にならず、自分の服やタオルで涙を拭っていた。
幼い頃からそばにいたマーヴェリックの、繊細な部分にルースターはショックを受けた。
マーヴェリックが除隊した時はルースターは思春期に入っていて、初恋を相変わらず引き摺っていた。
理由はどうであれ、除隊したマーヴェリックは今まで以上にブラッドショー家を訪ねていた。恥ずかしさから素っ気ない態度も取ったが、内心は共に過ごす時間が増え、喜んでいたのだ。
彼は苦しんでいたにも関わらず!
ルースターの表情が側から見てもみるみる悪くなり、蕪もびっくりするほどの白さになった。
「ブラッドリー?そんなに玉ねぎダメだった?」
「・・・いや、大丈夫。」
「そう?そういえば、シスタークラレンスが玉ねぎはレンジで少し加熱してから切ると、染みにくくなるって・・・」
「「「「そう言うことは早く言って!」」」」
「ご、ごめん。」