店主が指差した先にあったのは宝石箱とオルゴールが一緒になった木箱。木箱の中はアクセサリーを収納できるようになっていて、ふと、頭に浮かんだのはメロルドだった。彼の指はいつもいろんな宝飾品で彩られていて、理由を聞いたら「自分が気に入ったものだから着けたいだけー」とのらりくらりと躱されたことを思い出す。
「これですか?」
「あ、あぁ……。では、これを一つ」
「いまお包みしますのでお待ちくださいね!」
店主に丁寧に包んでもらったそれをハルリットは大事に抱えながら城へと帰る。途中国のみんなに声をかけられてその声に反応して返すものの、意識は手に抱える木箱に集中していて、逃げるように足早に帰ってきた。
「はぁ……なんとか無事に帰ってこられた。こんなもの持ってるってバレたら、絶対みんなに冷やかされるもんな」
「こんなものってどんなもの〜?」
突然聞こえてきた声に驚き、大事に抱えていた木箱を落としそうになるが慌てて抱え込み、恐る恐る声がする方を振り返る。
「メ、メロルド……な、なんでここに!?」
「この前、シーズが出て大変だったでしょー?その後どうなったかなーって気になって視察に来たんだけど」
「そ、そうなんだ!!じゃあ、じゃあ俺はこれで……!!」
まさか先程まで思い描いていた人物が目の前にいるとは思わず、そしてまさかその人物の贈り物を今現在持っていることを悟られたくなくて、そそくさと立ち去ろうとした。のだが。
「おっかしーな。この前来たとき次に来たら案内してくれるって言ってたじゃん」
「そ、それは。たしかに、そう言ったけど。今日はちょっとこの後キティ様との予定が……」
「そのキティ様がハルリットに街を案内してもらうといいよーって言ってくれたんだけどなぁ」
明らかに様子がおかしいのがわかっていて、メロルドはハルリットを揶揄うように喋る。
「じゃ、じゃあこれを置いてきてからなら……」
「なぁにそれ?そんなに大事なものなの?」
「えっ……あ、ま、まぁ」
まさかメロルドのために買ったものです、とは口が裂けても言えない。なんとかバレないようにしなければと隠すように通り過ぎようとしたところで、ぎゅっと腕を掴まれた。
「メ、メロルド……??」
「そんなに僕に見られちゃまずいものなの?ひょっとして、誰かへのプレゼント?」
腕に抱えていてもラッピングされているのはわかってしまう。メロルドは揶揄うように声をかけたのだが、図星をさされたハルリツトはりんごのように顔が真っ赤になった。
「え、ほんとに誰かへのプレゼントなの?」
「そ、そうだよ!悪いか??」
「いや、べっつにー。悪くはないけど。そっかぁ……」
いったい、ハルリットは誰のためにプレゼントを買ったのか。キティ様へのプレゼントならきっとニコニコしながらそう言うだろう。そうじゃないとなれば、おそらく別の誰か。その相手がもしかしたら、ハルリットに取っては大事な人なのかもしれないと思ったら胸がざわつくのを感じる。
「へー。ハルリットもすみにおけないねぇ。誰かへのプレゼントを買うなんて」
「べ、別に買ってもいいだろう!?俺だってプレゼント位用意するよ」
「そんなに大事な人なんだ〜」
本当なこんなことが言いたいわけじゃない。そのブレゼントが誰あてのものなのか。どうして今そんなものを持っているのか。問い詰めたい気持ちを抑えながらついついからかってしまう。
「そうだよ。だってメロルドは俺にとって大事な……あっ……」
「……え?」
ハルリットの顔を見れば先程よりも顔が真っ赤で、りんごというよりもはや茹でダコだ。
「もしかして、僕のためのだったの……?」
からかっていたはずのこっちもまさか自分のためだとは思わず、動揺する。もしかしたら自分の顔もりんごのように赤くなっているかもしれない。もちろんそんなこと、ハルリットには悟らせないが。
「わ、悪いか!?これを見たときにメロルドの顔が浮かんで、喜んでほしいなって思ったら買ってたんだよ」
「そっかー僕のために、ね……」
ついからかうような声になってしまったが、まさかハルリットが自分のために何かを用意してくれているとは。そしてそれを見たときに思い浮かんだのが自分だなんて。
「全く……」
「え、だ、だめだったか?」
本当にどこまでもよめない。という意味でつぶやいた言葉をどうやら違う意味で捉えたらしいハルリットが困ったような顔でこちらを見てくる。その顔があまりにも可愛らしくてメロルドは思わず、ハルリットの服を切っと引き寄せて頬へ口付ける。そして耳元にかすめるように「だめなわけ無いじゃん」と囁いた。
「……っ〜〜っ!!」
囁きにさらに真っ赤になったハルリットは言葉にならない声を上げる。
「ほーんと。かわいいなあ。ハルリットは」
「か、かわ……」
「かわいいでしょ。そういうとこ。いつも僕のこと考えてるとことか」
「べ、別にいつも考えてるわけじゃ……」
「え〜残念。僕はいつもハルリットのこと考えてるのにな〜」
何てからかえば、再びうろたえて動揺する。嘘だよーとごまかすけれど。残念ながら嘘ではなくそれは事実なのだと、いつ伝えようかと思いながら、この可愛い恋人をゆっくりと人目のない部屋へと誘い込むのだった。