たのしい婚前交渉のすゝめ トーマという男には、稲妻とモンドの血が半分ずつ流れているという。
「その割には、というか比率こそ同じなのに、という意味ですが……オレはモンド寄りの容姿である気がします。まあ酒にめちゃくちゃ弱いところは、間違いなく稲妻の血が影響してるんでしょうがね」
いつかの酒の席で、綾人に酌をしながら言ったのは確かにトーマだった。ならばと酔ったふりをして、「ならお前は、タキシードと袴のどちらを着たい?」なんて訊いたことがあったな、と。
ほんの短い仮眠から、意識を浮上させた瞬間ふと思う。その時トーマはなんと言っていたか。綾人に向けられた表情は確かに、笑みと分類されるようなものだったけれど。
「……オレは若のそばにいますよ。結婚するつもりはありません」
1936