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    ライト

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    ライト

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    「夏の終わりのラクシ怪談ワンライ」
    和風ホラー、🦊しか出てこない

    てつなぎ「鳥居を潜る時は、手を離しちゃいけないよ」
     それは、ミスタが小さい時からの祖母の口癖だった。日課のように神社にお参りに行くおばあちゃんっ子のミスタと、それに嬉しそうに着いていく祖母。毎回鳥居を潜る度にそんなことを言われるものだから、ミスタはもう慣れたように祖母の手をぎゅうと握り締める。祖母の皺だらけの温かい手が、何よりも心地が良くて握っているのが好きであった。
    「ねぇおばあちゃん。なんで手をはなしちゃいけないの?」
     まだあどけない声でミスタが問う。祖母は、ミスタのまぁるい瞳を覗き込み、真剣な瞳で告げる。
    「それはね──」

     とある夏の日のこと。ミスタは、日課である朝のお参り……ではなく、夜の神社に祖母と一緒に訪れていた。今日は、年一度のお祭りの日。ミスタは、真新しい甚平を身に纏って石造りの階段を、てくてくと歩いていた。ミスタの右手は祖母の左手にしっかりと握られている。
    「ミスタ、なにか食べたいものはあるかい?」
     優しげな表情と声色で告げられた言葉に、ミスタは考え込むようにして足元を見る。りんご飴に、わたがしに、かすてらに、たこ焼き……あと、焼きそばも! 食べたいものがひっきりなしに浮かび上がってきて、ミスタはウゥと唸った。いっぱい食べたいけれど、幼いミスタの胃袋では全て入り切らないだろう。何が一番食べたいか、なんて全部に決まっている。どうしよう、どうしようと頭を悩ませていると、鳥居の方から声が聞こえた。
    「ミスタだ!!」
     隣の家に住む子供の声であった。暇な時に遊びに行く彼の声は、聞き馴染みがあってミスタは思考を霧のように散らせ、声の方向を見上げる。
    「来てたんだ!」
     そう問い掛けると、少年は思い切り頷く。どうしても、彼の元へ行きたくなって祖母の手を抜け出して走り出す。子供を止める力も、追いかける力もない祖母は、ミスタの名前を呼ぶことしか出来なかった。
    「ミスタ!!」
     祖母の声なんて聞こえないように、ミスタは危なげに階段を登り続ける。祖母からの注意も、一人で鳥居を潜った後のことも、何故か今のミスタの頭には無かった。今のミスタの頭の中にあるのは、はやく少年の元へ行くために、鳥居を潜ることだけであった。最後の階段に足をかけ、小さな身体で大きな鳥居を潜る。何だか久しぶりな気もする少年に抱き着こうと、ミスタが手を伸ばした瞬間に景色が暗転した。お祭りに向かう人々をすり抜けるようにして、ふらりと倒れる。意識が落ちる最後、ミスタが目にしたのは燃えるように真赤な鳥居であった。


    『きた、きた。ともだちがきた、いっぱいあそぼう』
     鈴の鳴るような声が耳に届いて、ミスタは目を開く。どうやら、鳥居を越えたあたりで倒れていたようで、もう空は真っ暗だった。何かを探すようにしてキョロキョロと辺りを見渡す。けれども、ヒトは誰一人として存在しない。
    「おばあ、ちゃ……?」
     おばあちゃんと言いかけてミスタは口を噤む。おばあちゃん、の言葉の意味がよく分からなくて首を傾げてしまった。それは誰なのか、それは一体どのような存在なのか。何も思い出せなくて、それが怖くてミスタは身体を抱えてその場で震えていた。自分の傍に誰もいない、夏だというのに寒気がして、ミスタはどうにかして寒さを凌げやしないかと思考する。けれども、まともな答えなんて出てこなかった。
    「だれか、いないの……」
     誰もいない空間に話しかけるようにして声を出す。
    『いるよ、いるよ』
     聞いたこともない声が耳に響く。ぱちくりと瞳を瞬かせて、ミスタは青空の色をした瞳を何度も顕にした。
    『かわいい、かわいいこ。あそぼうよ』
    「あそぶ……?」
     本殿のところから紅色の着物を纏った小さな女の子がやってくる。からり、ころり。聞きなれない下駄の音が地面に響いて、何故かそれがミスタの思考を奪っていく。木の匂いのするお香が、ふわりと鼻腔を擽った。
    『いっしょ、いっしょに。わたしとあそびましょ』
    「何をして遊ぶの?」
     先までの寒気はいつの間にかどこかへ消えてしまっていた。目の前の女の子と遊びたい、いっぱい遊びたい。気の沈んでしまうくらいに遊びたい。そんな衝動に駆られてしまってミスタはついこくりと頷いてしまった。
    『はないちもんめ、はないちもんめをしましょう』
    「はないちもんめ?」
     聞いたこともない遊びに、ミスタは首を傾げた。鬼ごっこや、隠れんぼ、缶けりをするものだと思っていたから。女の子は、ミスタの問い返しにこくりと着物についた鈴の音を鳴らしながら頷く。
    『はないちもんめ、みんなであそぶのよ』
    「みんな? でも、オレと君しかいないよ」
    『だいじょうぶ、だいじょうぶ。みんないるもの』
     女の子がそう言った瞬間、鳥居から、木々の間から、本殿から。数人の同じような着物を纏った女の子達が現れた。そんな普段じゃ有り得ないような光景を目にしても、ミスタはそれが現実であると信じて疑っていなかった。
    『あそぼ、あそぼ!』
    『なにするの?』
    『はないちもんめ!』
    『やったぁ』
     ミスタよりも幼い声が、神社の中で響く。最初に現れた女の子は、ミスタの手を引いて女の子の輪の中に連れていった。
    『おなまえは?』
    「名前? えぇと……ミスタ、ミスタ・リアス!」
    『みすた、みすた。いいおなまえ。あなたにぴったり』
    「君は?」
    『わからない』
    「分かんないの?」
    『うん、でも、でも。わからなくてもあそべるでしょう?』
     確かに、ミスタは頷いて訳も分からず両隣の女の子達と手を繋いだ。
    『かぁってうれしいはないちもんめ』
    『まけぇてくやしいはないちもんめ』
     頭に残るような音が、小さな女の子特有の少しだけ高い声がミスタの脳を侵食していく。
    『あのこがほしい』
    『あのこじゃわからん』
    『そのこがほしい』
    『そのこじゃわからん』
     もう、ミスタには楽しいという感情しかなかった。りんご飴も、わたがしも。何もかも忘れてしまって女の子達に合わせて前に、後ろに動く。
    『みすたがほしい』
    『みすたがほしい』
     唐突に名前を呼ばれたミスタは、どこか虚ろな瞳で瞬く。
    『たのしい、たのしいね』
    『あたらしいおともだち、おともだち!』
     きゃらきゃらと、声色の掴めない笑い声がミスタの周りを包み込む。友達、新しい友達が出来たのだ。
    「おれたち、ともだち?」
    『そう、そう』
    『じゅうごねんぶりのおともだち!』
     その言葉に、ミスタも嬉しそうに笑った。
    『もっと、もっとあそびましょ』
    『まりつきに、おにんぎょうあそび!』
    『いっぱい、いっぱい』
    『ずっとずっと』
     あそびましょ。ミスタの手を取って走り回る女の子達に、着いていく。名前も、言質も。何もかも取られてしまったミスタは、今や女の子達に仲間入りしたも同然であった。
    「あそびたい、たくさん」
     にっこりと、形の良い唇に笑みを浮かべて告げる。女の子達は、嬉しそうにかんらかんらと笑った。たのしみ、たのしみだ。くるり、くるりと花弁が天から落ちるようにしておどるミスタ達を見るヒトは誰一人としていない。彼女らを見守るのは、夜空にひっそりと浮かぶ赤い月と、真っ赤な、ほとばしる血のような色を誇る鳥居のみであった。祭りに足を踏み込んだ人間で、ミスタを知る人間も、誰一人としていないのだ。

     ──七つまでの子が、手を繋がずに鳥居を潜ってしまうと、存在をカミサマに奪われてしまうんだよ
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    Replies from the creator

    ライト

    MOURNING少年🦊が、地下牢に囚われた👹を見つけてしまう話

    途中で終わってます!!!!!!!
    籠の中の鬼 からり、ころり。下駄の音が冷たい空気に反射して返ってくる。明かりの何もない地下廊下は、夏だというのに凍ってしまいそうなほどに涼しかった。ちいちゃな提灯をぶら下げて辺りをキョロキョロと見回しながらも、確実に歩みを進めていく。茶鼠色の髪を誇った少年─ミスタが、今こうしてほの暗い地下廊下を歩いているのには、とある理由があった。
     村の名家の息子であるミスタは、立派な屋敷に住んでいる。それも、離れやら母家やらがあるような屋敷に、だ。

     その日はすることもなく大層暇であった為に、母親に何かすることはないかと問うたところ、蔵の掃除を頼まれた。蔵、と言えば過去の頭首の日記、武器、生活用品などがたんまりと収納してある。好奇心の絶えないミスタにとって蔵の中は楽園であり、そんなところの掃除を頼まれたとなれば喜んで引き受けたのだった。箒、塵取りやは雑巾など、必要そうなものを適当に見繕い、早足で倉庫に向かう。じりじりと夏の日差しが照りつける庭をぱたぱたと走るのはまァ少し辛いところもあったが、蔵のことを考えるとワクワクして仕方がなかった。
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