Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    あをあらし

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 15

    あをあらし

    ☆quiet follow

    Dom/Subユニバースのにほさに。其の二。前回からちょっと進んだ。


    ―――
    こちら参考にさせて頂いた資料になります。

    Dom/Subユニバースのススメ(アドバンス編追加版)
    https://www.pixiv.net/artworks/52626061

    HOW to dom/sub ユニバース
    https://estar.jp/novels/25517129

    コマンド 寡黙な人だと思ってた。よく笑うくせに喋らないから、愛想笑いが豪快なだけかも、とも思ってた。
     そんな不本意な誤解が判明したのは、パートナーとなってから一ヶ月ほど経った頃。暖かな春の陽射しを浴びながらソファに凭れていた、とある昼下がりのことだった。やや大きめの声で伝えられる言葉を繋げていけば、会話が長続きしないだけでなく、コマンドさえも発さないものだから、声を出すこと自体が嫌いなんじゃないか、とまで思っていたらしい。どうして付き合いだしてから饒舌になったのかは疑問だけれど、本当にお喋り嫌いだったわけじゃなくて良かった、なんて言いながら、愛おしきSubはマグカップを両手にキッチンから顔を覗かせた。

     声を出すことが嫌い。それはあながち間違いではない。自惚れを抜きにしても、俺の声はそれなりに『良い声』をしているという自覚がある。ただ、そのせいで面倒事が起きることもままあった。特に一番多かったのは、出会って間もないSubからコマンドを求められることだ。あなたのSubになりたいと迫られるのはまだいい。Subにとって誰かに従いたいという欲は本能に基づくものであり、こいつはそれがとにかく強い個体なんだなと受け流せばそれで済む。しかし、あまり宜しくない手段でコマンドを引き摺り出そうとする奴も、いるにはいる。酔い潰そうだとか、自白剤や興奮剤のような薬を仕込むだとか、そういう方向へ会話を誘導しようだとか。全部未遂で終わったが、正直反吐が出そうだった。
     俺はコマンドも一種のプレイだと考えている。ベッドの上と同じくらい誠実な気持ちで、思い遣りを持ち、素直にならなければならないものだ。その上で、欲望のままに雪崩込むことなどないよう健全に、安全に、心地好い空気を保つことが大切だという信念がある。だからこそ、よく知らない奴相手に手を出したくはないし、コマンドの安売りもしたくない。そう強く思っていたため、俺は連絡先を入手したあの日から、無事にパートナーとなるまでの約一年間、一切のコマンドを使わなかった。志向性やその強弱をよく図り、俺の性質と上手く馴染めるか、俺が上手く馴染ませられるかをじっくり見極めていた。もし今まで出会った下劣な奴らのような思考の片鱗が見えれば、その時点で恋心を葬るつもりでいた。まあ、そんな心配は杞憂に終わったのだが。

     俺が一目惚れしたSubは、出会いのときに感じた通り、命令の強制を嫌うタイプだった。Domを敬愛し、尊重するからこそ尽くしたい。与えられるものに相応の感謝を示し、そのひとつとして従属を選ぶような、矜恃と隷属を巧みに釣り合わせた、ある種気難しいとも言える気質。気ままに従わせて偉ぶりたい奴や、虐めて優位性に酔っ払うような奴とはまず合わない。必要以上の仕置きを与える奴には反発するし、気持ちを推し量らず好き勝手にする奴からは全力で遠ざかる。自分が随行者側の性分であることを自覚しつつ、自分なりの従い方があるのだとしっかりしたプライドを持って、言動の端々に気を付けながら過ごす。それは、俺にとってはこの上なく素晴らしい長所だった。自分からコマンドを与えたいと初めて思うほどで、それでも真に求められるときまではと我慢に我慢を重ねた。Domの本能としてはなかなかきついものがあったが、半端な関係で身も心も暴くような無体は、俺自身の理性と性分が許さなかった。
     その甲斐あって信頼の全てを手にした、その夜。セーフワードと共に言われたことは、今でも一言一句違わず覚えている。「コマンドは嫌いじゃない。好きか嫌いかで言えば、意図がわかるものは好き。ただ、お仕置き以外では穏やかに言ってほしい」。それさえ守ってくれれば大抵のことはきっとやると聞いて、俺は完全に陥落した。惚れた相手が、言い方さえ間違えなければなんだってやると言ったのだ。Subにとって主導権や支配権を渡すことは、命を差し出すことと同義。俺の言葉ひとつで揺らぐそれを、俺なら悪いようにはしないだろうと信じて差し出してくれた。それならばDomとしても、人としてもその心意気に全力で応えようと晒した俺の本性は、サブスペースという形で返答を受けた。俺という人間を、Domという特徴ごと肯定し、尊重し、信頼し、愛してくれる。その姿勢に、俺は生涯の幸せを確信した。

     マグカップを両手に持ち、キッチンから完全に出てきた姿を見留めて、声を掛ける。comeおいで、と空間に溶けた音を拾った途端、喜色満面の顔になってこちらに来るのが可愛くてしかたない。俺の傍まで来てローテーブルにマグカップを置き、さあ次はと輝く目線は、嫌悪よりも歓喜を呼び起こす。足を開きながらsit座りなと促せば、嬉しげに足の間へ座り、俺の身体に背中を預けた。腹に手を回してさらに引き寄せ、good-enbyいい子だと耳元で囁いて完全に身を解すのは、既にこのひと月で築かれた当たり前のひとつ。
     穏やかなコマンドと、日常会話は両立する。俺でも辿り着かなかった思想を引き出し、健全に欲を満たし合う術を提案したのは、今こうして腕の中でうっとりとしているSubその人だ。いつも自立を意識して真っ直ぐに伸びている背中を俺の腕の中でだけくたりと曲げ、しなだれかかってくるたびに、多幸感で満たされる。俺の支配を受け入れ、俺のコマンドに応え、俺を奉じ愛してくれる人。慕わしさも貴さも日々募るばかりで、例え頼まれたとしてももう手放してやれないくらい愛してしまっている。まさかこんなに入れ込むなんて、と己の欲深さに苦笑しつつ、まあ手放すことは一生ないなと開き直って、温もりをさらに抱き締めた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works