星が綺麗ですね手を伸ばせば、星に手が届きそうなくらいの満天の星空。
夕練に夕食を終えて蒸し暑い中。
日もすっかり暮れて、星の輝く夜だった。
発案はやっぱり野薔薇ちゃん。アイスが食べたいとコンビニに誘われて。女子だけでは危険だからと(?!)男子も誘って何だかんだでいつもの1〜2年が揃ってしまった。(パンダ先輩はお留守番。お土産のカルパスは買ってあげた)
唯は買ったチョコモナカのアイスを食べながら、歩き慣れたその道を進む。隣を歩く狗巻先輩は、ソーダ味の棒アイス。
前を歩くのは野薔薇ちゃんに真希さん、伏黒くんと虎杖くん。
コンビニからの帰り道。
高専の寮はもうすぐそこだった。
ちらりと見た狗巻先輩はラフなTシャツに黒のマスクを顎に下げて。片手で握った棒のアイスを口にして、夜空を見上げていた。
温かい風に、ふわりと靡く綺麗な髪。普段は見えない呪印の入った口元。ゆっくりと動く大きな首筋。
「ツナツナ」
ちらりと狗巻先輩の目線がこちらに向いて、目が合う。
「ツナマヨ?」
見惚れてた?なんて、悪戯に笑う狗巻先輩。
唯はわざとらしく目線を逸らして見せる。
「違いますっ」
…違くないけど。
フッと、隣で笑う小さな息遣いが聞こえた。
その声に唯は思わず顔を赤くする。
手にしていたチョコモナカを一口かじって。
気にしてない風を装って。
「何を…、見ていたんですか?」
唯の声に立ち止まり、狗巻先輩が夜空を見上げる。綺麗な星空を指で差した。
「明太子っ」
あ、と唯もそれに笑顔で頷いた。
「星が……」
言い掛けて、僅かに逡巡する。
星が、綺麗。
なんて事のない“言葉”。
その不自然に途切れた声に、狗巻先輩は唯を見た。アイスを片手に僅かに首を傾げている。
唯はそんな狗巻先輩を見上げた。
心臓が掴まれたようにぎゅっとなった。大好きなこの想いを、伝えてみたくて。でも、やっぱり恥ずかしくて。
唯は深呼吸をして、口を開く。
「星が、綺麗ですね」
微かに声が震えてしまった。
唯は狗巻先輩から目を逸らす。
緊張する事なんて何もない。
なんて事のない会話。気にする事もない。
相手に伝わらなければそれは、ただの会話なんだ、と。
真希さんや野薔薇ちゃん、虎杖くん、伏黒くん。みんなそれぞれ会話に夢中で、立ち止まった唯たちを気にする様子はない。
「…………」
唯は自分の手を夜空に伸ばす。少しだけ震える唯の手。
「星に手が届きそう、ってこう言う事ですね。ここが東京だなんて信じられないくらいです」
ぎゅっと空を掴んで握ってみる。
見上げた夜空は、とても綺麗な星空で。
そこに唯の手が伸びていた。
その視界に、不意に大きな手が入り込む。
男性の筋肉質な太い腕。唯よりもひと回り大きくて、白く長い指先。
ほんの僅か、くすぐるように唯の手に触れて。
「…狗巻先輩っ?」
唯の手の甲から、優しく包み込む様にぎゅっと握った。
「ツナマヨっ」
届いた、と楽しげな声。
唯の身体にぴったりと身体を寄せて。唯の心臓は跳ね上がる様に脈打つ。
手の甲から掴まれたように握られたその手は、するりと滑って掌を重ねる。指を絡ませて握り直された手は、とても温かい。
ゆっくりと下されたその手は、狗巻先輩に引き寄せられて。伏せた綺麗な瞳が、握られたふたりの手に近付く。
柔らかな唇が、そっと唯の手の甲に触れた。ちゅっと、小さな音が辺りに響く。
「…………っ!!」
僅かに顔を持ち上げた狗巻先輩は、目を細めて静かに笑った。
「しゃけ、ツナマヨ」
“ わたしも同じ気持ちです ”
End***
「星が綺麗ですね」
“ あなたは私の気持ちを知らない ”
“ あなたに憧れています ”