🍀×🍎店主が持ってきたのは回転木馬のオルゴール。リズムにあわせて木馬がゆっくりと上下して音楽がなくても楽しめる。
「すごいな……」
「そうでしょう。この木馬一つ一つ手作りですよ」
木馬がまるでダンスをする様子に、これを送る相手は、と考えてプルースの顔が真っ先に浮かんだ。プルースの愛する国、ポムポムプリン王国は音楽を大切にしていて、その音楽でみんな軽やかなステップを踏んでいたことを思い出す。
「じゃあ、これを一つ」
「はいよ。ちょっと待っててください」
店主はそのオルゴールをきれいにラッピングしてくれて、つけられたのは黄色のリボン。なんだが送る相手を見透かされたようで、顔が火照る。
「ありがとう!また来るからな!」
「えぇ、ぜひ!お待ちしております」
店主にお礼を言うとオルゴールの音楽のように軽やかなステップで帰路へとつく。いい買い物をした。これをどうやってプルースへ渡そうか。送ってもいいのだが、このきれいな細工が輸送の途中で壊れてしまうのは嫌だ。ならば自分で持っていくのがいいだろうと思うのだが、思うのだがこんなものを持っていってなんと言って渡せばよいのか。
プルースのことだからプレゼントだといえば普通にありがとうと受け取ってくれるかもしれないが。だがしかし突然こんなものを送って不審に思われたりしないだろうか。ただ、この楽しそうに回る木馬が音楽を愛するプルースと重なってこれを選んだのだが。だとしてもそんなことを口にするのは気恥ずかしい。だったらなんて言ってこれを渡そうか。
「お〜い、ハルリット」
プルースのことばかり考えていたから、声が聞こえたような気がして足を止める。いやいやそんな訳はないと歩みを進めようとして再び声をかけられて立ち止まる。
「待ってよ、ハルリット」
「プ、プルース!?どうして……」
「どうしてって、だってこの前遊びに行っていいか聞いたときにいいよって言ってくれたじゃないか」
確かに言った。言ったがまさかこのタイミングで来るとは想定していなかった。しかも今の今までプレゼントをどうやって渡そうかと考えていた相手だ。急に現れてはいどうぞ、いくら何でも心の準備がまだできていない。
「そ、そうだったな」
「忘れてた?」
「いや、忘れてたわけじゃないぞ!?ただ、こんなに早く来るとは思っていなかったというか」
「早く会いたいなって言ってたのに」
「へっ……!?!?」
いや、たしかにそんな気持ちがあったのは確かだがあのときそんなことを言っただろうか。知らず口をついて出ていたのだとしたら恥ずかしすぎる。
「大丈夫だよ、ハルリット。嘘だから」
「う、嘘っ……!?!?」
「早く会いたかったのは俺の方、だよ」
そういったプルースはフワッとハルリットの手を掴み、手の甲に口付ける。そのあまりにも美しい、流れるような行動にハルリットは真っ赤になる。
なんたってこんなに扱いに慣れているのか。
「会いたかったよ」
「そ、それは俺も……」
そう言えばプルースがふんわりと微笑んで気がつけば人気の無い路地へと誘い込まれる。周りから見えないようにスッと隠れて口づけ一つ。
それだけで真っ赤になったハルリットはプルースの言動にどぎまぎさせられっぱなしだ。だったらこっちからも何か仕掛けてやらねばと思うのだが、何も思いつかない。年上の彼氏に翻弄させられてばかりだ。
「あ、そうだ!これ……」
「何?」
精一杯でそういえば、と手に持っていたプレゼントをプルースへ差し出す。黄色いリボンがついたそれは中身が少しだけ見えるように包装されているのだが、外からはそれがただの木馬のおもちゃにしか見えない。それくらい見事な細工が施されているのである。
「オルゴールなんだ。流れる音楽と回る木馬が、その、プルースの愛する音楽みたいだなって思って……」
「ハルリット……。ありがとう」
プルースはオルゴールを大切そうに抱きしめて、そのままハルリットごと抱きしめる。やんわりと触れた先程のふれあいとは違う、強い抱擁に戸惑うけれど、感じる鼓動が早くてプルースも同じなのだと気づく。あぁ、そうなんだ。
「好き、だな……」
とポツリつぶやいた声は声にはならなかったけれど、プルースには届いたらしく、耳元で「俺も……」と囁かれる。
届いた声の甘さにどぎまぎしつつ耳まで真っ赤になったハルリットにプルースも優しい笑みを浮かべて抱きしめる。
「このオルゴール、大切にするよ」
「あ、あぁ…」
「もちろん、ハルリットのこともね」
「ば、はかっ!何言って……」
驚いて思わず顔を見ると、すごく優しい顔で見ているものだから言葉に詰まる。
「大好きだよ、ハルリット」
「俺も。プルースのことが大好きだ」
抱き合って、触れ合って口づけされて。優しい風が二人の間を吹き抜けていった。まるでそれを祝福するかのように。