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    フラクシィ

    @Flaxy63322651

    自カプのちょっとアレな文とか絵とか。

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    フラクシィ

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    京アン。というか、ほぼ京介単体。姉さん喋らぬ。
    京介が重度のヤンデレを通り越して、最早、バケモン。
    いわゆる、「病み」要素もアリ。
    常識とかモラルとか、そんなもんは、どこにもない。ひたすら、ダーク。
    当たり前ですが、本来の京アンには、絶対にありえない設定です!!

    #京アン
    kyotoAnn

    わずらい姉さんが、風邪を引いた。

    …風呂上がりにあんな薄着でウロついて、挙句にそのまま寝るからだ。バカ。



    「今、ちょうど学生さんの間で、風邪が流行っているんです。特に、小学校や中学校あたりで…。
     ああ、アンジェリカさん、雷門中なんですねえ。ちょうどあのあたりの学区でも、風邪症状の患者さんが増えてきた所です」


    ……。あ、そう。

    和やかにそう話す女医を目の前に、俺は実に乾いた感想文を抱いた。文というか、ただのコメント。

    まあ、流行しているという事実があるとはいえ、姉さんが薄着で寝るのも絶対に原因のひとつだ。そこは譲れない。だから、風呂上がりはちゃんと服を着ろ、姉さん。


    会計を済ませ、処方箋を貰い、自宅に着く頃には、姉さんの様子は自宅を出る前より、明らかに悪くなっていた。

    ふらつく姉さんの身体を支え、靴を脱がせる。姉さんが細身だというのは、俺が主張せずとも既に周知の事実だが、それにしてもこの軽さは何だ?
    同じ距離を走っていたとしても、あの天馬を軽く引き離す健脚と、錦先輩より長く走る持久力を誇る、あの姉さんが…。

    …こんなに、軽いもんなのか?

    横抱きにした腕の中で、高熱のせいでもう半分ほど意識が無い状態の姉さんを見ながら、俺はそんなことを考える。



    朝に起こしに来るのが嫌で、最近は立ち入ることも少なくなった、姉さんの部屋。

    ベッドの上に、一旦、姉さんを転がしてから、聞こえてはいないだろうが、一応、一言断りを入れてから、クローゼットを開ける。

    ハンガーにかかっている服は、どれも「シワが寄ると不味い」とだけ判断されているもので、後は畳むだけ畳んで山積みにしているのみ。
    お世辞にも整理整頓が得意ではないという姉さんの、そんな大雑把な所が垣間見える。

    先の通り、姉さんの寝間着はキャミソールに短パンがデフォルトだ。パジャマとか、そんな寝間着らしいもの、見たことあったか?俺?

    雑に積まれた服の山を崩していきながら、これでもない、これも違う、と思いながら、探していく。
    女子用の洋服なんて、兄さんとふたりの男きょうだいで育った俺には馴染みの薄いものばかり。男子にも流行り廃りはあるが、女子の間に蔓延るそれの速度には負けている。気がする。
    日ごとに目まぐるしく変わる女子たちの様相など、俺には興味の無いことだ。俺にとっては、姉さんが好きな格好をして、嬉しそうに笑っていてくれれば。…ただ、そこに、変に色気づいた下心を隠して近付く羽虫共は、残らず潰す。

    あ。あった。これだろ。パジャマ。……タグ、付いたままじゃねえか…。いや、びっくりするほど安いな、オイ。小遣い、足りてねえの…?


    クローゼットを閉めて、今度はタグを切るために、ハサミを求めて、勉強机の方へ行く。

    綺麗なままの参考書が並んだ棚の前に置かれたペン立ての中に、目的のものを見つけて、引っこ抜く。所謂、ファンシー雑貨と言われる文房具たちからは遥かに遠い、良く言えば大人びた、悪く言えば地味なペン類。いま手に取ったハサミも、コンビニなんかで並んでいるような、パッとしないもので。

    ぱちん、と小気味の良い音を立てて切られたタグが、床に落ちた。ハサミを元に戻して、落ちてしまったタグを拾い、ゴミ箱へ投げ捨てる。
    飴玉か、はたまた、一口チョコレートか。そんな菓子類の包み紙だけが入ったゴミ箱を一瞥して、俺は今度こそ、姉さんのもとへ歩いた。


    いくら今の姉さんが病人でも、さすがに着替えは手伝えない。姉弟であっても、姉さんは女で、俺は男だ。何なら、血だって繋がっていないのに。
    こちらの声は一応、聞こえているらしい姉さんに、よく言い含めて、俺は一旦、部屋を後にする。階段を下りて、向かうのは、台所。



    スポーツドリンク、ゼリー、そして、処方箋の薬。…、一般的な総合風邪薬と、解熱鎮痛剤、…あ?なんだこれ?……セルベックス?

    携帯電話を取り出し、検索をかける。……あー、胃薬…。食欲が削がれることが多い風邪の場合、胃が荒れるのを防ぐ目的で、風邪薬とセットで処方されることが多いらしい。…飯はちゃんと食わせる予定なんだがな。まあ、いいか。医者の言うことは聞いておくべきだろう。今は、姉さんの風邪を早く治すのが、第一優先だ。



    扉をノックして、入室の合図を示す。声をかけるが、返事は無い。気を失ってたりしてないよな…?

    そろり、と扉を開けて、中へ入る。ベッドの上で、きちんとパジャマに着替えた姉さんが、身体を丸めて、苦しげに唸っていた。
    熱が高いので、単純にツライんだろう。…とか呑気に考えていた俺だったが、近付いて、姉さんの顔色を見た瞬間に、脳内の警報を察知する。

    持ってきたものを机に置くのもそこそこに、俺は慌てて、姉さんを抱き上げた。



    えずく姉さんの、苦悶の声を聞きながら、その背中をさする。
    便器の中に溜まった吐しゃ物は、今朝方、姉さんが何も食べていないことを示唆していた。……食欲、無いのか…。弱ったな…。

    吐くだけ吐いて、荒い呼吸を繰り返していた姉さんが、不意に俺の方へ視線を寄越す。冬の晴れ空を連想させるようだと、どこかの誰かが詩的に表現した、その青色の瞳は、何かを言いたげに俺を見ていた。俺が待っていると、唇が動く。
    消えるような声音に乗せられた、謝罪の言葉を聞いた俺は、安心させるために、その背中をもう一度さすった後、瞳と同じ色の髪の毛を、指先で梳いた。



    ベッドに戻った姉さんは、いよいよ余裕が無くなっている。顔色は当然悪いし、熱も更に高くなっていた。ただ、熱に関しては、今がピークのはず。このまま何事も無ければ、今夜あたり、下がり始めることは容易に想像がついた。
    今はただの風邪っ引きの姉さんだって、普段は、堅牢な肉体を持つサッカー選手だ。体育の授業でやるような1000メートル走すらロクに出来ない、そこら辺のひ弱なだけの女子とは、根本的に違う。

    ストローを差したペットボトルからスポーツドリンクを弱々しく吸い上げる姉さんの身体を支えながら、俺はおもむろに姉さんのヘアゴムを解いた。眠るなら、ヘアセットは崩した方が良い。どうせ髪の毛を結んだのも、病院に行くためだけのものだったのだから。その証拠に、いつもは欠かさずに着けている銀の蝶飾りは、今朝から、階下の洗面台の脇に置かれたまま。
    着飾る必要のない場面なら、無駄に飾る理由なんかない。ひどい風邪で弱り切った今の状態でさえも、姉さんの美貌は、いつもと変わらず感じることが出来る。

    薬を差し出すと、姉さんが明らかに拒絶する素振りを見せ始めた。驚いた。好き嫌いをしない姉さんが、まさか薬を嫌がるとか…。
    ただ幸いなことに、今回の処方箋は、薬特有の苦味やえぐみを感じる粉薬や水薬ではなく、全て錠剤。頭をぽんぽんと優しく撫でながら、言葉で宥めすかすと、症状が重い分、やはり背に腹は代えられないと悟ったのか、姉さんは薬を受け取り、一気に飲み下した。

    試しにゼリーを出してみたが、案の定、首は横に振られた。こればかりは仕方がない。胃の中を戻したばっかだし…。

    横になりたそうにしていたので、ゆっくりとその身体を倒してやる。布団を掛けると、姉さんの瞳が、また俺を見た。今度はなんだ?姉さん?
    さっきと同じく、俺は沈黙で待っていたが、結局、姉さんは何も言うことなく、目を閉じた。

    …おやすみ。姉さん。






    父さんと母さんが帰宅した後。夕飯とシャワーを済ませた俺は、姉さんの風邪の症状を円堂監督にメールで報告した。監督から了承の返事が来たことを確認し、俺は姉さんの部屋へと向かった。


    控えめにノックしたが、やはり返事は無い。寝入っているのか?だが、食事は叶わなくても、せめて病院の薬は飲んで貰わないと、困る。携帯電話を出し、時刻を見た。21時を回っている。…やはり、薬だけでも飲んで貰うしかない。
    静かに入室し、ベッドに近付く。姉さんは、眠っていた。満月による光しか差していない暗い部屋の中でも、その顔色が、昼間より随分と良くなっていることが分かって、ほっと胸をなでおろす。

    処方箋を取ろうと、机を見た時、そこに見慣れぬものがあることに気が付いた。
    そういうものに疎い俺でも分かる。チョコレート菓子で有名なメーカーのロゴが入った、小ぶりな四角い缶。

    姉さんは甘い物が好きだ。サッカー選手としてかなりストイックな性分だから、口に入れる量の節制こそすれど、ちまちまと摘まんでいることは知っている。
    そんなことを考えながら、机の上に視線を彷徨わせると、空になっているゼリーの皿があった。スプーンにも使用痕が見受けられる。

    食欲が湧いたのか。良かった。これなら、予想通り、明日の朝には熱が下がっているかもしれない。…ただ、当然、休日練習には行かせられない。さっき、監督からも、しっかりと休ませるように念を押されたばかりだし…。

    ただ。まあ、何と言うか…。ゼリーはともかく、チョコレートまで摘まむとか。…風邪を引いてるってのに、食欲があるからって。こんな時でも、我が道を行く様は、姉さんっぽいな…。

    クツクツと密やかに笑っていた俺だったが、何気なく見たゴミ箱の中身で、その笑みは瞬時に引っ込んだ。

    ……え?なんだこれ…?薬剤シート、だよな…?でも、処方箋のものじゃない…。

    ゴミ箱から拾い上げた薬剤シートに印字された名前を、携帯電話で検索にかける。……出てきた結果に、俺の背筋が凍った。


    ……睡眠導入剤…?なんだそれ…?………眠りの入りを促進する薬…?…神経内科、心療内科、精神科で、主に処方される…?


    衝動のまま、俺はチョコレート菓子の缶に手を伸ばす。もう、直感だ。
    蓋を開ければ、その中身は案の定、チョコレートなんかじゃなかった。捨てられていた薬剤シートと同じものと、それとは違うものがもう一種類、混じっている。量も多い。

    正体不明のもう一種類をピックアップして、また検索をかける。…今度はなんだよ?…チッ!電波が悪い…!


    逸る気持ちを抑えて、検索結果が出るのを待った。


    ……こっちは……精神安定剤…?……おい待てよ?嘘だろ…?


    画面に表示されたものと、手の中にあるもの。何度、見比べても、同じものだ。



    ……姉さん…、…姉さん……?



    怖々と、眠りこける姉さんの顔を見る。穏やかな寝顔だが、それが、この薬の効果によるものだと分かったいま、もう今までと同じ心境では見つめられない。



    震える手を伸ばして、姉さんの頬に触れる。風邪による発熱のせいで、あつい。ただ、指先は熱さを感じるのに、何故か脳がその事実を拒否する。

    ぐるぐると考え出す思考が止まらない。理性が崩れ落ちた音は、聞こえなかった。気がした。


    何が原因なんだ?何が悪いんだ?何を悩んでるんだ?

    誰がやったんだ?誰のせいだ?


    ……どこのどいつだ…?姉さんを、ここまで、追い込んだのは…!


    ぐしゃり、と耳ざわりな音を立てて、手の中の薬剤シートが潰れる。衝撃で中身の錠剤の何粒かが零れ落ちた。…だが、今はそんなこと、どうでもいい。


    記憶にある限りの奴らの顔を思い浮かべていく。こいつらは全員、姉さんに邪な視線を寄越しては、擦り寄ってきた、害虫共だ。もれなく潰してあるはずだが、俺にだって取りこぼしくらいはある。
    息を吹き返して、俺の視線を掻い潜ってきた奴がいるのか…?そうなのか…?

    百歩譲って、姉さんの美貌に釣られる気持ちは、分かる。……それでも、許さない。許しはしない。

    それなのに。外敵は潰しているのに。

    手折られないために。誇り高く咲き続けていられるために。



    その時。サイドテーブルに置いてある、姉さんの携帯が震えた。バイブレーションにしてあるようだが、姉さんが起きたら不味いので、沈黙させる意味を込めて、即座に本機のボタンを押す。
    窓に表示されたのは、メールアドレスの羅列。…登録されていないアドレスからの着信だ。

    ざらり、とした感覚を覚え、俺は姉さんの携帯電話を開いた。普段なら絶対にしない暴挙中の暴挙だが、この湧きあがった感覚は、明確に俺に告げている。…コイツは、黒だ。と。

    メールの内容は、姉さんへ向けた陳腐な口説き文句の数々と、今度は絶対に一緒に出掛けて欲しいという旨の一文。……「今度は」?「絶対に」?

    そのメールは一度閉じて、今度はメールメニュー画面を開く。発信元のアドレスの一部を入力し、受信ボックスの中に溜まっているメール全てに対して、フィルターを掛けた。
    そうして炙り出された件のアドレスから過去に受信したメール数通に、目を通す。

    思った通り。どれもこれも、姉さんへの一方的な恋慕の押し付けばかりの内容。反吐が出る。

    着信拒否にしない姉さんも姉さんだが、コイツはその優しさに付け込んでいるだけに過ぎない。姉さんは、悪くない。


    問題のメール全てを、俺の携帯電話へ転送し、フィルター機能の履歴は削除。開封したメールは、未読状態に戻して、姉さんの携帯電話を元の位置に戻した。

    そのまま、勉強机の椅子を引き出して座り、今度は自分の携帯電話を操作する。
    わざわざフォルダ分けをしているメールアドレスの中から、適当なヤツを数人見繕って、BBCでメールを一斉送信した。

    内容はこうだ。
    「このメールアドレスの持ち主の情報を、何でもいいから取ってこい」。こんな感じ。
    どうせ文面なんて、適当でいい。肝心なのは、このメールを見て、きちんと成果を挙げたヤツに対する、報酬。すなわち、ご褒美を与える、ということ。

    報告のメールを待っているこの間だけ。少し、脇道にそれるが。
    姉さんのような完璧な美貌と才覚ほどではないが。俺は自分の見た目もスペックも、他人より優れている自覚がある。まあ、実際に血を分けたきょうだいである兄さんを見れば、自覚も何もなく、自然と分かることだ。

    俺がまだシードだった頃。周囲からは恐怖の対象として見られていた俺に対して、言い寄ってくる女子がチラホラといた。当時は、俺を通してフィフスセクターに媚びてるんだろうと思っていたから、相手にしなかった。
    が、魔が差した、とでも言うべきか。ほんの暇つぶしのつもりで、適当に対応したことがある。ネットでよく見る、安っぽいエロ漫画にあったような、安っぽい甘い表情と台詞。
    すると、どうだろう。まるで催眠術にでもかかったかのように、その女子は、俺に従順になった。初めは、向こうも遊んでいるんだろうと思って、試す意味も込めて、無茶ぶりをしてみた。

    …結果は、上々だった。思わぬ発見をした。
    自分にはシードとして鍛えられたサッカーの技量しかないと思っていたのに。本当に使える手札は、自分自身の中、否、まさしく「外」にあった。

    ここまで言えば、もう後は分かるだろ?

    俺はシードとして実力と、フィフスセクターの後ろ盾だけで、立ち回った訳じゃない。
    俺は、俺自身を武器にして、勝手に媚びてくる女子たちを懐柔し、飼い慣らして、そいつらが持っている手札を利用していた。…いや、今もしている。現在進行形で。

    さっきの一斉送信したメールは、そうして今も尚、俺に従う女子たちへの「指令」だ。

    ただ、従順でも女子ってのは常にしたたかだし、俺だってバカな男じゃない。
    顎であれ、足先であれ、誰かを使うのなら、必要なものは「報酬」。俺が下した指令にそって働いた結果に見合った、ご褒美。

    ギブアンドテイク。

    今やってるこみたいな指令を受理した女子たちが動き、働き、情報なり成果なりを挙げてくる。そして、それを俺に報告してくる。
    俺はそれに対して、ご褒美を与える。ただの手放しの褒美じゃない。ちゃんと考えてる。

    何にでも言えるが、特に今回のような情報収集は、その正確さと速度が重要だ。
    いかに早く。いかに正確な。いかに重要な結果を出すか。――――…そして、それを認めた俺から、いかにして「ご褒美」を引き出すか。

    駆け引き。腹の探り合い。従順な女子たちだって、腹の底では分かってるはず。俺に利用されていることを。
    それでも、「利用されてもいい」、「永遠に従う側でもいい」。
    分かっているのに、そこまでしてもコイツらが求めているのは、俺からの「ご褒美」。
    渇いたその心に差す潤い。とは名ばかりの、安っぽくて甘い、形だけの愛の言葉。

    俺の心が姉さんに恋してからは、なるべく控えてはいるが。まあ、必要なら、キスくらいなら、全然してやってもいい。それ以上は、…正直、趣味じゃない。強請られることは、まあ、あるけど。いつも適当なこと抜かして、躱してる。

    「愛のカタチは人それぞれ」なんて言葉。実に都合が良いうえに、便利が良い。

    利用できるものは、何でも利用する。

    姉さんを守る。そのためなら。



    俺の手の中の携帯電話が、震えた。
    片手で開けると、僅かに感じる違和感。……あー、ネジ、だいぶ緩んできたな。二つ折りタイプは、ここがネックなんだよ…。いい加減、機種変もしたい。…そういえば、姉さんも同じこと言ってたか?風邪が治ったら、ショップに誘うか…。

    頭の片隅でそんなことを巡らせながら、受信したメールを開ける。
    へえ…。コイツが一番乗りだったか。意外だな。…いつもより多めに褒めてやるか。…ん?コイツは誉め言葉より、口説き文句の方が好きだったか?まあ、後でゆっくり思い出すか…。

    メール本文には、俺が指定した標的の情報が、びっしりと書きこまれている。
    雷門中2年生。バスケットボール部。元々タラシ気質だったが、レギュラー落ちしてからは、女遊びが更にひどくなった。他校の女子生徒(しかも彼氏持ち)に手を出したことがあり、レギュラー落ちの直接的な原因はコレだという噂が絶えない…。と。
    …ふぅん。女好きのバスケ部レギュラー落ち、か。加えて、男がいる女に手を出す、典型的な悪癖持ち。

    読んでいる間に、もう一通、受信した。今度は、そっちを開く。
    同じような情報が羅列されているが、こっちには更に面白いことが書いてあった。
    このレギュラー落ち野郎は周囲に隠しているが、コイツが泌尿器科のクリニックに入っていく所を目撃したらしい。…お。写メある。へえ。咄嗟に賢い判断が出来るヤツは、好きだよ。
    若い男、とりわけ、こういう遊び盛りのヤツが、泌尿器科を受診する理由は、余程のことが無い限り、ひとつしかない。所謂、「ビョーキ」だ。…責任持てねえ癖に、ゴム無しってヤッてんじゃねえよ。大バカ。


    これだけでも充分だな…。情報は多いに越したことはないが、こういう手口で集めすぎたものは、却って標的に疑われやすい。諸刃の剣。

    他の女子からの報告のメールを受信しては、震え続ける携帯電話を、サイレントモードにして沈黙させる。イマイチ、ネジが緩んでいることが否めない中途半端な感覚を手の中に感じながら、静かに携帯電話を折り畳んだ。




    椅子から立ち上がり、ベッドに近寄る。

    穏やかに眠り続ける、姉さんの、綺麗な顔。
    誰にも穢させたりなんてさせない。この美しい華は、穢れなど知らなくていい。


    ――――アンジェリカ。その意味は、「天使」。


    俺のランスロットも、同じ意味合いの文字を含む技を持っているが、残念。あっちには「ロスト」が付いている。

    ロスト。lost。…last?


    …俺だけでいいんだ。
    堕ちるのは、俺だけでいい。手を汚すのは、俺の役割。


    俺が、堕ちるから。

    姉さんは、いつまでも、フィールドを駆けまわって、あの青い空すらも飛べる勢いで。何も知らないまま。


    だから、せめて。

    恋い慕い、請い想うだけでも、許されたい。


    叶わなくても良い。…叶うというなら、勿論、全力で掴むけど。


    ねえ。姉さん。俺が、守るよ。

    風邪を引いたら、看病するし。不埒な虫は、潰して回るし。ストーカーが狙ってるっていうなら、撃ち落としてやるまで。


    薬のチカラに頼らないと眠れなくなってたとか…。姉さん、気が付いてあげられなくて、ごめん。俺、姉さんの弟なのに。誰よりも、姉さんの近くにいるはずなのに。

    一度、追い込まれた心は、なかなか取り戻せないと思うけど。…大丈夫。俺が、ずっと傍にいるから。今日みたいに、付きっ切りで看病するから。



    姉さん。俺の姉さん。

    大好きな、アンジェ姉さん。



    姉さんの、あの笑顔さえあれば。俺は何でも出来るから。

    誰を敵に回しても。姉さんが微笑んでくれるなら、俺はそれだけで良い。


    そのためなら。俺の何を武器にしたって構わない。


    例えこの先。どんなものに、わずらったとしても。




    ―――…ねえ?姉さん。……俺の心は、ずっと、あなたに恋してる。
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    😍😍😍😍💞💞💞💞💞💞❤❤❤❤💴💴💴💴💴💒
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