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    meepoJlo

    @meepoJlo

    呪術の狗🍙棘 夢小説をこそこそ書いています。

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    meepoJlo

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    勘違い普段隠れている部分が見えていると言うのはやっぱり不思議と気になるもので。



    唯は思わずその口元に目をやってしまった。
    左右には蛇の目の呪印。口の中に僅かに見える舌には蛇の牙。

    棘はポケットから取り出したスプレーの喉薬を慣れた手付きで口内に吹き掛ける。
    風に乗ってふわりと香るのは、ツンとした苦い薬の匂いだった。




    誰も居ない静かな公園。
    任務を終えてふたり、ベンチに座って補助監督の迎えを待つ。
    陽は沈み、いつの間にか辺りは暗くなっていた。街灯の灯りが心許無く揺れている。


    棘はスプレーを片手で膝元に下ろす。出したポケットに片付けてから、ネックウォーマーの端に手を添えて、口元を隠すように持ち上げた。

    唯はただ、意味もなくそれをぼんやりと眺めていた。
    持ち上がり隠れていく口元に。

    ーーいつもの棘くんだ。

    なんて思いながら。
    唯はその蛇目を見ていた。



    棘の手が途中で止まる。

    「…………?」

    ネックウォーマーから覗く口元に微かな笑みが見て取れた。
    はくはくと、その唇がゆっくりと動く。


     “ 見 す ぎ ”



    「…………っ?!!」

    はたと気付いて顔を上げれば、笑うその人と視線が絡む。

    思わず顔に熱が上った。
    冷静になって考えてみれば、男性の口元をじっと見ていたその行動に、湯気が出そうなくらい恥ずかしい気持ちになる。


    「…ご、ごめ…っ!なんか、つい…」

    煩く鳴る心臓を隠すように抑えて目を逸らすと、クスクスと笑う空気の揺れる音がした。

    怒ってはいないようで安心したけれど。
    その音にまた頬が熱くなる。

    「ツナ?」

    言って呼び掛けられ、覗かれるように傾げられた首に、唯はやはり顔を上げる事が出来なくて。

    「ツナー?」

    とんとんと、肩を叩かれる。

    「高菜」

    伸ばされたその手は唯の頬に触れた。
    温かくて大きな棘の手は指先でくすぐるように頬を撫でていく。

    こっちを見て、と言われているんだと理解するけれど。


    唯はふるふると首を横に振る。

    くすぐったくて。恥ずかしくて。
    近すぎるその距離感にどうして良いのかわからなくなる。



    「ツナマヨ」

    そうこうしている内に、頬に掛かる棘の手に、急に力が入る。

    「高菜!」

    痺れを切らしたのか無理矢理に手を引く。自分の意思には関係なく振り向かされれば、ジト目で唯を見る紫色の瞳。

    下げられたままのネックウォーマーから見える口元は僅かに綻んでいる。
    その指先で両頬に触れて。

    「すじこっ」

    餅を潰すように挟まれて掴まれる。

    「………むぅっ?!」

    予想外の急な動きに変な声が出てしまった。
    それには楽しそうに笑う棘。

    「…はに、ひてるの…!」

    溜息混じりに呆れたように呟く唯。
    そんな唯に、棘は肩を揺らして笑う。はなひて、と不機嫌に言えばその手は、簡単に離れていった。

    「いくら〜」

    ごめん、と軽口を叩いて笑う棘に唯は顔を上げた。ほんの少しだけ唯よりも背の高い棘を見上げる。

    「高菜」


    深い紫色の瞳が綺麗で。
    口元には蛇の目の呪印。僅かに開く唇からは、牙の印。
    普段はあまり見る事がない、同級生の整った顔立ち。

    見るな、と言う方が無理がある…。



    「棘くん?」

    気が付けば、棘は静かに唯を見ていた。
    ゆっくりとその綺麗な顔が唯に近付く。



    「高菜。ツナマヨ?」
      “もっと近付くで見る?”



    伸ばされたその手が唯の両頬に触れた。
    さっきと違って、力は全く入っていない棘の掌。それに固定されるように唯は動けなくなる。

    ドキドキと鳴る自分の心臓の音だけが、やけに大きく鳴り響くように聞こえている気がした。


    僅かに開いた薄い唇から、目を逸らす事が出来なくて。

    少しずつ近付くその顔にーー。

    「……っ…とげ、くん……?」

    唯は大きく見開いた。
    喉が詰まり、上手く息が出来ない感覚。

    いつの間にか笑顔のない棘の顔。
    ツンとした、良薬の匂い。


    何が起きているのかイマイチ理解が追い付かない。

    唯はその瞳をぎゅっと閉じた。


    男性ならではの大きな掌が唯の額を撫でる。そのまま柔らかく唯の髪を掻き上げた。

    その吐息に。温かな気配に。
    匂いに。

    彼の顔が目の前にあるのが、閉じた瞳からでも伝わった。

    「ツナマヨ」

    小さく聞こえたその声は、いつもよりも低くて。
    次の瞬間、柔らかな感触が唯の額にそっと触れた。

    ちゅ、と立てたリップ音が小さく、暗い公園に響く。

    「…………っ?!」

    慌てて真っ赤な顔を上げて目を見開けば、棘の顔はすぐ目の前にあって。
    唯を見る紫が光に揺れていた。

    唯は額を両手で抑える。

    「あ、の…えと……」

    やっぱり上手く出ない唯の言葉。
    視線を彷徨わせながら少しずつ俯いていく。

    暗く朧げな明かりに照らされた棘の顔を見れば、彼はペロリと舌を出して意地悪に笑って見せる。
    ーーやっぱり揶揄われているんだろうか。

    棘はネックウォーマーに手を掛けて、口元まで持ち上げた。

    「いくら」

    言うと正面に向き直り、座っていたベンチから立ち上がる。
    一歩進んで立ち止まった背中は、何処か遠くを見ているようだった。

    迎えの車はまだ来ない。



    始めからずっと煩く鳴り続ける心音は静まる事を知らなくて。
    唯は額の手を下ろす。赤くなった顔もそのまま、熱が冷める事は勿論ない。


    「………棘、くん…?」

    その背中に手を伸ばして、やっぱり止めた。
    呼んだ名前に返事はない。

    「…何で……?」

    ぎゅっとその手を握って、振り向かない彼に声を掛ける。

    「…そんな、風に…」

    近い距離で。
    友だち、なのに。

    「女の子に、悪戯ばっかりしてると…、いつか勘違いされちゃうよ?」

    真希ちゃんとか、他の人にもしてるのだろうか。
    パンダくんたちと戯れ合うように、近い距離感。

    「…私、だって…。勘違いしちゃう…」


    …なんて。
    気にしているのは、たぶん自分だけ…

    なんだろう。

    ほんの少し気になる同級生に。
    こんな風に触れられて。


    もしかしたら、なんて。

    勘違いしてしまう。


    唯は俯く。





    「しゃけ」



    いいよ、と告げた棘の言葉が上手く飲み込めず、唯は思わず顔を上げた。

    僅かに振り向き、視線をこちらに寄越す棘は、静かに目を細めて唯を見る。

    おにぎり語は大分理解出来ている、はずだった。
    しゃけ、おかかは本人に確認した事こそないけれど分かりやすい。

    …はず。


    でも、何を肯定されたのかよく分からなくて、唯は首を傾げた。

    「…………?」



    それに棘は息を吐く。

    「ツナマヨ、おかか」

    勘違いじゃないから、と。
    告げて棘は少しだけ目を伏せる。


    「しゃけ」

    いいよ、と。




    ネックウォーマーをぎゅっと掴み、もう隠れている口元から鼻先までを持ち上げる。

    「高菜」

    そのまま唯の顔を見る事はなく、公園の入口に目線を向けた。

    薄い明かりの中見えるその耳が僅かに赤い…気がする。



    「…………ど、」

    ーーどう言う、事なのか。

    心臓が弾けそうで。頭がぐるぐると回る。
    理解出来ているようで、その実上手く頭に入らない棘の語彙。

    「…棘くん…、それって……す、
    「ツナ!」

    言い掛けた言葉は、棘の声に掻き消される。
    棘は公園の入口を指差した。

    黒塗りの見慣れた車が道路の反対側に停まり、その運転席から手を振っているのは新田さんだった。

    「明太子」

    行くよ、と棘は唯に声を掛ける。
    何事もなかったようにいつも通りに唯を見てから歩き出す。


    「…ま、え?あ、待って棘くん」

    「おかかー」

    待つ気はないらしく、棘は足早に入り口に向かう。
    唯は小走りにその背中を追い掛ける事しか出来なかった。





    車に乗れば、座席に座り窓の外を静かに見るだけの棘。唯はその横顔をぼんやりと眺める。

    何ひとつ会話はない。




    「ツナツナ」

    呼び掛けに、はたと気付いて顔を上げれば、いつの間にかこちらを見ていた棘と視線が重なる。
    細くなる目元。

    ネックウォーマーに手を掛けて。
    見えた口元がまた、はくはくと動く。



     “ 見 す ぎ ”



    「…………っ?!」


    する、と伸びた指先が、シートの上に置かれた唯の手に触れた。
    ぎゅっと握られたその手は温かい。

    でも、逸らされたその視線に。



    …もしかしたらそれは。


    たぶん…

    勘違いじゃないのかも…しれない。







    End***














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