おいていかないで⚠️狗巻棘の内通者説です。
苦手な方は自衛して下さい。
⚠️加虐表現、流血表現がありますので
自己責任でお願いします。
狗巻家捏造してます。
なんでも許せる方のみご覧下さい。
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神も仏もいない世界で、
そこにあるのはただ『呪い』だけ。
痛む身体を壁に預けて、少年は目を閉じた。
瞼に映るのは、真っ暗なこの世界の不条理。
口を開くがもう何の言葉も、紡ぐ呪いも出てこない。
ーーお前なんて産まれてこなければ。
何度も何度も聞いて、聞き飽きたはずのその言葉に胸が鈍く重くなっていく。
口元にはその呪印を隠すように布が巻かれ、名ばかりの札が施されている。剥ぐ事は容易に出来るが、もうそれはしないと決めていた。
きっとこれは、罰。
口を開けば不用意に人を呪ってしまう。
自分は罰を与えられているんだと。
学校と言う場所に行かなくなって、どのくらいが過ぎただろう。
小さな窓がひとつある暗い部屋。重たい扉。
三食決まった時間に奉公人が食事だけを運び、誰かの足音に毎日怯えてただ生きていた。
何もせず、ただ息を殺して。
うずくまる。
時折来る見知った顔は、必ずその言葉を少年に掛けた。
ーーお前なんて産まれてこなければ。
口の端から血の味がした。
殴られた頬が痛む。
身体が、痛む。
その心はもう、何も感じない。
遠くで音がした。
大きな爆発音。
少年はぼんやりと目を開ける。
自分には関係のない、『世界』ーー…
爆発音から幾分も経たない内に、扉の向こう側から足音が聞こえて顔を上げる。
身体が強張った。うずくまってぎゅっと膝を抱きしめる。
怖い。
人に会うのが、怖い。
扉が開く。重たい音を立ててゆっくりと。
微かな光が少年に届いた。
「…わ。…本当にいた」
袈裟を着たその人は、怖いくらいの笑顔で笑った。
嗤った。
「そんな無意味なお札、とってしまえばいいのに」
大きなその人の手がゆっくりと伸びる。
反射的に身体に力が入り、ぎゅっと目を瞑った。一瞬大きな手の動きが止まるが、すぐにそれは少年の頭に触れて、口元に巻かれた布が静かに床に落ちる。
「大丈夫。もうここには、君に嫌な事をする猿はいないよ」
少年が見上げれば、彼はただ笑っていた。
逆光になってはっきりとは見えない顔。でも確かに、嗤っている。
「君、名前は?」
聞かれて目を見開く。
どう答えて良いのかわからなくて。
僅かに口を開くが、音を出す事を躊躇わずにはいられなかった。
「まぁ、気が向いたら教えて」
ふっと、笑って彼は踵を返す。
袈裟が揺れて、彼はそのまま一歩を踏み出した。
離れて行く背中に。
思わず、手を伸ばす。
「……ま、……って…」
行かないで。
言い掛けて瞬間、喉に大きな痛みが走った。
「……ゲホッ!…ッ?!」
喉がヒリヒリして、口の中には血の味が広がり、床に鮮血が溢れ落ちる。
少年は口元を抑えた。ぬるりとした生温かい赤い感触。
「私に呪言は効かないよ。気を付けてね」
立ち止まったその人は、変わらない表情のまま振り返って、僅かに眉をひそめた。
少年の瞳が大きく揺れる。
この人はきっと、神でも仏でもない。
赤く染まった手を、伸ばす。
袈裟の端を小さな手が懸命に掴んだ。
「……い、」
真っ直ぐにその人を見る。
痛む喉に顔が歪んだ。
「…い、ぬま…き、…とげ…」
また喉から血が流れた。次から次へと溢れて止まらない。呼吸が苦しくて肩で息をする。ゲホゲホと、血痰が絡んだ咳が止まらなくて両手で口を抑えた。
小さな身体に向き直り、彼は笑った。
「…狗巻棘くん、だね」
棘は頷く。
「一緒に来るかい?」
彼は棘に手を差し出す。
棘はその手を拒む事は出来なかった。
この人はきっと、神でも仏でもない。
それはただの『呪い』。
その手はとても大きくて、冷たい。
End***