「もうお前の声なんて聞きたくない」
そんなことを言ってみたところで返ってくるのはわかってる、予想通り、
「はあ、そうですか」
なんて気の抜けた返事。バカじゃないの本当。イライラする。
「じゃあね、ミスラ。お前がマナ石になったらまた会いに来てあげるよ」
だって石は喋らない。もうこんな声聞かなくていい。今度は返事もさせずに姿を消したのに、ねえなんだってたったの二日で。
「オーエン、あなた、この前変なこと言いませんでした?」
「はあ? なんのこと、」
相変わらず言葉が通じない。違うな、言葉は通じてるけど、会話にならないこの感じ。ミスラのペースに乗せられてるみたいで好きじゃない。そう、好きじゃないのに。
「思い出したんです。昔、似たような言葉を聞いたことがあるなって。それで思ったんですけど、『もう顔も見たくない』って言うんじゃないんですか? こういうとき。でもあなた、俺の声を聞きたくないって言ってた気がするんですけど」
「それで?」
「変なこと言うなと思って」
「それだけ?」
「そうですけど。あれ、どういう意味なんです?」
意味なんてない。ただお前が嫌いだってこと。だってイライラするから。いちいち説明するのも嫌なくらい。面倒だし、ミスラの頼みなんて叶えてやる必要もない。
「知らないよ。自分で考えたら」
「考えましたけど、違ってたらあなた不機嫌になるじゃないですか」
「別に、ならないけど」
「なるでしょ」
「ならないってば。で? 何だと思ったの。言いなよ、聞いてあげる。お前がどんな馬鹿な答えを出したのか、ちゃんと聞いて、嘲ってあげるよ」
怒らせたい。何を言うつもりか知らないけど、どうせ大したことじゃないんだし。嗤って馬鹿にして、嫌な顔をさせたい。そうしたら、その後は何をしよう。ミスラをマナ石にはしたいけど、その前にもっと楽しいことをしなくちゃ。だから例えば、――。
「やっぱりあなた、俺の顔が好きなんですよね。だから、顔は見たいんだなって」
「は?」
なに言ってるの、こいつ。ほんと、全然噛み合わない。なんで僕がこんな気分にならなきゃいけないんだよ、ああもう、だから聞きたくないんだミスラの声なんて。
「あのさぁ……!!」
「はい」
「はい、じゃないだろ!」
「じゃあ何ですか、」
いやだ、きらいだ、乱されるのは。ミスラのことも大嫌い。理由だとか、そんな大層なものはない、だって全部が気に食わない。僕の名前を勝手に呼ぶ唇の、形もその動きも。馬鹿みたいに突っ立ったまま、めんどくさそうに僕を見てる目も。そんな暇があるんだったら、さっさとその瞼の下の隈をなんとかしろよ、見苦しい。
「僕の視界に入るなら、もっとちゃんと僕を楽しませてよ」
「何です? 殺し合いでもしたいんですか? まあ俺が一方的にあなたを殺すだけですけど」
「お前がそうやって逐一僕の……、はぁ。いいから、黙ってろよもう」
馬鹿らしいことばっかりだ。露骨に逃げられても避けられても身勝手に会いに来るミスラも、全然気乗りしないのに、こうやってちゃんと相手をしてやってる僕も。
「ミスラ、」
出来の悪い道化みたい。じゃあいっそ滑稽なことをしてみたら少しはマシになる?
「僕が話すからお前は黙ってて。でも、返事はして。それなら声も聞いてあげてもいいよ」
そうしたら、ちゃんと好きだって言えないその顔も、ついでに許してあげてもいいかなって。そんな気になれるのかもしれない。