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    meepoJlo

    @meepoJlo

    呪術の狗🍙棘 夢小説をこそこそ書いています。

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    もうすぐ死んでしまう私と君のお話 7 ただいま※死ネタを含むオリジナルです。
     自己責任でご覧下さい。
     
    何でも許せる方向け。








    ***


    茗荷の術式は『文字』を使う。
    それを清めた紙に書けばお札となり、権力者に渡れば国を動かすものとなる。又、飢饉や病に苦しむものに渡れば妙薬となる。
    お札には元来念も篭りやすく、古来から多くの儀式祭典にも使用されてきたものだが、茗荷の術式は本来は紙ではなく『文字』にこそ意味があり、それは茗荷の家にのみ伝わる99の文字となって残った。





    唯は各階の四方に小さく『無』と文字をチョークで記した。自信がないから数で勝負する。
    それを8階分32回と屋上の四方に4回。屋上に出て真ん中に大きく『扉』『開』と書いておく。その文字の近くには『誘』。

    「唯さんは、呪符とかお札を扱う術式なんだと思ってました」

    「そうだよね。書くってそれ自体がタイムロスになるから、必然的に事前に用意した物を使う事が多いの。大体呪符や札を使う人だと思われてるし、否定して回ってもいないからね」

    それにしても、と野薔薇は唯の手元を見た。

    「何と言うか…その…、模様?」

    「私も模様って認識してるよ。文字って言うより梵字が入った図形みたいだよね」

    野薔薇が頷く。
    伏黒は玉犬と周囲を注視してくれていた。
    特に何事もなく、10分もかからずに『扉』は完成する。


    ここからは正直どうなるか分からない。そもそもが破る結界がそこにあるのかも分からない。
    成功するか否か。それは呪力がどうではなくて、単純に初めて使う『文字』だから。
    この規模の術式なら、呪具を貰う前は時折任務で使っていたので何も問題はないはずだ。加えて呪力を制御している分、唯の体力も回復している。

    発動の条件は、術者が触れる事。
    唯はその『扉』に触れた。
    瞬間、呪力が流れてふわりと温かくなった事を、唯だけが感じる。否、傍目に見ても分かるものなのだろうか。術者本人は確認の使用もない。

    辺りが静かになる。


    ぱんっ、とラップ音がした。下から微かに聞こえて、それはやがて屋上に到達する。

    ぱんっ!ぱんっ!と、2回四方から音が鳴る。
    ぱんっ!ぱんっ!と、更に2回響いて、


    影が見えた。


    『扉』から黒いものがゆっくりと、伸びる。それは扉と言うよりも、地面に深く暗い穴が空いているような。真っ暗な底知れぬ穴の中から、何かが腕を伸ばして這い出て来る。

    呪霊だ。恐らく3級。本当に結界の中にいた。
    野薔薇と伏黒が戦闘体制に入り、唯も鞘から刀を抜く。
    けれど、その腕は背後からぎゅっと何かに掴まれる。

    「見つかっちゃった」

    と、幼い女の子の笑う声。
    そのまま腕を後ろに引っ張られて、なす術もなくバランスを崩す。

    「…っ!?伏黒くん、野薔ーー


    唯の声は途絶えて、代わりに呪具が落ちる音が響いた。








    **


    棘が任務を終えて高専に戻ると職員室は慌しく、生徒が一人行方不明になったと報告を聞いた。


    自分の術式では勿論人探しはには向かない。
    でも、嫌な予感がして尋ねずにはいられなかった。

    相手は3級相当の呪霊が2体。既に呪霊はその場に居た生徒が祓ったが、内一人が行方不明のままで、応援を要請されているのだと言う。



    …唯たちだ、と直感で思った。








    今降りたばかりの車に乗り応援に向かうと、帷は既に上がっていて、清々しい青の空が窓から覗いていた。

    「…狗巻先輩?」

    と、2人に問われた意味は、何となく理解出来るが。とりあえず、すぐに動けるのはあの場で自分だけだった。長引けばまた、別の応援が来るだろう。

    「こんぶ」

    「すみません。全く手掛かりもなくて」

    状況を聞いて、そんなに離れない距離を保ちながら辺りを手分けして探す事にした。


    本当に、何もない。
    棘は目を伏せた。












    唯はぼんやりと目を覚ます。
    また、何かが消えた気がして。

    身体の中から何かがこぼれ落ちて行くような感覚に襲われる。実態のない何かが、確実に唯の中からなくなっていく。

    たぶんもう、それは残りわずか。



    身体が鉛のように重い。唯はゆっくりと身体を起こして辺りを見回した。
    呪霊の気配はなくなっている。2人が無事祓ったのだろう。

    じゃあ、此処は?

    微かに呪力のようなものは感じる…。何らかの結界の中?呪霊を祓っても、この結界は残ったと言うことなのか。
    なら、此処もまた清め祓えばいい。

    唯は壁に手を付いて、ふらつく身体を支えて立ち上がった。辺りは書類が整理された棚が整然と並び、広さは6畳ほどの冷たい空間。
    ドアがひとつ。反対側には窓が1つ。窓からは清々しい青の空が見えた。

    呪具は何処かで落としたのだろうか、周辺には見当たらない。腰元にはポーチがぶら下がっていて中身も無事だ。
    唯は身体に力を入れて、ドアの方へと移動した。
    やはり、と言うべきかドアは勿論開かない。それ所かドアノブさえも動かない。


    もう一度、さっきと同じ。
    けれど、今回はドアがあるので『開』と書いて作れば。

    「…大丈夫。出られる」

    唯は自分自身に言い聞かす。

    頭が痛い。身体も重い。
    自然と息も荒くなる。

    大きさはさっきよりも遥かに小さいが、唯はやっとの思いで『開』と書いた。
    唯が、それに触れて呪力を込める。

    「…出来る」

    呼吸を整えて目を瞑る。

    「…できる…」

    力なく、唯は俯いた。

    「…ひとりで、できる…」

    言い聞かせたその言葉と共に、次第に視界が歪み始める。涙が溜まり、溢れ出す。

    冷たいままのドアは、動かない。



    唯はその場にうずくまった。膝を三角に抱えて首を折る。一度溢れた涙は止める事も出来ず、次から次へと溢れていく。雫が床に落ちて冷たい地面に跡を作った。

    自分の呪力が足りないとは思わない。
    でも、ひとりでは何も出来ない。

    怖い。

    だって、呪力を使えば使うだけ、自分が壊れていくのが分かる。
    何かがなくなっていく。
    それが全部なくなったら、自分はきっと…。


    膝を抱えた腕に力が入る。


    ひとりでは何も出来ない、のに…、

    何で呪術師になりたいんだろう。


    幼い頃からそれが当たり前の世界に居て。当然自分も呪術師になるんだと思って生きてきた。

    でもたぶん、自分は呪術師にはなれないと、心の何処かで分かっていた。



    助けて、

    と。


    願うだけならいっそ、今此処で…。




    『     』





    棘は、彼女の名前を口の中で呟いた。
    何度も同じ道を進む。何度も同じ部屋を確認しては立ち止まり進むを繰り返して。
    気持ちばかりが焦り、奥歯を噛んだ。


    もう何回目かに訪れたその階段で、棘は不意に足を止めた。

    彼女の残穢を、香を感じた気がして。




    「唯さーん!!」

    通る声で叫ぶのは野薔薇。
    恵は玉犬と広範囲を行き来する。


    何度も何度も同じ場所を進み、一体どの位の時間が経っただろう。汗が流れて服が身体に貼り付く。

    「高菜…ツナツナ」

    手招きで恵を呼ぶと、玉犬が初めてそこに座り込んだ。吠える事も反応する事もなく、静かに座る。
    微かに気配があるような気がして、棘はもう一度ネッグウォーマーの下で彼女の名前を呟く。



    唯、と。







    名前を呼ばれた気がして、唯は頭を上げた。

    「…棘くん…?」

    呼ばれる訳ないのに。居るはずがないのに。
    そんな気がして。

    重い身体を引きずるように持ち上げた。横にある壁に手を付いて立ち上がる。

    「…棘、くん?」

    『    』

    やはり、遠くに声が聞こえた。
    瞳を閉じると、微かに感じる彼の声。

    「棘くんっ!!」

    唯が叫べば、それもまた反応する。


    『 唯 』


    呼ばれた声と共に、急に外から空気が流れ込んでくるのを感じた。ポケットの中で何かが弾け飛んだ気がして、瞬間視界が明るくなる。

    …棘くんがくれたのど飴だ。

    一歩踏み出した壁の向こう側に、呪力を感じた。瞳を閉じて集中すれば、おそらくそれは3つ。
    伏黒くん、野薔薇ちゃんと、


    …棘くん。


    「棘くん!居るの?!」

    「こんぶ!」

    壁を伝って、声の方へ向かう。結界が緩んだのか、消えたのか。ドアとは反対側の、窓がある方の壁。窓を覗けば当たり前のように景色が広がるが、すぐ左側の位置からは確かに呪力を感じる。

    触れれば、温かい。
    出入口となる扉はここか。

    唯の背にあるドアは、たぶんドアではないただ景色で窓もそれだ。

    「いくら、明太子っ?」

    「うん、大丈夫」

    身体は重いけれど、先が見えて幾分か気が楽になった。心配してくれる棘の声に胸が温かくなる。
    唯はチョークで文字を書き、

    『扉』を『開』いた。

    図形のようなその文字に触れれば、いつも通りに呪力が流れて広がっていく。

    壁は水のように柔らかくなり底知れず暗く、けれど触れたその場所には温かいものがあった。
    人肌のぬくもり。それは唯の掌よりもひと回り大きくて、少し骨張った男性の掌。ぎゅっと掴まれ、指が絡んで、引っ張られる。

    「………っぁ?!」

    声を出すより早く、身体ごと引っ張られた唯はそのまま倒れ込んだ。
    視界は真っ暗になり、握られた手はそのままに、背中には大きな腕が回り唯を抱き締めるように支える。
    ふわりと香る、その匂いには覚えがあった。

    「ツナマヨ」

    顔を上げれば、優しく笑う棘がいた。
    後ろには安堵の顔を見せる野薔薇と伏黒。
    唯もホッと息を吐く。

    3人の顔を見ると、急に安心して足の力が抜けた。
    支えていた棘の首に倒れ込むようにしがみ付くと、今度は堰を切ったように涙がぽろぽろと溢れる。

    「いくら」

    がんばったね、と聞こえた気がした。

    棘は唯を抱き締めたまま、優しく頭を撫でる。大きな掌が温かくて気持ちがいい。
    重い頭を棘の胸に預けて、唯は目を閉じた。











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