課題なんでこうなるんだ。
と、頭を抱えながら目の前の数式に取り組む。
昨日昼過ぎに長期出張の任務から戻って来て今日登校してみたら、課題の山。ちょうど座学のテストの時期と被っていたからか、タイミングが悪い…。
唯は数式から目を離して背中を伸ばす。
果たして数式は呪術師になった時に役に立つものなのか?一般企業に勤めるなら必要になるのか?
シャーペンをローテーブルに置いて、背中にあるベッドにもたれ掛かる。頭をベッドに預けて天井を見上げた。唯の頭上には、棘の足がある。うつ伏せに寝転がってスマホを触り、膝から下を持ち上げたり、下ろしたり。
動画でもみているんだろうか、とチラリとその頭を見るが、反応はない。
「…暇だなぁ」
と、小さく口の中で呟く。
否、いやいや、全然暇じゃないんだけどさ。
唯はもう一度伸びをして、ローテーブルに突っ伏した。目の前には、教科書の数学の問題が映る。
何気なく目を閉じると、ベッドが軋む音が聞こえた。足が地面に落ちる音と共に、唯の横に人が来る気配。
「ツナマヨ」
頭の上に、棘の手がぽんと乗る。唯のそれより少し大きな男性の手。
ぽんぽんっと、軽く叩かれる。
動かずにいると、もう一度、今度は優しく唯の頭を撫でた。
「ツナ」
そのままの体制で振り返ると。
「……?‼︎」
想像より遥かに近い距離に棘の顔があった。
綺麗な瞳が真っ直ぐに唯を見る。
唯が口を開くよりも早く、棘がその口を塞ぐ。ちゅ、と軽いリップ音が響いて、唯の心臓が跳ね上がった。
驚いて身体を起こし少し離れると、棘の顔がニヤリと悪戯に笑うのが見えた。
棘は唯との距離を更に詰めて、その耳元を捉える。唯の両手を掴んで固定すると、ふっとその耳に息を吹きかけた。
背中がぞわりとする。
「……っ!…くすぐった…いっ」
恥ずかしくて真っ赤になる顔を棘から逸らして逃げれば、棘は離すまいと両手をぎゅっと握って、更に耳元を狙う。
ふーっと、もう一度繰り返されると、びくりと体が反応した。
「…ちが…っ!くすぐった…、いっ、てば…!」
棘は何も言わずに、唯の耳に軽く噛み付く。
「…ん、や、だって…っ」
そのまま倒れ込むと、両の手は床に縫い付けられて、いよいよ抵抗も出来なくなった。ただ一つ自由になる足をじたばた動かして見るが、微動だにしない。
笑う棘は何だかとても楽しそうだ。
「ツナマヨ」
唯の耳にもう一度息を吹きかけて、掠れた声で呟く。その耳元に、口元に、首筋に、ゆっくりと棘の唇が触れていく。
くすぐったい、けれど、それはーー。
唯もぎゅっと棘の手を握った。
足がローテーブルの足に軽く触れて、カシャンとシャーペンが落ちりる音が聞こえた。
課題は後から手伝ってもらおう。
End***