求めたのはありふれた食卓でした。「おいクソマリモ」
その声と共に革靴の爪先が腹巻き越しの腹にヒットした。
なだらかな小波を背に感じながら昼寝を嗜んでいたゾロはゲシッと重量のある蹴りを食らったにも関わらずびくとも反応せず、眉間に皺を寄せながらすこぶる機嫌の悪そうな表情でサンジを見上げる。
「メシだ。早く来い」
心地の良い昼寝を邪魔されたゾロの殺気立った鋭利な眼光はさながら目線で人を殺せる眼光なのだが、サンジは動じるどころか不機嫌極まり無いゾロを見下ろし親指を船内に向けて来いと言う。
「今はいらねぇ、後で食う」
昼寝を邪魔されたゾロは不機嫌極まりない声色で言い投げ、昼寝を再開しようと瞼を閉じたが再度の蹴りにより二度寝は阻害された。
「光合成じゃ腹は膨れねーだろ。それに、俺が来たからには食事事にゃ文句は言わせねぇ」
海の上でコックに逆らうとはどういう事かわかってんのか、と特徴的なぐる眉を吊り上げてチンピラに引けを取らない人相でゾロを睨みつけるサンジ。
今までは各々が空いた時間に食事を取っていたが、サンジがメリー号に乗ってからは大きく変わった。
コックの呼び声と共に皆がひとつのテーブルに集まって、盛り付けや味付け、僅かな違いがあれどコックが拘り抜いた同じ食事を摂る。
テーブルに出された出来立ての食事を椅子に座って手を合わせ、頂きますと言って皆で食べるのだ。
「メシは全員で食う、それがメリー号の食事のマナーだ」
「んなもん誰が決めやがった」
「俺に決まってるだろ」
タバコを咥えた口をへの字にして豪語したサンジを不満そうに目元に皺を刻むゾロ。
「メシなんざ大人数で食おうが一人で食おうが変わらねぇだろ」
「テメェ舌まで毬藻なのか?全然違ぇだろ」
サンジの眼に怒りが加わり更に人相が険しくなる。
「うめぇメシっていうのは仲間と食べるからうめぇんだ。一人でメシを食った所で味気なんてしねぇだろうが」
暗く静かな牢獄で一人で食べる何もかもが完璧な料理よりも、
大切な仲間と騒ぎながら食べる出来合いのスープの方が、比べる間もなく美味しいと。
口には出さないその思考を元に皆で食事を摂る事に拘り意地でも譲らないサンジを見て、ゾロは海賊狩りをしていた頃、腹に溜まればなんでもいいと味も知らずに胃に詰め込んでいた頃に思いを馳せる。
ゾロはわざと聞こえる様な舌打ちをして二度寝を取り止めたのだった。