ヴィラン連合へようこそ!説得ナイト編人生の成功者たる高額納税者が眠りから目覚めたとき、一番に目にするものとは何か。
地上より遥か上、タワーマンションの窓にさえ入る下界のネオンライトだろうか。
朝露に濡れた日本庭園の木々だろうか。
それとも………隣に眠る、最愛の配偶者の寝顔だろうか。
───少なくともこの不気味な男の顔ではないはずである。
爆豪勝己はやけに重たく感じる目を開くと、眼前いっぱいに広がる死柄木弔の真顔を見て元々大きい目を更に瞠った。
陰気な死神の顔に声こそ出さなかったが、添い寝されているという思わぬ事態に爆豪の身の内では心臓が跳ね、顔には冷や汗が吹き出る。その様子を無言で見つめていた死柄木が口を開いた。
「おはよう爆豪勝己くん………君よだれ出てるぞ………」
「ぅる……るえ!……!!?」
呂律が回らない自分に爆豪は再び驚く。
まぶたと舌が重く、顔はゆっくりとしか動かせない。痛みはないが身体に力が入らない上、両手は後ろ手に拘束されている。
TVで雄英の会見を見たあとまた眠らされたらしい。
一体どうやって……。
爆豪はあの場所にいる全員を半殺しにしてねじ伏せ、特にこの死柄木と書いてカスと読むクソリーダーと爆豪の首根っこを掴んだ無礼者のツギハギ野郎は警察病院送りにする気だったのだが、どうやらそうもいかなかったらしい。モヤモブあたりに背後から薬を打たれたのだろう。爆豪は異物として口中に存在感を放つ舌で無理やり舌打ちをする。
「爆豪くん……今日は君をまったり説得しようと思ってんだが……」
「ねごおはねてしにぇ」
「おお……さっきの名言……」
“さっき”と死柄木が言っているのと、自分の中に残る薬の作用からして、あの騒動からはそんなに経っているわけではないらしい。
目の前に何が面白いのか爆豪の顔をまじまじと見続けている死柄木がいるので部屋の全容が掴めないが、ボサボサの洗ってない犬の毛並みを越えて見えるのはPCのモニタが3枚。この部屋を青白く照らす光源は分かった。他に見えるのは上着の掛かったデスクチェア、重ね続けられてタワーになったスナック菓子のカップ、整理がされておらず紙片が飛び出ている本棚だが、見える範囲の全てが爆豪の神経を逆撫でした。上着はハンガー、食べたあとのゴミはゴミ箱へ、ああ本棚から今落ちた紙はなんだ!何故整理しない!と爆豪が死柄木を睨むと「気にしなくていいよ爆豪くん……」と気の抜けた返答がある。
死柄木はバーで爆豪を勧誘をした時より落ち着いているように見える。
◆死柄木が左腕をおもむろに上げるので、爆豪はその行方を目で追った。今の爆豪は両手が使えず、身体は鉛と化している。説得の前言通りならまだ殺される筈はないが、このイカれた男は何をしでかすか分からない。爆豪の体が緊張で強ばっていくのを尻目に、冷たい4本の指が爆豪の頬に触れた。
「うわ……頬やわらか………」
「さわんあ!」
「性格と真反対でぷにっぷにしてるぞ爆豪くん……」
「さわん、あっ!!」
「話は戻るが爆豪くん……俺は結構本とか読むんだよ……」
「ハア……?」
「先生が言うには、人を説得するのには方法がいくつかあって……で、洗脳っつーのは俺的には違うんだよ……ここにいる奴らは思想が一致したから集まってるわけで………爆豪くんにも俺を理解したうえで俺の仲間になってほしいんだよな………」
「あるかよボエ!イネ!」
「で、だ………快楽漬けというのをやろうと思う」
「アイラクヅケ……?」
「ああ爆豪くんは知らないかもな、あれ俺くらいの年齢じゃないと見れないもんな……まだまだガキだね爆豪くん………」
「アァ………!?レメェ……なえんなよ……!!」
「じゃ、俺が教えてやるよ爆豪くん……君、他の奴らより1歩も2歩も先に進めるぜ……よかったな」
爆豪の右頬を指先でつついていた死柄木は
「なんて言ってんのか分からねえんだよな爆豪くん……伝える努力をしようなぁ……俺も理解する努力をするからさ………なに、俺と君ならすぐに分かり合えるって…………」
「し、にぇ、え〜〜〜………!!♡♡」
「だからもう少しがんばれって」
「んン!フジャッ!ケン!ニャア!!!」
「猫じゃあしょうがないな………俺猫嫌いだけど」